判決年月日 平成18年7月11日
裁 判 所 大阪高等裁判所第7民事部
事件番号 平成18年(ネ)第678号
事 件 名 損害賠償請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成16年(ワ)第1182号-第26号判決紹介その14)
控訴人(一審被告) ㈱コーワフーチャーズ
商 品 東工ガソリン、東工金
問 合 先 中嶋 弘(大阪弁護士会)
(事案の概要)
本誌第26号判決紹介その14の控訴審である。
一審被告が控訴し、①適合性の原則は、取引開始前の勧誘につき妥当し、取引継続段階では違法性を判断する際の補充的な要素と位置づければ足りる、②仕切を拒否した事実はなく、一審被告会社の制限を超える建玉要請は一審原告の意思に基づくものであり、一審原告の知識、理解及び資力等を勘案した、③両建に関して、担当社員から説明がなされたところ、一審原告側が知識の習得を怠った、④相場の動きに応じて臨機応変に対応する必要があり、また、ザラバ方式の下で特定売買の比率を論じることは意味が無く、無意味な反復売買はなかった、⑤過失相殺は認められるべきである、などと主張した。
(判決の要旨)
上記①について、商品先物取引協会が定めた「受託等業務に関する規則」3条3項は、「会員は、取引開始後においても、……適切な受託管理を行うものとする」と定めているなどするところ、これらの規定は、取引開始時点での適格、不適格だけを問題にしているのではないし、本件の事実関係に徴すれば、一審原告が本件のような取引を理解し遂行できず、これに適合しないことは明らかであり、また、そのような不適格性は一審原告が多額の損害を被ったことに強い関連性を有するといえるのであり、不適格性の問題を単なる補充的要素としてしか考慮しないのは、相当とはいえない、②について、いずれも証拠ないし本件の事実関係に鑑みて、認め得ない、③について、本件取引は、先物取引の経験のない一審原告に、取引開始3日で手持ちの資産のうち高い割合の金員を預託させ、取引開始後1ヶ月以内の間だけでも1200枚以上の大量の取引をさせたものであるところ、これは明らかに一審原告の理解、判断能力の限度を超える取引であり、実質上の一任売買というべきであり、そして、大量の玉を建て、相場の変動により顧客に多額の損失を被らせる危険を犯しながら一審被告会社に多額の手数料債権を生じさせる取引であり、最終的には一審原告に多額の損害(3000万円以上)を生じさせ、損害賠償法上も強い違法性を有するという他ない、④について、本件における特定売買の比率はあまりに大きく(69%)、短期間に極めて大量の取引がされて多額の手数料が取得されている、といった取引内容に照らすと、無意味な反復売買が多々あったといわざるを得ない、⑤について、本件取引の違法性は全体として極めて強く、他方、一審原告は、数回にわたる勧誘の結果、取引に参加しており、積極的に先物取引による利益獲得を目指したとまでは認められなく、一審原告の自己責任を問題にして過失相殺を認めることは公平であるとはいえず、また、違法行為をした一審被告らが過失相殺の主張をするのは、信義則上も相当ではない、などとして、いずれも排斥し、控訴を棄却している。
判決年月日 平成18年8月30日
裁 判 所 東京地方裁判所民事第5部
事件番号 平成17年(ワ)第8901号
事 件 名 損害賠償等請求事件
被 告 サンワ・トラスト破産管財人
商 品 外国為替証拠金取引
認 容 額 2850万5057円(破産債権の確定)
問 合 先 荒井哲朗(東京弁護士会)
(事件の概要)
本件は、破産したサンワ・トラスト(以下「サンワ」という)に対する不法行為に基づく損害賠償請求権について、破産管財人に対し、破産債権の確定を求めた事案である。
原告(昭和26年生まれ、主婦)は、平成16年4月ころからサンワで外国為替証拠金取引を開始し、合計約3800万円を預託していたところ、同年8月ころ、損失が増えてこれ以上継続しても利益が出ないと思い、手仕舞いの指示を出した。ところが、担当外務員は突然「7月12日に700枚建てた売玉が根洗損となっており、清算金をほとんど返金できない」と言って、証拠金の返還を拒絶した。原告は、同日の取引を行った覚えはなかったので、サンワに対し抗議をしたところ、サンワから「清算金は返還するが一筆書いてもらう」と言われ、800万円と引き替えにその余の損害賠償請求権を全て放棄する旨の合意書に署名捺印させられた。
原告は、上記合意は無効であると主張し、サンワに対して損害賠償請求訴訟を提起したところ、同社は、平成17年10月20日に破産宣告を受けた。原告は、損害賠償債権等を破産債権として届出たが、破産管財人から異議が述べられたため、本訴訟が受継されることとなった。
(判決の要旨)
本件の争点は、①7月12日に700枚の売建て注文があったか否か、②サンワとの間で交わした合意書が有効か否か、の2点である。
まず、①について判決は、7月12日以降に発行された報告書に当該取引の記載がないこと、これに対し被告は単なる入力ミスだと主張するが、入力ミスという主張自体、被告主張を裏付ける証拠の信用性を減殺するものであること、原告は、当該取引のことを告げられて抗議していること、700枚の売建てに対して必要な4200万円の証拠金が預託されていないこと、本来原告が受領すべきだった清算金は約580万円であり、サンワは約210万円の和解金と称する金員を上乗せして支払っていること等を認定し、原告から手仕舞いの指示を受けたサンワ担当者が、真実は行われていなかった700枚の売建玉を、実際に取引したかのように装って原告に告げたものであると判示した。
次に、②の点について判決は、被告外務員が架空の取引を作出した上で、和解に合意しなければ清算金の支払いを拒否すると述べて合意書に署名押印させたものであり、原告は、本件合意書に署名押印しなければ清算金の支払いが受けられないと申し渡された状況で、本件合意書に署名押印させられたと認定した。そして、当該合意について、原告には、サンワとの間に一切債権債務が存在しないという内容の清算条項を容認する内心的効果意思はなく、サンワ担当者はかかる原告の意思について故意又は過失があったとして、原告による錯誤無効の主張を認めた。また、かかる事情に基づき成立した合意をもって、原告のサンワに対する不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅したと主張することは権利の濫用に該当するとも判示している。
なお、本裁判では、原告とサンワとの間の取引に関する具体的な違法性等は争点となっていない。
(コメント)
本件も、取引終了後に不当に合意書が作成された事案であるが、客観的な事実から当該建玉の主張が架空であったと認定し、錯誤無効、権利濫用のいずれの主張も認められている点は、極めて妥当であるといえる。
判 決 日 平成18年9月20日
裁 判 所 大阪高等裁判所第4民事部
事件番号 平成18年(ネ)第676号(原審・大阪地方裁判所平成16年(ワ)第14628号)
事 件 名 損害賠償請求控訴事件
業 者 クレボ株式会社(以下「一審被告」という)
商 品 灯油、ガソリン、穀物指数
認 容 額 7315万1616円(うち弁護士費用650万円)
過失相殺 2割(原審・なし)
被害者側代理人 三木俊博・原啓一郎(大阪弁護士会)
(事件の概要)
本誌第27号判決紹介その2の控訴審である。
一審原告が、原審が認容した慰謝料300万円は低額であり、1000万円とするべきとして主張し、一審被告が、原審の事実認定には誤りがあり、①一審原告の先物取引の取引経験年数は4、5ヶ月でなく1年間である、先物取引において習熟期間を3ヶ月としているが、少なくとも4、5ヶ月の取引経験があることを重視すべきである、②先物取引の仕組み、危険性等の十分な説明がなされた、③口座設定申込書の投下資金可能額欄に「8000万円」と記載した原告の認識として「すぐに現金化できる資金」であると間違えた事実はない、④一審原告が先物取引を開始した動機は、情勢に乗じ自ら利益を得ようとしたためである、⑤鞘取り取引は、ローリスク・ローリターンの取引である、⑥一審被告の内部規則によれば、一審原告は投資不適格者ではないし、実質的にも投資適格者である、⑦一審原告が取引終了を申し出たことはない、などと主張した。
(判決の要旨)
一審被告の主張①について、一審原告の先物取引経験を4、5ヶ月と認定した上で、約26年も前に、わずか4、5ヶ月の間、先物取引をした経験があるとしても、当時の記憶も経験も既に本件取引との関係において有益であると言えず、また当時の理解度等は全く分からないのであり、取引経験を重視すべきであるとの前提を欠く、過去のわずかな経験が本件取引当時に生かせるとはいえない、新規委託者として保護されるべきであったとし、同②について、一審原告に対してされた説明の具体的内容、程度、方法等は必ずしも明らかではない、説明に使用された商品先物取引委託のガイドは32頁、別冊は22頁もあり、先物取引の仕組み等について特殊な用語を使用して説明されており、一般社会の者を基準とすれば、ガイドの説明を理解することは容易ではないとした上で、一審被告が先物取引についてひととおりの説明をしたにしても、世間話を交えながら2時間余り説明したにすぎず、十分であったとは到底言えない、「理解度アンケート」において一審原告が「理解している」旨回答していても、それは一審原告の主観的判断にすぎず、客観的な一審原告の理解度を示しているといえない、同③について、一審原告の年齢や収入からすれば、一審原告の資産は老後の生活に充てるべき資産であることは容易に想像がつき、かかる資産約1億円のうち8000万円を危険性の高い取引に投資することは通常はあり得ないから、すぐに現金化できる資金を記載したものに過ぎず、一審被告従業員もこれを理解できた、同④について、本件取引は、一審被告従業員の無差別的な電話勧誘から始まったので、自発的に始めたものではない、同⑤について、鞘取り取引は、単品銘柄の商品取引より相場を読むのが難しく、他の先物取引との比較においてローリスク・ローリターンであるかは疑問である、一審被告のパンフレットには、鞘取り取引は安全確実な取引方法であると記載されているだけであること等からして、鞘取り取引についても危険性を説明したとする一審被告の主張は認められない、一審原告が鞘取り取引の経緯を正しく理解していたとは到底言い難い、同⑥について、一審原告の取引経験は積極的に評価すべきでなく、その収入、資産状況等から見れば、その資産の多くをもって先物取引のような危険性が高い取引に投資させること自体が不適切で、経済合理性にも反することは容易に推し量ることができ、一審原告は、本件取引のような取引金額に関して明らかに投資不適格者である、同⑦について、老後の資産が短期間のうちに大きく減少しているのに放置していたとはおおよそ考えらず、取引終了の申し出に対し、一審被告従業員が直ちに従わず、損失を取り返そうという心境になるよう言葉巧みに誘導した、などとして、一審被告の勧誘行為に顕著かつ重大な違法があり不法行為に該当するとしたが、一審原告には、昭和52、3年頃の4、5ヶ月間、先物取引に100万円余りを投資して、50~60万円余りの損失を受け、自分の意思で取引を止めた経験があり、この経験から先物取引の危険性自体は十分認識していたとして、危険性を認識しながら安易に取引に関与したなどの点で過失があるとして一審原告の過失2割を認定した。また、慰謝料について、本件取引について被った財産的損害が賠償されれば一審原告の受けた損害は基本的に填補される、他に精神的苦痛に対し慰謝料を認めなければならない特別の事情が存在するとはいえないとして、300万円の慰謝料を認定した原判決を変更し、慰謝料請求を認めないと同時に、一審原告の慰謝料増額の請求を棄却した。
(コメント)
上記要旨①の新規委託者保護義務に関する判示は、当該規定の趣旨からの実質的な判断がなされており、さらにそれを踏まえての⑦投資不適格者だとする判示は、高裁レベルの判断として注目に値する。また、近年、業者がローリスク性を強調して勧誘することが多い鞘取引に関する判示⑤も、同種事案の被害救済の参考となろう。もっとも、一審原告を実質的に新規委託者さらには投資不適格者だとまで判示しておきながら「危険性を認識しながら安易に取引に関与した」との理由で過失相殺2割とするのは、木に竹を接いだ感が残る。
判決年月日 平成18年10月10日
裁 判 所 福岡地方裁判所第2民事部
事件番号 平成14年(ワ)第3373号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 スターアセット証券株式会社
商 品 ゴム、ガソリン、灯油、白金、コーン
被害者側代理人 大神周一(福岡県弁護士会)
請求金額 原告Aについて817万7216円(うち弁護士費用74万3383円)
原告Bについて253万6375円(うち慰謝料50万円、弁護士費用23万0579円)
原告Cについて1083万6622円(うち弁護士費用98万5147円)
(事件の概要)
1.当事者
原告Aは昭和16年生まれの男性(船員)で、株式の現物取引の経験はあったが、先物取引の経験はない。
原告Bは昭和25年生まれの男性(会社員)で、先物取引の経験あり(350万円くらいの損失)。なお、本件取引の期間中、うつ病の治療をしていた。
原告Cは、昭和16年生まれの男性(左官業)で、株式や投資信託を含め、一切の投資経験がなかった。
2.取引の概要
原告Aの取引は平成13年1月15日から同年5月30日までの間であり、取引対象は金、ゴム、灯油、白金、ガソリンであった。原告Aは前記取引で743万3833円の損害を被った(請求にあたっては、弁護士費用として損害額の10%を請求)。
原告Bの取引は平成12年6月26日から平成13年5月29日までの間であり、取引対象はコーン、ゴム、ガソリン、灯油、白金であった。原告Bは前記取引で180万5796円の損害を被った(請求にあたっては、弁護士費用として損害額の10%及び慰謝料50万円を請求)。
原告Cの取引は平成13年1月8日から同年5月28日までの間であり、取引対象はゴム、灯油、ガソリン、白金であった。原告Cは前記取引で985万1475円の損害を被った(請求にあたっては、弁護士費用として損害額の10%を請求)。
3.争点
(1)原告A
断定的判断の提供、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、特定売買の多用による手数料稼ぎ、閉鎖自己玉(差玉向かい)
(2)原告B
適合性原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反、受託業者としての保護義務違反・適合性原則違反、閉鎖自己玉(差玉向かい)
(3)原告C
適合性原則違反、迷惑・執拗な勧誘、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、特定売買の多用による手数料稼ぎ、閉鎖自己玉(差玉向かい)
(判決の要旨)
1.総論
(1)商品取引員等の注意義務について
商品先物取引の危険性を指摘した上、商品取引員は、①勧誘段階における適合性原則、②断定的判断の提供の禁止、③説明義務、④迷惑、執拗な勧誘の禁止、⑤新規委託者保護義務、⑥受託者としての保護義務、取引継続段階での適合性原則、⑦特定売買の多用等による手数料稼ぎの禁止といった注意義務を負うとした。
その上で、前記注意義務違反が不法行為の違法性を判断する際に斟酌されるとし、商品先物取引の勧誘から取引終了までの一連の過程を全体的に考察して違法性を判断すべきであるとした。
(2)閉鎖自己玉(差玉向かい)
差玉向かいによって委託者と商品取引員との間に利害相反関係が生じることを指摘し、差玉向かいには商品取引員において、自己玉の利益を図るために委託者に損失を生じさせるような勧誘をしたり、手数料稼ぎのために頻繁に取引を勧誘するなどの違法な取引の動機付けとなりやすいと述べた。
そして、本件は恒常的に売買取組高が一致又は近似していたことを認定し、顧客の損失の下に自己の利益を図る傾向が強い状況にあったということができるとして、差玉向かいの存在を違法行為の判断に積極的に使用することを宣言した。
2.原告A
(1)断定的判断の提供
原告Aに株式の現物取引の経験があったこと、説明をした被告会社の担当の人間に好印象を抱いて先物取引を始めるに至った経緯、説明の際にチャートや情報誌を示され、値動きの背景事情の説明を受けたことなどを理由に、認められないとした。
(2)説明義務違反
委託のガイドやパンフレット等を交付したことは認定した。しかし、これらの書面が先物取引の経験のない一般人が一読して了解できる内容でないことを理由に、前記書面を交付しただけでは説明義務を尽くしたとはいえないとし、書面の内容について詳しく解説していないとして説明義務違反を認めた。
(3)新規委託者保護義務違反について
原告Aが先物取引の仕組みや危険性を十分に理解していなかったこと、取引開始わずか7日後と言う先物取引に習熟したとは考えられない時期に建玉制限を越えたことから、原告Aの同意は形式的なものであったと認定し、新規委託者保護義務違反を認めた。
(4)特定売買について
一部に原告Aが主体的に取引を行った部分があると認定しながら、手数料化率が230%にも及ぶこと、異常に多額の入金や大量の建玉が取引内に散見されること、全取引133回のうち被告が自認する特定売買だけで13回にも上ること、両建(近接した限月又は近接した枚数で反対建玉を建てた場合も含む)が36回にも上ることを理由に、(1)ないし(3)の行為もあわせて総合考慮すると、被告会社の行為は手数料稼ぎのための違法な行為であると認定した。
(5)過失相殺について
投資について一定程度の適合性を有すること、主体的に取引に取り組んでいた一面もあることなどから、3割の過失相殺をした。
3.原告B
(1)適合性原則違反について
うつ病であった場合、先物取引を行うにふさわしい状態であったとはいえないと認定した。しかし、うつ病が外見から判断しにくい精神的疾患であること、原告Bが自己の勤務先で先物取引の話を被告会社の担当としていたことなどから前記被告会社の担当が原告Bの病気を認識できないとしても無理ないと述べ、勧誘段階における適合性原則違反は認定できないとした。
(2)断定的判断の提供
被告会社の担当が「コーンは必ず値下がりする」と述べたことを認定したが、実際に値下がりしている事実を示したこと、原告Bが先物取引の経験を有していたことなどを理由に違法な断定的判断の提供をしたとは認められないとした。
(3)説明義務違反について
原告Bが先物取引で損した経験を有していたことを重視し、原告Bは先物取引の危険性を認識していたとした上で、資料が送られてきたこと及び車中で説明を受けたという事実があっただけであっても、先物取引の仕組みや危険性について十分な説明をしないまま受託契約を締結したとは認められないとした。
(4)受託業者としての保護義務違反、適合性原則違反(取引段階)
委託者がうつ病で入院したという事実を知った場合は、原則として先物取引の勧誘・受託を止めるべきであると判示した。しかし、原告Bは取引に際し、被告会社が提供する情報等を参考に控えめに建玉をしていたこと、入院に際して病名を告げなかったこと、入院時に既に仕切らなければならない建玉が残っていたのであるから、入院後にこの仕切りを受託したことはやむをえないこと、そのほかに入院時になした取引は枚数が少ない上に利益が出ていること、取引に際し特定売買があった事実はないことなどを理由に、原告Bについての取引に違法性はなく、保護義務違反・適合性原則違反は認められないとした。
4.原告C
(1)適合性原則違反
複数の従業員を雇用して左官業を営んでいたこと、所有するアパートを賃貸していたことなどを理由に、先物取引をする適格がないとまではいえないと判示した。
(2)迷惑、執拗な勧誘について
原告Cが断ったにもかかわらず、何度も訪問したり、電話をかけたりして勧誘したと認定し、迷惑、執拗な勧誘があったと判示した。
(3)説明義務違反等について
原告Cに投資経験がなく、先物取引の知識をまったく有していなかったこと、「ゴムは今が時期です」「絶対儲けさせます」「絶対に損はさせない」等の断定的文言を使って勧誘したこと、「約諾書」兼「通知書」等に署名・押印させたこと、原告Cは一度も商品先物取引についてゆっくりわかるように説明を受けたことはなかったこと、後日450万円の入金を心配して被告会社を訪れたことなどを理由に、受託契約締結の時点で原告Cが商品先物取引の仕組みや危険性を具体的かつ十分に理解していたとは認められないとした。
その上で、被告会社側の説明義務違反があったことを判示した。
(4)新規委託者保護義務違反について
原告Cが勧誘段階において先物取引の仕組みや危険性を十分に理解していなかったこと、取引開始後わずか6日という一般的にも先物取引に習熟したとはいえない時期に建玉制限を越える取引が行われたことを理由に、たとえ委託者側に取引への意欲があったとしても受託者としては慎重に取引すべきであったと述べ、新規委託者保護義務違反を認めた。
(5)特定売買等について
原告Cはほぼ全面的に被告会社の勧めにしたがって取引をしていたこと、手数料化率は112%にも及ぶこと、原告Cは「両建」や「難平」の具体的な中身や効果について理解していなかったこと、具体的な相場の見通しより被告会社担当の断定的判断の提供等によって取引を行っていたこと、入金も勧められるままにしていたことなどの事実を認定し、被告従業員らの行為には単なるアドバイスを超えた合理性のない強い勧誘行為があったと判示した。
そして、全取引69回のうち特定売買の回数は被告会社が認めているだけでも、17回あること、両建も13回あることを理由に、ほかの各行為と総合考慮した上、被告会社の一連の行為は手数料稼ぎを目的とした違法なものとした。
(6)過失相殺について
被告会社従業員の強い勧誘によるものとはいえ、安易に多額で多数回にわたる取引を繰り返してきたことを理由に、2割の過失相殺をした。
(コメント)
本判決は、原告が3名の事案であり、論点は多岐に渡るが、閉鎖自己玉(差玉向かい)についてわざわざ別項を設けて詳細に検討し、取引の違法性の判断に際して積極的に使用していることが注目すべき点である。
判決年月日 平成18年10月19日
裁 判 所 大阪地方裁判所第25民事部
事件番号 ①平成17年(ワ)第359号
②平成17年(ワ)第3715号
事 件 名 ①差損金請求本訴事件
②損害賠償請求反訴事件
本訴原告(反訴被告):㈱大平洋物産
商 品 トウモロコシ
請 求 額 ①39万4240円
②1299万8250円(うち弁護士費用130万円)
認 容 額 ①0円
②1299万8250円(同上)
被害者側代理人 山㟢省吾・加藤恵一(兵庫県弁護士会)
(事案の概要)
経歴等:本件当時70歳。最終学歴は高校卒業。平成2年に定年退職後無職。
資産等:収入は基本的に年金のみ。本件取引開始当時の預金は1000万円程度。
取引経験:先物も株式もなし。
取引期間:平成16年7月27日〜同年11月19日(売買回数44回)
主な争点:本件取引の違法性(適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、断定的判断の提供、特定売買、仕切拒否、無敷き)、過失相殺、差損金請求(①)の信義則違反
(判決の要旨)
1.適合性原則違反・新規委託者保護義務違反
前記委託者の属性。投資予定額を超えて取引する場合、変更届を徴収することとしているが、これを行わないまま追加取引を受託。内部規定で定める500万円を超える証拠金の預かり。断定的判断の提供など強い働きかけによる取引の拡大。以上に鑑みれば故意に基づく悪質な義務違反がある。
2.断定的判断の提供
投資予定額は8月5日には1000万円へ、8月19日には1600万円へと増額された。10枚分の取引で参加を決めたが、約3ヶ月後には217枚の両建て状態となっていた。異常とも言える急速な取引拡大から、受託者の強い働きかけがあったことが容易に推認できる。その他メモに利益が出る場合の記載しかない等の事情から断定的判断の提供を認定。
3.無敷き・仕切拒否
無敷き及びそれに続く仕切拒否を認定。取引を全て仕切るためには不足している証拠金を納めるのが原則ではあるが、証拠金不足の原因となった取引が、受託者が半ば独断で行った違法行為の一環であることを考えれば、委託者が証拠金を納めないからと行って仕切拒否は許されない。
4.違法性についての総合判断
前記1乃至3を綜合すれば、その余につき判断するまでもなく全体として違法。特定売買比率が55.6%と高かったことも違法性を裏付ける。
5.過失相殺
本件取引は、受託者の暴利行為であると同時に故意の詐欺的取引であると評価できる。そして、かかる場合、受託者の断定的判断の提供等の詐欺的行為は被害者である委託者の過失を導くことに向けられているから、損害の公平な分担という過失相殺の理念に照らして、到底過失相殺は許されない(判決は、委託者は受託者のコントロールを受けていた、「いわば」「掌の上にあったというに等しい」と評価し、そのような評価をさけたいのなら「異常なほどの短期間における急激な取引の拡大と断定的判断の提供を厳に慎むべきである」旨述べている)。
6.差損金請求の信義則違反
勧誘及び受託が故意の詐欺的取引と同視でき、本件取引が全体として暴利行為としての公序良俗に反するとの評価がされるべきであるとして、信義則違反を認定。
(コメント)
本件取引を暴利行為かつ故意の詐欺的取引であると評価し、過失相殺を全く認めなかった点で着目されるべき判決である。また、判決の中では短期間の急速な取引拡大という事情が違法性の肯定に強く働いているように見える。
判 決 日 平成18年10月19日
裁 判 所 名古屋高等裁判所民事第4部
事件番号 平成18年(ネ)第165号損害賠償(原審 名古屋地方裁判所平成14年(ワ)第4207号、平成16年(ワ)第4976号)
事 件 名 差損金請求控訴事件
業 者 タイコム証券株式会社(以下「被告」という)
認 容 額 1571万6775円
差損金認容額 63万8698円
過失相殺 5割
被害者側代理人 浅井岩根・鋤柄 司(愛知県弁護士会)
(事件の概要)
年 齢 等:40代男性
経歴・職業:大学経済学部卒業、会社員を経て、税理士となり税理士事務所開業。税理士として約11年の経験。本件取引後も税理士として稼働。
資産・収入:資産4650万円(うち流動資産1700万円)、年収1500万円
負 債:5400万円(住宅ローン及び事業借入金。返済は順調)
投資経験:先物の経験なし。
損 失:2863万3550円
差 損 金:127万7397円
(判決の要旨)
1.新規委託者保護義務違反
被告は、新規委託者保護義務違反に関し、①両建による危険性の減殺により実質的建玉超過数は減少する、②習熟期間の建玉の結果は200万強の利益となっているから、過大な建玉ではないと主張する。
しかし、新規委託者保護の趣旨からすれば、取引未経験者が商品先物取引についての十分な判断能力を形成する前に取引を拡大して損失が多額となることを回避すべきところ、その際に両建における危険性の減殺を考慮すべきではない。また、被告は習熟期間内に両建や難平を勧めて405万円の委託証拠金、107枚の建玉、仮差引損243万円を生じさせて、その後の取引拡大の基礎を作っているから、習熟期間の建玉の結果が利益となっているからといって、新規委託者保護の趣旨に反せず違法でないとは言えない。
2.断定的判断の提供
取引開始時には断定的判断の提供は認められないが、被告が推測していた投資可能金額1000万円を超える値洗差損金が発生して追証が次々と必要となった段階で、原告には具体的に建玉を指示する知識能力がないことを知りながら、「相場は絶対に回復します。」、「私はゴムが得意で自信があります。この前も大損していた人をゴムで助けてあげたんですよ。」、「ここを乗り切れば後で良かったと絶対に思います。ゴムでまかなえます。」などと損失を回復できることが確実であるような判断を示し、損失を取り戻すためには被告の勧める取引をする他ないとの心理状態に追い込まれていた原告をして、これを無批判に受け入れさせ取引を継続させた。これらの被告の言辞は先物取引の勧誘行為として是認できない断定的判断の提供といえる。
3.途転の定義
農水省は、チェックシステムの導入に伴い「委託者売買状況チェックシステムの実施に関する細目」を定めて途転について定義しており、チェックシステムによる形式的・客観的アプローチによって違法性を判断すべきであるから、商品取引員管理者部会作成の定義は採用できない。
4.過失相殺
加害行為が故意であるからといって当然に過失相殺が排除されるとは言い難いこと、先物取引は基本的には委託者の自己責任においてなされるべきところ、本件取引においては原告の意思に反して取引がなされたわけではないこと、被告の判断に依存するばかりで自ら先物取引についての理解を深める努力をすることなく損失の回復にこだわってつぎつぎと資金を追加して本件取引を継続しており、損失の拡大に原告の行為が一定程度関与していることも認めざるを得ないから、過失相殺率5割とする。
(コメント)
税理士事務所経営者であっても具体的に建玉を指示する知識能力はないとして損害賠償を認めたこと、新規委託者保護義務違反に関する再反論、値洗い損発生後における断定的判断の提供、農水省のチェックシステムの定義の採用は今後の実務において参照、引用することができる。
(第1審)
判決年月日 平成16年9月15日
裁 判 所 広島地方裁判所呉支部
事件番号 (本訴)平成14年(ワ)第24号
(反訴)平成14年(ワ)第121号
事 件 名 (本訴)債務不存在確認請求事件
(反訴)損害賠償反訴請求事件
原 告 オリエント貿易株式会社
被害者側代理人 大深忠延(大阪弁護士会)
反訴請求金額 1281万4150円
結 論 本訴却下、反訴棄却
(控訴審)
判決年月日 平成18年10月20日
裁 判 所 広島高等裁判所第2部
事件番号 平成16年(ネ)第460号
事 件 名 債務不存在確認請求、損害賠償反訴請求控訴事件
被害者側代理人 大深忠延・柴崎祥仁(大阪弁護士会)
被控訴人 第1審原告と同じ
請求金額 2755万1750円(控訴審で拡張)
認 容 額 2338万4225円
過失相殺 1割
(事件の概要)
経歴等:本件当時53歳。定時制高校卒。旋盤工等を経て、米軍警備隊勤務(妻の実家が経営するプロパンガス業の手伝いと兼業)。
資産等:年収約1200万円、預貯金約4500万円(但し、大半は亡妻の死亡保険金)、土地建物(自宅及びプロパンガス業の事務所の他、貸家としている2軒の家屋とその敷地)。
投資経験:商品先物取引の経験なし。投資信託の経験すらなかった。
取引期間:平成13年9月20日~平成14年1月21日
商 品:東工原油、東工灯油、東工ガソリン
主な争点:(第1審)適合性原則違反、不当勧誘、新規委託者保護義務違反、断定的判断の提供、説明義務違反、証拠金徴収義務違反、両建の勧誘受託、仕切拒否、無意味な反復売買、一任取引、向い玉の存否と違法性
(控訴審)第1審の争点に加え、損害論(帳簿利益に対する所得税及び住民税は損害に含まれるか)。
(控訴審判決の要旨)
1.適合性原則違反
ア 控訴人は、商品先物取引を行うことについての適合性がなかったとまでは言えないが、適合性は相当に低いので、被控訴人担当者において、分かりやすく時間をかけて説明をすることは当然として、取引内容も慎重かつ限定的なものとすべき注意義務があった。
イ 被控訴人の新規委託者保護規則では3か月の習熟期間を設けて50枚以下又は投下可能額の7割以下との制限を定めていたが、本件では初回建玉後3か月間新たな取引は全くなく、3か月経過直後から多数多額の取引が実行されており、適合性原則違反がある。
2.新規委託者保護義務違反
ア 上記1イと同様の理由により、新規委託者保護義務違反は明らかである。
イ なお、控訴人は、3か月の保護措置期間中に別会社で商品先物取引を開始しているが、その取引数量は、被控訴人との取引での膨大な数量に比べると少量であり、控訴人が商品先物取引に習熟したとは認められない。
3.無意味な反復売買
本件取引では、手数料額と控訴人が差し入れた証拠金とがほぼ匹敵しており、特定売買比率も相当に高い。
そして、控訴人の知識・経験・能力等からすると、本件取引は、被控訴人担当者が取引の方向性を口頭で概括的に説明し、控訴人から一応の包括的な承諾を得て、膨大な取引を繰り返したとしか考えられず、一任売買に近い取引であったと認められ、違法の評価を免れない。
4.損害論
ア 控訴人は、本件取引全体としては約1200万円の損害を被ったが、平成13年12月末時点では相当額の帳簿上の利益が存在したため、所得税約930万円、同過少申告加算税130万円、住民税280万円の合計約1340万円が課税された。
イ 被控訴人担当者の不法行為がなければ上記課税がされることはなかった。本件のように12月から1月にかけて短期集中的に多額の先物取引が行われた場合には、通算すれば損害が生じているのに税法上利益があるとして課税されることは想定され得る事態である。そして、この集中的取引は前記のとおり一任売買に近いものであった。
ウ これらの事情からすると、上記課税額についても控訴人担当者による不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。
但し、過少申告加算税については、控訴人が申告することにより課税を避けることができるから、相当因果関係は肯定できない。
(コメント)
帳簿利益に対する所得税及び住民税が損害にあたるとした点で価値のある判決である。
また、一審で請求棄却であったにもかかわらず、控訴審で過失相殺1割の認容判決を得たという点では、最後まで諦めず粘り強く争うことの重要性を示すものとして価値のある判決である。
判決年月日 平成18年10月26日
裁 判 所 大阪地方裁判所第22民事部
事件番号 平成16年(ワ)第12757号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 第一商品株式会社
商 品 東工金、白金及び大阪アルミ
認 容 額 685万8219円
過失相殺 4割
被害者側代理人 村本武志(大阪弁護士会)
(事案の概要)
原告は、昭和19年生まれ(取引当時59歳)の女性(高卒、パート)で、株式・先物の経験なし。夫の退職金の一部を資産保全のために金の現物で持っておこうと考え、第一商品で金地金を購入したところ、担当者から度々先物取引の勧誘を受けて取引を開始した。
本件取引は、平成16年1月から同年4月までの間に原告が約1040万円(うち手数料は約353万円)の損害を被ったという事案である。本件の特色として、取引開始後に損失が拡大したため、担当外務員が両建を勧誘したところ、原告はあくまで追証で対応したいと述べたのに対し、担当外務員は、両建を外すのが困難になるケースはまずありえないと説明し、両建をさせたことがあげられる。
(判決の要旨)
1.不招請勧誘
一般論として「勧誘した顧客がその委託をしない旨を表示したにもかかわらず、執拗に勧誘し、その態様が悪質な場合に民法上も違法として不法行為を構成し得る」と述べたものの、本件では、原告が担当外務員の訪問を断っていなかったことや、訪問が月に2、3回程度であったことなどから違法性を否定。
2.適合性原則違反・新規委託者保護義務違反
原告の職歴、投資経験から先物取引を行う知識が不十分であったこと、委託証拠金として用いられた資金は、夫の退職金で老後資金又は葬式費用であったこと、原告の投資意向として大きな損をする危険性のある取引をするつもりでなかったこと、原告の年収が100万円程度であったのに、担当外務員が年収300万円と過大に記載させたことから適合性原則違反を認定。また、このような原告の属性からすれば、取引中も原告の習熟度に応じて取引量を調整する必要があったとして、新規委託者保護義務違反も認定。
3.説明義務違反
担当外務員が一通りの説明をしており、原告は抽象的に先物取引の危険性を理解しているとして、一般的な説明義務違反は否定したものの、アルミの両建について、両建の後に解消方法を誤れば追証で対応するよりも損失が発生することについて原告が十分理解していなかったとして、説明義務違反を認定。
4.両建勧誘・受託
両建そのものの違法性は否定したものの、上述のように両建の説明義務を尽くさないまま両建を勧誘・受託した点に違法性があると認定。
5.その他の違法要素
断定的判断の提供、不実表示、信認義務(両建の際の自己玉取引)、一任売買を主張していたが、いずれも否定。
6.過失相殺
原告が外務員の説明を聞いて抽象的にはリスクを理解していたこと、売買報告書等に目を通して取引を終了させ、損失を食い止めることはできたことを理由に4割の過失相殺をした。
(コメント)
両建の経緯について詳細に認定をした上で、両建のデメリットを十分に顧客に理解させなければならないとして両建の説明義務違反を認めた点は評価できる。ただ、原告が抽象的にリスクを理解していたことや抽象的に損失回避できたことを理由として4割もの過失相殺をすることには、やはり疑問が残る。
判決年月日 平成18年10月30日
裁 判 所 東京高等裁判所
事件番号 平成18年(ネ)第1081号
事 件 名 損害賠償等請求控訴事件
会 社 名 株式会社サンワ・トラスト
取 引 外国為替証拠金取引(アメリカドル、ユーロ、オーストラリアドル)
被害者側代理人 荒井哲朗・國吉朋子・高畠希之・金坂 翠(東京弁護士会)
(事件の概要)
本件は、原告(被控訴人)のサンワ・トラストとの外国為替証拠金取引において、被告取締役らが架空の取引を作出して原告の金員を領得したとして、同損害につき、同社の代表取締役及び取締役2名(合計3名)に対して、民法719条の共同不法行為責任及び旧商法266条の3の取締役の第三者責任に基づき、損害賠償を求めた事案の控訴審である。控訴人は、上記取締役らのうちの代表取締役1名で、他の2名は控訴していない。
原審は、被告ら(取締役ら3名)に不法行為責任及び取締役の第三者責任を認め、かつ、取引終了時に、原告とサンワ・トラストとの間の精算金を含めた800万円の支払で和解するという合意については、原告に、原告とサンワ・トラスト間に一切債権債務が存在しないという内容の精算条項を容認する意思がなかったものと認定して、損害2782万5000円のうち既払金を控除した2561万1350円、弁護士費用260万円を認容した。本判決は、原審の結論を維持し、控訴人(代表取締役)の控訴を棄却した。
(判決の要旨)
原審は、架空取引の作出に直接関与した取締役A及び同取引が架空のものであることを知りながら、取締役Aとともに、原告に対し、和解に合意しなければ精算金の支払を拒否すると述べて、原告に和解を迫った取締役Bに対して、共同不法行為責任及び取締役の第三者責任を負わせた上、更に代表取締役であった控訴人についても、部下である取締役ABらに対して営業対象や方法について指示していたこと、及び、同和解の決済権限を有していたことを認定して、共同不法行為責任及び取締役の第三者責任を認めた。
本判決は、控訴人代表取締役の責任の有無が争点となったが、以下の点を列挙して架空取引や和解合意に直接関与していない代表取締役の責任を認めた(問題となった取引が架空のものであったこと、及び、取引終了時の合意にかかわらず損害賠償請求が可能であることについては、争いなし)。
1.会社の規模
本判決は、当時のサンワ・トラストの規模として、役員として上記3名のほかに1名の取締役と1名の監査役がいたこと、20名程度の従業員がいたことを挙げ、同社が控訴人の設立した小規模な会社であると認定して、そのような同社の規模と後述する指示系統から、控訴人の責任を導いた。
2.全権を掌握していたこと
サンワ・トラストにおいては、控訴人代表取締役がその事業執行の全権を掌握し、取締役ABらの部下に対し、営業対象や方法について指示し、重要な事項についてはすべて決済していたこと、本件架空取引についても、取締役ABらから報告を受けていたことを認定し、「サンワ・トラストの最高責任者である代表取締役として、架空の本件問題取引の作出を認識認容していたものと認めるのが相当」であるとした。
以上から、本判決は、控訴人の他の取締役らとの共同不法行為責任を認め、更に、「控訴人は、サンワ・トラストの代表取締役として、企業の健全運営に意を尽くし、取締役であるA及びBの業務執行につき注意を払い、本件問題取引のごとき架空の取引を作出して顧客に損害を被らせないようにすべき注意義務を負っていたのに、悪意若しくは重過失によってこれを怠」ったとして、旧商法266条の3の取締役の第三者責任を認めた。
(コメント)
代表取締役という直接手を出していない黒幕に対しても、共同不法行為責任及び取締役の第三者責任を認めた点で、事実を的確に把握し合理的な判断をした判決であるといえる。
判決年月日 平成18年10月31日
裁 判 所 大阪地方裁判所第20民事部
事件番号 平成16年(ワ)第13076号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 岡藤商事株式会社
商 品 灯油、ガソリン、白金、原油、軽油、ゴム、金、銀、アルミニウム、コーン、とうころこしオプション
被害者側代理人 西川道夫・三木俊博(大阪弁護士会)
(事案の概要)
経歴等:76歳。理工系の専門学校卒業。長年公衆浴場を経営していた(平成14年4月廃業)。
取引期間:平成15年6月24日~平成16年4月21日(商品先物取引)
平成15年10月31日~平成16年7月31日(とうもろこしオプション)
投資経験:戦後間もない頃から株式投資を始め、株式の信用取引の経験有り。本件取引前に入や萬成証券との間で先物取引の経験有り(益勘定で終わっている)。さらに本件取引開始3週間後に再度入や萬成証券と先物取引を始め、本件取引終了2週間後、フジフューチャーズとの間で先物取引を行っている。
取引の概要:① 被告の商品投信を行い始めた原告が、その後、被告からサヤ取引をすれば安全で確実に利益が得られると言われ、灯油とガソリンの先物取引(サヤ取引)を勧められた。税金対策上の関係から平成15年9月までに投資金全額を返還してくれるとの約束のもとで、原告は先物取引(サヤ取引)を行い始めた。
② 1回目の委託証拠金を入金した後直ぐに、被告から他の商品も手広くした方がより安全性が高まるとさらなる先物取引を勧誘され、原告は原油や白金等の先物取引を行うこととなった。その後も、原告は、試験上場された原油について、被告から「上場直後は必ずプレミアムがつく」などと申し向けられて原油取引を行ったりして、結局、オプション取引も含めて11種類の商品の取引を行う。
③ 本件取引では、取引開始日での建玉が170枚に上り、取引開始後3か月以内で530枚の建玉となり、その後も500枚~800枚という多数の建玉を維持されていた。わずか10か月余りの取引で、取引回数が739回と多数回、大量の取引が行われている。
請求額:5703万6980円(取引損失4221万3790円、制裁賠償もしくは慰謝料963万8010円(実損額を超える業者の利得金)、弁護士費用518万円余り)
認容額:1856万5516円(過失相殺6割、制裁賠償もしくは慰謝料は認容せず)
(判決の要旨)
1.欺瞞的勧誘(商品投信またはサヤ取引をおとりに用いて商品先物取引に誘い込んだ)、説明義務違反、断定的判断の提供について、いずれも原告の豊富な取引経験を理由にこれらの違法性を否定。
2.新規委託者保護義務違反、両建、事実上の一任売買についても、同様に否定した。
3.投資金返還約束(上記取引の概要①)については、100%の損失補填を行うことを約束するものであり、違法な勧誘であるとした。
4.上記取引の概要③のような事実経過、また原告にはこのような多数回かつ大量の取引を行う必然性がないこと、取引自体の確定損益は益勘定であったのに委託手数料が5185万1800円に上ったため、結局4221万3790円の損失が発生していることなどから、本件取引の勧誘は、過当な手数料収入を狙ったもので誠実公正義務に違反する違法なものと認定した。
判決年月日 平成18年11月9日
裁 判 所 岡山地方裁判所
事件番号 平成17年(ワ)第563号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 株式会社ハドソン
商 品 外国為替証拠金取引
被害者側代理人 加瀬野忠吉(岡山弁護士会)
(事件の概要)
原告は昭和22年生まれ(取引当時57歳)の女性、無職。先物取引の経験はなく、株式の現物取引や投資信託の取引の経験はある。被告従業員に訴外インタートレードの取引の手仕舞いをしてもらったことから、被告会社と取引をすることになり、平成16年5月26日から同年12月13日までの間に、外国為替証拠金取引を行い、1058万7800円の損害を被った。しかし、平成16年12月22日に、被告会社が211万7560円を支払う旨の公正証書による和解契約書が作成されている。
争点は、大きく分けると、(1)被告会社の原告に対する勧誘行為等が不法行為となるか(本件外国為替証拠金取引が賭博としての違法性を有するか)、(2)和解契約は有効か、の2点である。
(判決の要旨)
(1)判決では、本件外国為替証拠金取引の賭博性、及び、賭博としても甚だしく不公平な仕組みであることが正面から認められた。
すなわち、「本件証拠金取引は、その基本において、インターバンク市場における外国為替レートの変動というそれ自体当事者には確実に予見し得ない偶然の事実に関し、顧客である原告が被告会社に対する上記ポジションを建て、為替レートの変動によって生じる損益を現実に被告会社との間で授受し、もって実質的に金銭を賭けてその得喪を争う仕組みとなっており(中略)したがって、本件証拠金取引は、刑法185条本文所定の賭博罪の犯罪構成要件に該当し、かつ、その違法性も高いというべき」であるとした。
そして、「本件証拠金取引は、現実の外国為替市場と隔絶された単なる被告会社と原告との間の相対取引にすぎないのであるから、社会的効用は皆無であって、かかる仕組みの取引を存続させるべき正当な社会的経済的合理性・存在意義が認められないことは明らか」であるとして、正当業務としての違法性阻却事由がないとした。
また、次のように認定し、外国為替証拠金取引の特徴を極めて的確に捉えている。「相対取引であり、被告会社と原告との利害が相反するのに、被告会社が一方的に手数料の支払を受けることになっていて、刑法186条2項所定の賭博場開帳等図利の犯罪構成要件に該当するほか、被告会社に損失が累積すれば、破綻必至であり、原告には、益金は勿論、証拠金すら被告会社から回収する術がないというのに、原告が預託した証拠金の保全措置がとられたことを認めるべき証拠はないから、現実に損失を被るのは事実上顧客である原告だけとなる、賭博としても甚だしく不公平な仕組みである」
以上から、このような取引をすること自体が公序良俗に著しく違反する高度の違法性を有する行為というべきであるから、被告会社従業員による一連の行為は原告に対する不法行為を構成する。
(2)和解契約については、本件証拠金取引をすること自体が賭博罪等の犯罪構成要件に該当するなどの高度の違法性を有する行為であるというのに、本件和解契約を有効とすることは、かかる違法行為に専ら責任を負うべき被告会社を事実上免責し、ひいては、本件証拠金取引をすることを許容する結果となりかねないこと、本件和解契約は、被告会社従業員から被告会社が閉鎖される旨を告げられ、原告が驚愕、困惑する中であわただしく被告会社従業員の提示した和解案に応じたものであり、被告会社従業員の一連の違法行為の最後の仕上げといった側面もあること、これらの点を考慮すると、本件和解契約は、公序良俗に違反するものとして無効と解するのが相当である、とした。
(コメント)
本判決は、外国為替証拠金取引の賭博性のみならず、現実に損失を被るのが原告だけとなるということを見抜き、賭博としても甚だしく不公平な仕組みであると認定している点、非常に示唆に富む判決である。また、取引終了後の和解契約が公序良俗違反であるとした点も参考になる。
判決年月日 平成18年11月15日
裁 判 所 東京高等裁判所
事件番号 平成18年(ネ)第3293号
事 件 名 損害賠償請求控訴事件・同附帯控訴事件(原審:東京地裁平成16年(ワ)24352号)
一審被告 大起産業株式会社
商 品 アラビカコーヒー生豆、白金、NON-GMO大豆
被害者側代理人 荒井哲朗(東京弁護士会)
(事件の概要)
一審原告は大卒(経営学部)50代、総務課で金銭出納を担当。商品先物、株式等の取引経験無し。一審では、適合性原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反、一任売買禁止義務違反、新規委託者保護義務違反、過当な頻繁売買、特定売買等を主張し、約5400万円(内500万円は弁護士費用)について不法行為に基づく損害賠償を請求した。一審判決は、従業員の不法行為と一審被告の使用者責任を認め、過失相殺2割5分で4000万円余(弁護士費用込み)を認定。
一審被告が取引は一審原告が投機家認定申出書を一審被告に提出したこと等を理由に、取引は自主的なものであったと主張して控訴した。これに対して一審原告は、一審被告の従業員は不当な勧誘を行い、投機にふさわしくない資金(横領金)を委託させ、一任状況に乗じて過当取引を行って巨額の損害を与えたことに加えて、一審被告が巨額の手数料収入を得ているのに対して、一審原告は退職を余儀なくされ、退職金も得られず、刑事責任の追及を逃れるために親類・サラ金に多額の借金を負った末、再就職後の収入は従前に比して半減するなど金銭的損害にとどまらない被害を被ったことを考えると過失相殺は不当として附帯控訴。
(判決の要旨)
控訴、附帯控訴のいずれも棄却した。
一審被告が「ハイブリッド取引」と称して複雑な取引手法をリスクを押さえた手法であると説明していたとの事実認定を加えたうえで、投機的取引未経験者が鞘取り取引は比較的安全だと説明されて商品取引に誘い込まれ、一審被告の従業員の言うがままに取引を続けたと認めるのが相当であって、投機家認定申出書の提出は一審被告従業員の言うがままに提出したに過ぎないと判示した。
過失相殺については、取引の継続に積極的な姿勢を示し横領金をつぎ込んでずるずると取引を続けたといえる面があるとして、一審の2割5分の過失相殺を相当とした。
(コメント)
控訴審のため事案詳細は不明。
「投機家認定申出書」について、言うがままに提出したに過ぎないと断じた点は参考になると思われる。
判決年月日 平成18年11月24日
裁 判 所 京都地方裁判所
事件番号 平成17年(ワ)第1209号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 株式会社小林洋行
被害者側代理人 杉島 元・木内哲郎・加藤進一郎(京都弁護士会)
(事件の概要)
原告は、その元従業員たるA(無資力者)に対する債権者であるところ、Aが被告に委託して行った商品先物取引において被告従業員の違法行為により多額の損害を被り、被告に対して損害賠償請求権を有しているとして、債権者代位請求した事案である。すなわち、Aは、昭和48年3月に原告に入社し、経理部に配属されてその主任となり、平成15年11月末に、5億6000万円余の業務上横領を理由として懲戒免職されるまで同職にあった(なお、平成16年4月に京都地裁で懲役4年6月の実刑判決を受けて滋賀刑務所に服役中)。Aは、被告との間で平成4年12月から平成7年7月まで合計667回の商品先物取引を行い、合計6103万9310円の損害が生じていた。本件債権者代位請求に対し、被告は各違法要素を否認し、かつ消滅時効を援用して争った。
(判決要旨)
本判決は、被告の不法行為責任及び原告による代位請求を肯定し、3051万9655円及びこれに対する平成7年7月10日からの遅延損害金の支払いを命じた(Aの過失相殺5割)。
すなわち、原告主張の違法要素中、①経理担当者たるAが不適格者であったこと、②取引初期か大口の取引をさせたこと(取引開始後3日目で50枚、保護育成期間内で92枚)が新規委託者保護の要請に実質的に反すること、③その後の取引も有用性が不明な直し売買が相当数あり、特定売買の割合も高く(特定売買率39.5%)、被告が取得した手数料も多額に上ること(手数料化率42%)、被告担当者に手数料稼ぎ目的があったことを否定しがたく(売買回転率11.7回)、かつ④個々の取引についての説明も不十分であったと認めざるを得ず、⑤Aの意思に反して利益金を証拠金に振り替えたことまであったこと等を認定して、本件取引にかかる投資勧誘は、全体として社会的相当性を逸脱した違法なものと判示した。
特に上記①は、平成4年当時の被告の受託業務管理規則に「農業・漁業等の協同組合、信用組合、信用金庫等及び公共団体の公金出納取扱者」と規定されていて、一般企業における経理担当者は明文化されてはいないが、公金出納取扱者に対する勧誘を禁止した趣旨が、犯罪行為誘発を防ぐことにあることは明白であり、その趣旨は明示されていなくても一般企業の経理担当者にも及ぶものであり、そのことは被告担当者にも容易に理解できたはずだとして、不適格者排除原則違反を認めている。
また、不法行為責任の消滅時効の抗弁に関し、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)の解釈について、「被害者において加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況下に、その可能な程度においてこれらを知ったとき」であるところ、商品先物取引における不法行為の場合は「顧客が外務員の違法行為を認識することは法律専門家等の助言のない限り、多くの場合困難である」とし、本件取引が終了した平成7年7月10日時点でAにおいて被告担当者の違法行為を認識し得たとはいえないとして、被告の弁解を排斥している。
(コメント)
商品先物取引を巡る不祥事、とりわけ取引の被害者が横領等に及ぶ事例が後を絶たない中で、本判決のような債権者代位請求認容事例は注目に値する。また、違法要素の判断についても、上記の不適格者の実質的な解釈、さらには転がしと取引継続段階における個々の取引に関する説明義務違反との関連性を肯定している点は、一般被害ケースにも参考となろう。
判決年月日 平成18年11月29日
裁 判 所 東京高等裁判所第23民事部
事件番号 平成18年(ネ)第3559号
事 件 名 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成17年(ワ)第15374号-第27号判決紹介その20)
控訴人(一審被告) 日本エフエックス㈱の役員・従業員
商 品 外国為替証拠金取引
被害者側代理人 荒井哲朗(東京弁護士会)
(事件の概要)
本誌第27号判決紹介その20の控訴審である。
業者は破産手続開始決定を受けているため、代表取締役、取締役、監査役(以上の役員については、組織的不法行為を行った共同不法行為者としての不法行為責任又は会社役員の第三者に対する損害賠償責任(旧商法266条の3、280条)に基づく損害賠償請求)、及び、従業員(営業係員、営業課長、違法な取引勧誘を行った不法行為責任に基づく損害賠償請求)らを被告として訴え、原審は、営業係員について1割、その余の従業員・役員らについて全額の損害賠償と、取引終了の日からの遅延損害金の支払を命じたところ、被告らが控訴を提起した。
当審で、営業係員は、一度だけ一審原告と電話で話をしてパンフレットを送付しているが、それ以外の営業行為はまったく行っていない、と、営業課長及び役員らは、①一審原告には適格性がある、②説明義務は果たされている、③任務懈怠行為(旧商法266条の3)が特定されていない、④一審被告には取引益も生じており出捐額全部が損害とはならない、⑤過失相殺がなされるべき、などと主張した。
(判決の要旨)
1.営業課長の不法行為責任
本件外国為替証拠金取引は、①公序良俗に反する違法な取引であるとまでは認められないが、極めて投機性の強い賭博的な性質を帯びた取引であって、一般消費者がその仕組みや危険性を正確に把握することが困難な取引であること、②業者と顧客との利害相反が生じやすい相対取引であること、に照らすと、相当に厳格な取引適合性が要求され、極めて高度の説明義務が課せられるところ、一審原告(本件取引当時75歳、無職、女性、家賃収入と年金による月額約16万円の収入、老後の資金としての1000万円程度の現預金を有するにすぎない、株式現物取引を含めて元本割れが生じる危険性のある投機的取引の経験なし、現時点においても本件取引の仕組みが理解できない)は適合性を欠いていたことは明らかである。また、営業課長は、取引の仕組みや危険性を正しく説明したことはなく、却って、本件取引が高い金利を得られる取引であることのみを強調しており、外国為替証拠金取引取扱業者の営業担当者として要求される説明義務を怠ったことも明らかであり、断定的判断を提供した違法も認められる。
2.営業係員の不法行為責任
営業係員の勧誘行為(一度だけ不招請の電話勧誘、パンフレット送付)と一審原告が本件取引を開始したこととの間には、因果関係があるものとは認められなく、これが本件取引との関係において違法な行為であったということはできない。
3.役員の責任
業者(会社)においては、外国為替証拠金取引の仕組みや危険性を営業社員らに理解させるための十分な研修等は行われていなく、営業活動を行うに当たって遵守すべき事項(適合性原則や説明義務など)につき違反が生じないようにするための体制もとられておらず、却って、歩合給制が採用されていて、営業に携わる従業員が顧客獲得に熱心になりやすく、営業担当者らによる違法な営業行為等を生みやすい土壌があり、顧客からの預かり資産と自社資産との分別管理か行われていないなど、顧客からの預かり資産が適切に管理されていなかったところ、代表取締役は、従業員が違法な営業行為等を行わないようその業務を適切に監督し、違法行為を未然に防止するための体制を構築することがなく、取締役らは、代表取締役の業務執行に対して何ら適切な監督をしていなく、監査役も、適切な会計監査をしないで顧客からの預かり資産の不適切な管理状況を放置していたのであって、いずれも任務懈怠行為が認められる。
共同不法行為者としての不法行為責任は、認められない。
4.結論
営業課長の控訴を棄却し(請求全部認容)、営業係員の控訴を認容し(請求全部棄却)、役員らの控訴については、会社役員の損害賠償債務(旧商法266条の3、280条)は履行の請求を受けた時から遅滞に陥る、として、付帯請求の一部について控訴を認容した(主たる請求全額とこれに対する訴状送達の日の翌日からの遅延損害金について認容)。
過失相殺については、これをすべき事情は認めることができない、と判示している。損害については、通常の裁判例と同様、本件取引における全体の損失及び弁護士費用(全体の損失の約1割相当額)、としている。
判決年月日 平成18年12月5日
裁 判 所 大阪地方裁判所
事件番号 平成16年(ワ)第12616号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 株式会社コムテックス
商 品 東穀アラビカコーヒー
被害者側代理人 三木俊博・原啓一郎(大阪弁護士会)
(事件の概要)
委託者は取引当時58歳の男性で大学経済学部の夜間部を卒業し製薬会社に勤務し、 取引当時は医学系団体の職員であった。5年間の株式の現物取引の経験はあるが、商品 先物取引や株式の信用取引の経験はなかった。
本件取引は平成15年4月15日から平成16年3月5日までの間の取引であり委託者は3224万0035円の損害を被った。
(判決の要旨)
1.説明義務違反・断定的判断の提供について
断定的判断の提供については認められた。しかし、説明義務違反については、一通り説明を行っており、これに加えて委託のガイドを精読することにより商品先物取引の仕組みや危険性について理解し認識することができたとして否定した。
2.追証不請求約束による不当勧誘について
追証不請求の約束をすることは、追証が発生してもその金額を100%補てんすることを意味するものであり商品先物取引において許されない違法な勧誘にあたる。
3.新規委託者保護義務違反について
取引開始後3ヶ月間は受託枚数が20枚に制限されていることを定めた法令や自主規制措置は存在しない。しかし、新規委託者についてはその保護育成を図るために取引開始から一定の期間は過大な取引を行わせないように配慮することは委託者に対する信義則上の義務の一内容を構成する。本件取引は新規委託者に対し短期間に過大な投資を勧誘したものであり、また、本件において行われた統括責任者による審査及び許可は合理的ではなく新規委託者保護の趣旨に違反している。
4.両建勧誘・常時両建について
両建をすること自体が直ちに違法と評価されるできものということはできない。
本件の場合、原告が両建について不十分な説明しか受けておらず、両建についての認識がなかったとは認めがたく、被告社員による両建の勧誘が違法であるとまではいえない。
5.証拠金徴収義務違反について
委託者の過大な取引を防止する機能は証拠金の徴収義務の副次的な効果に留まるのであるから、証拠金を徴収しないまま行った取引が違法ということはできない。
6.事実上の一任売買について
本件取引は、原告が被告社員の提示する相場観や各種情報に盲従して行ったものと言い難く、原告自らの意思に基づいて行われたものと認めうる。
7.過当取引について
本件取引は11ヶ月間に取引回数が90回、売買枚数は累計で2078枚の多数回かつ大量の取引であり不法行為を構成する。
8.向かい玉について
商品取引員が向かい玉を建てることは、原則として委託者との間で利益相反行為となるものではない。
9.過失相殺について
① 学歴や社会的地位等からして通常の社会人として十分な判断能力を有していた
② 売買報告書や売買計算書等により損失が拡大していることを認識していた
等から、原告の過失割合を3割とした。
(コメント)
断定的判断の提供、追証不請求の約束、新規委託者保護義務違反、過当取引を認めた点は評価できる。しかし、説明義務違反、両建勧誘、証拠金徴収義務違反、向かい玉の違法性については形式的な理由で否定している。また、原告の属性等から3割の過失相殺をした点についても何故、3割もの過失相殺がなされるのか納得がいかない。
判決年月日 平成18年12月15日
裁 判 所 東京地方裁判所民事第10部
事件番号 平成17年(ワ)第21642号
事 件 名 損害賠償請求事件
業 者 名 UFTCorporation株式会社
被害者側代理人 荒井哲朗(東京弁護士会)
(事件の概要)
外国為替証拠金取引の事案であるが、業者が既に破産しているため、元従業員(取引に関与した勧誘及び取引担当)、元実質的経営者(監査役辞任後代表取締役に就任かつ本件取引に途中から担当者として関与)、元取締役(設立当時の代表取締役で退任後、取締役に再任)を被告とし、元従業員及び元実質的担当者については共同不法行為に基づき、元実質的経営者及び元取締役については改正前商法266条の3第1項等に基づき連帯して損害賠償を求めた事案である。
原告は、中華人民共和国で出生し(取引当時45歳)、高校、大学を卒業後、管理職などの仕事を経て、平成4年に来日し、日本人と結婚後帰化し、中古コピー機の売買を主とする貿易会社を経営している。
原告が取引以前に先物取引や外国為替証拠金取引をした経験はないものの、貿易会社を経営という仕事の性格上外国為替の知識を有している点、平成16年9月頃から原告が自らの判断で取引を行う旨宣言し、自ら電話注文している点が特徴的な事案である。
取引期間:平成16年7月29日~平成16年12月22日
請求額:1366万3387円(取引損失1384万8451円と弁護士費用140万円の合計額から破産手続による配当158万5064円を控除した額)
認容額:603万9161円(過失相殺5割)
争点は、(1)本件外国為替証拠金取引について不法行為の成否(元従業員及び元実質的経営者)、(2)取締役・監査役の第三者に対する責任の成否(元実質的経営者及び元取締役)である。
(判決の要旨)
1.争点(1)について
まず、本件外国為替証拠金取引自体につき、証拠金の10倍以上の価格の外国為替取引が可能である反面、取引総額は多額に及び、為替レートの変動により評価損益が短時間に大きく変動するハイリスクハイリターンの取引である点、一般人が通常その変動を予見し得ないインターバンクレートを基準として業者と顧客の相対取引でかつ差金決済の構造を持つ点、為替レートは業者が独自に設定する点を考慮し賭博類似の取引で取引公序に反し違法であるとした。
そのうえで、契約締結前の担当者の説明が証拠金に対するボーナスが顧客に払われる利点を述べ、事前送付の手紙に少ない投資で効率よく利益を上げれると述べている点、取引の危険性の説明のみで相対取引の明確な説明がない点、リスク確認書には相対取引の言及があるが理解されにくい表現で、熟読及び十分な説明が必要なところ、説明時間が短かった点から本件取引に関する説明は、相当性を欠く極めて不十分なものであると認定し、原告が先物取引や外国為替証拠金取引の経験がなかったことに照らし、賭博類似の取引であることを承認しつつ原告が取引を開始したと認められないから、不十分な説明の下本件取引を勧誘して行わせた被告らの行為を違法であるとし、共同不法行為を認定した。
なお、原告が貿易会社を経営しており、従事する仕事の性質上外国為替取引について相当程度の知識を有し、中華人民共和国の出身であるから、担当者との日本語及び中国語による意思疎通能力、日本語を読み書き理解する能力に問題なしと認定して適合性原則違反を否定し、断定的判断の提供、過当取引、新規委託者保護育成義務違反、一任売買の違法があるとの原告の主張も否定されている。
もっとも、原告の経歴経験から外国為替とその変動に関する知識と理解があり、パンフレット、担当者の説明を通じてハイリスクハイリターンの取引であることは理解し得たこと、最終的には自らの意思で注文や決済の決定を行い担当者の助言忠告を聞かず、自らの判断で建玉を増加させる等損害の発生と拡大について原告自身の意思や行動が相当程度関与したことも否定できないとして、原告5割の過失相殺を行っている。
2.争点(2)について
本件外国為替証拠金取引は取引公序に反するものであり、金融商品として適格性を欠き、UFTが一般人を対象に販売すること自体に違法性が認められるから、名目上の取締役であること、取引に関与していないことをもって当然にはその責任を免れることができず、代表取締役に就任した以上会社の業務状況を把握して適正な業務執行を行うべき義務を負っているとして、元取締役に改正前商法266条の3第1項の損害賠償責任を認めた。
なお、実質的代表者については、共同不法行為責任を認めたことから、この点の判断をしていない。
判 決 日 平成18年12月19日
裁 判 所 神戸地方裁判所第6民事部
事件番号 平成17年(ワ)第989号
事 件 名 損害賠償請求事件
業 者 第一商品株式会社(以下「被告」という)
商 品 金、白金、銀、アルミニウム、パラジウム
認 容 額 4313万1212円(うち弁護士費用390万円)
過失相殺 なし
被害者側代理人 武本夕香子・辰巳裕規・村上英樹(兵庫県弁護士会)
(事件の概要)
経 歴 等:取引開始当時74歳。建築資材会社にて出荷等の業務に従事、65歳で定年退職後は無職。
投資経験:なし
収 入:農業収入年間約80万円、年金年約210万円
資 産:預貯金約2000万円
取引期間:平成15年5月13日~平成16年2月18日
取引の概要:本件取引期間、約9ヵ月間の間に、3923万1212円(うち手数料2604万3442円・全体の66.38%)の損害を被った。直し17回、途転15回、両建て16回、不抜け13回(全取引中、新規67回、仕切175回)。
(判決の要旨)
本判決は、以下のとおり、①適合性原則違反を認め、本件取引について②誠実公正義務違反かつ公序良俗違反を認定し、③両建てが不公正な取引であることを認め、④原告の過失なしとしたが、⑤原告請求の慰藉料を認めなかった。
① 適合性原則違反
一般に、原告のような独居の高齢者は、老後の生活安定のため蓄えを維持する必要があり、投機取引によって資産を失ったときの痛手が非常に大きい。また、一般に原告の様な過去に投資・投機取引の経験すらない高齢者は、先物取引のような複雑な仕組みをきちんと理解できる可能性が少ない。とした上で、原告は一般的に先物取引の勧誘を行う対象として不適当であるばかりでなく、取引によって金儲けをする意思も必要もなく、先物取引を行うための理解力・判断力もなかったのであり、先物取引の勧誘が禁止されなければならない不適格者であるとした。
② 誠実公正義務違反、公序良俗違反
被告従業員らが原告に行わせた本件取引は、直し、途転、両建て、不抜けといった、原告の利益を犠牲にして被告の手数料収入の増大をもたらす不合理なものが目立ち、実際にも本件損失の7割は手数料よって占められているとした上で、被告従業員らの本件取引の勧誘行為は、全体として、法136条の17(平成17年7月26日法律第87号改正前の商品取引所法)に違反する不誠実、不公正なものであり、かつ、取引社会の公序を形成する受託等業務に関する規則3条3項に反するという意味で公序良俗にも違反しており、民法上も違法な行為であるとした。
③ 両建が不公正な取引であることについて
両建をする利点があるとしても、建玉を現実に決済しないので含み損が表面化しないだけである。両建は、顧客の犠牲によって業者が得をするという不公正な取引である。同一限月・同一枚数でない両建も不公正な取引であることは動かし難い事実であるとした。
④ 過失なし
原告はそもそも先物取引を勧誘すべきでない不適格者であり、そのことを知りながら勧誘し、故意に不誠実・不公正な対応を繰り返し原告に大きな損害を被らせたのであるから、確かに、原告は先物取引に無知で愚かであったが、そのことを原告の落ち度として損害の何割かを原告に負担させることは正義に適うようには見えないとして、過失相殺を認めなかった。
⑤ 慰藉料
原告に生じた損害は財産的損害であり、遅延損害金を含めて損害が賠償されたとして、なお償うことができない無形的損害が原告に生じたとは認め難いとして、慰藉料請求を認めなかった。
(コメント)
また一つ過失相殺ゼロケースを加えただけでなく、特定売買の多用による手数料稼ぎ行為について、誠実公正義務違反構成により違法と断じている点は、転がし事案について、いわゆる「チェックシステム論争」で裁判所を煙に巻こうとする業者にとっては脅威となろう。
判決年月日 平成18年12月25日
裁 判 所 大阪地方裁判所第3民事部
事件番号 平成16年(ワ)第13439号
事 件 名 損害賠償請求事件
被 告 和洸フューチャーズ株式会社
商 品 灯油、ガソリン、コーン等
請 求 額 9384万0005円(うち慰謝料1000万円、弁護士費用853万円)
認 容 額 8240万7355円(うち弁護士費用750万円)
被害者側代理人 三木俊博・日髙清司(大阪弁護士会)
(事案の概要)
経歴等:本件取引開始当時54歳。電気工事会社の会社員。昭和53年にてんかん性精神病を発症して以降通院。平成13年ころから平成14年1月下旬ころまでは症状が悪化し、休職して入通院。
資産等:総資産額を3000万円以上5000万円未満と申告。本件取引を通じて1億0695万円を被告に支払っている。
取引経験:約20年前に商品先物を1年間経験。その他の投機的取引は未経験。商品の価格形成や変動要因についての知識・理解も十分でない。
取引期間:平成14年2月1日〜平成15年10月2日(売買回数1137回)
主な争点:適合性原則違反、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、事実上の一任売買、過当取引、両建て勧誘、元本保証約束による勧誘、証拠金徴収義務違反、本件取引に基づき負担した税金が損害となるか、制裁賠償又は慰謝料、過失相殺
(判決の要旨)
1.適合性原則違反
前記原告の属性(特にてんかん性精神病の悪化を重視)。仮に勧誘するにしても原告申告の当初投資予定額が1000万円であったから、同程度の範囲内で勧誘をとどめるべきであったのに、本件取引において約1億円もの過大な金額を支払わせるに至っている。以上に鑑みれば適合性原則違反がある。
2.説明義務違反
説明が適切さを欠くものとは認められないとして否定。
3.新規委託者保護義務違反
被告の受託業務管理規則には、新規委託者又はそれに準じる者からの受託の場合、取引開始後3ヶ月間の取引範囲を初回預り受託金300万円の範囲に抑えるなどして委託者の保護を図るべき旨の規定がある。同規則違反が直ちに違法とはならないが、「商品先物取引経験の少ない委託者について不測かつ多額の損害を及ぼす危険のある取引がされた場合は、特段の事情がない限り、被告あるいは被告外務員らの当該取引に関する行為は違法となるものと解する」。原告は新規委託者ではないが、取引の仕組み及び投機的取引の危険性に対する認識が十分とはいえないから新規委託者に準じる者。にもかかわらず、1ヶ月間に1460枚という多量の取引で、規則を大幅に上回る取引。委託証拠金超過申請書作成の際、十分な事情聴取や審査など原告の保護に十分な配慮をしたという事情もない。よって新規委託者保護義務違反がある。
4.事実上の一任売買・過当取引・違法な両建て勧誘
「受託会社が具体的な取引を行うことについて委託者から一任を受け、これに基づき委託者の利益を害するような態様で取引が行われた場合には、当該受託会社の行為は、委託者に対する関係で違法」となる。また、「委託者が個々の取引について承諾を与えている場合であっても、委託者が具体的な取引の内容・趣旨について十分に理解していないと認められる場合には」一任売買同様違法となりうる。
両建ては、合理的取引の一面もあるが、売り、買いの建玉双方に手数料が必要となる上、仕切時期の判断は困難となり、損失の出ている玉を放置することで委託者に多額の損失を与える可能性のある取引でもあるから、通常の建て玉より高度の判断を必要とする。長期にわたる両建てや同限月かつ同枚数の両建ては多額の損失の可能性が特に大きいため、委託者にその趣旨を十分に理解させた上で承諾を得ることが必要。
一任売買及び両建ては過当取引を招き、不測かつ多額の損害を与える危険があるので、委託者の属性や余裕資金に照らして過当な取引が行われたかも違法性の判断にあたり考慮すべき。
本件では、事実上の一任売買がなされ、両建てについて十分な説明がなく、原告に対し不測かつ多額の損害を与えるものであったから、過当取引である点も相まって被告の行為は違法である。
5.元本保証約束による勧誘
保証約束がなく否定。
6.証拠金徴収義務違反
証拠金徴収義務には、委託者に対して証拠金不足を知らせることで多額の損失が発生する危険性を知らしめ、適当な時期に取引を終了させる機会を与える意義がある。証拠金徴収義務違反が直ちに違法とはならないが、徴収せずに取引が継続するなど、同義務違反の程度が著しく、その結果として委託者に不測かつ多額の損害を与える危険性がある場合は違法となる。本件では、正規の計算方法によれば長期かつ継続的に証拠金不足の状態が生じていたが、証拠金不足を知らせなかった。原告が新たな証拠金を入金することなく取引の継続を望んだとしても、不測かつ多額の損害の危険性を知らせないまま継続させるものであることに鑑みれば、結局は原告の利益を害する行為であり違法である。
7.本件取引に基づき負担した税金は損害となるか
課税の根拠となった利益は次の取引のため費消されたから現実には原告の手元に残っていない。本件取引によって原告が負担するに至ったから相当因果関係のある損害である。もっとも過少申告加算税は、原告が申告を怠ったために賦課されたもので因果関係がない。
8.慰謝料
特段の事情のない限り慰謝料は請求できない。本件取引によって精神疾患の悪化があったとは認められず、本件取引により財産のほとんど全てを失ったとまでは言えないことなどから特段の事情はない。
9.過失相殺
原告は、過去に取引で損失を被った経験があり、最終的に自らの判断で取引を継続していたのであり、原告に落ち度がないとは言えない。しかし、被告の違法性の重大さに比較すれば原告の落ち度は相当小さい上、被告が極めて多数の手数料収入を得たことを考慮すれば損害の公平な分担という観点から過失相殺を行わないのが相当である。
(コメント)
原告の落ち度がなかったわけではないと述べながらも、その落ち度と被告側の違法性の程度や手数料収入の大きさと相対的に考慮して過失相殺を行わないとした点、税金の損害を認めた点、違法性の判断にあたり「不測かつ多額の損失を与える危険」に配慮すべきという観点を提供した点が着目される。