第13回 狩猟の女神アルテミス



今回は、アルテミス(ローマ名:ディアナ、英語名:ダイアナ)のお話です。

アルテミスと言えば、アポロンと双子神です。父親はゼウス、母親はレトです。
レトの出産の話はアポロンの回で語りましたので割愛しますが、大体、アルテミスが先に生まれ、アポロンが弟、というのが多いようです。
アルテミスもアポロンと同様にオリンポス十二神の一柱です。

というわけで、またもやちょっといい加減地図を出してみましょう。赤字が今回の主な舞台です。参考までにどうぞ。

 

さてさて。
純潔を誓った女神アルテミスですが、それはかの女神に追従するニンフたちにも強要しました。
そのため、純潔を失ったカリストは、アルテミスによって追放されてしまいます。
カリストのお話はヘラの項目でも話してますが、ま、ざっとおさらいしますと。

アルテミスのニンフだったカリストはゼウスとの間に子供をもうけてしまいます。
そのことを知ったアルテミスはカリストを追放します。
追放されたカリストはゼウスとの子、アルカスを産み落としますが、今度はヘラの嫉妬に合い、熊にされてしまいます。
月日が経って、成長したアルカスが森に入ると、大きな熊がこちらに向かってきます。
その熊が自分の母だと知らないアルカスは、熊を殺そうとしますが、すんでのところでゼウスが止めに入ります。
ゼウスはアルカスも熊の姿に変え、この親子を天空の星座にしましたとさ。
・・・というのが概要であります。


さて。純潔を愛するアルテミスは、自分が辱められることにももちろん容赦はしませんでした。
狩人アクタイオンという人物がいました。
ある日、アクタイオンは数十頭の猟犬を連れて、キタイロン山に狩猟にでかけていました。
森の奥に泉のある洞窟があるのを知っていたアクタイオンは、一休みするつもりでそこに向かいました。
洞窟に入って泉を見ると。
そこには、沐浴中のアルテミス一行がおりました。
眩しい女神の肢体を目撃したアクタイオンは驚きに目を見張ります。
一方アルテミスたちも驚きます。ニンフたちがアルテミスの裸体を隠しますが、時すでに遅し、でした。
アルテミスは激昂します。
「私の裸体を見た報いを受けてもらおう!」
そしてアクタイオンを鹿の姿に変えてしまいました。
さらにアルテミスはアクタイオンに従っていた猟犬をけしかけます。
「そら、おまえたちの獲物がそこにいるぞ!」
猟犬たちは、その鹿が主人のアクタイオンとは知りません。
哀れアクタイオンは、自分の猟犬によって殺されてしまいました・・・。


このようにアルテミスは時に残虐とも思える報復にでます。
その一例としてもうひとつ。
あるとき。テーバイにニオベという王妃がおりました。
ニオベは十二人の子だからに恵まれました。そしてそのことを吹聴したのです。
「レト女神さまは、アポロン様とアルテミス様の二神しか恵まれませんでしたが、私は、十二人の子供に恵まれました。私の方がずっと幸せですわ」
その言葉が、女神レトの耳に入りました。
怒ったレトはその話をアポロンとアルテミスに語りました。
もちろん、アポロンもアルテミスもその話に激昂しました。
「思い上がったテーバイ王妃をこのままにはしておけない」
・・・そして。
アポロンは、ニオベの息子六人を、アルテミスはニオベの娘六人をそれぞれ射殺してしまいました。
すべての子供を失ったニオベは嘆き悲しみ、やがて石になってしまいました・・・。

神様を怒らすととても怖いのですよ、というお話です・・・。


そんなアルテミスにも恋のお話があります。
ポセイドンの息子、狩人のオリオンとの悲恋物語です。
共に狩猟の腕を誇るアルテミスとオリオンは恋に落ちました。二人は連れだってよく猟に出かけていました。
しかし、この恋をよく思わぬ者がおりました。
アルテミスの双子のアポロンです。
純潔を誓ったはずのアルテミスが恋に落ちるとは何事か!というわけであります。
二人の仲をなんとか裂こうとするアポロンは、ある策略に出ます。

ある日のこと。アポロンはアルテミスを海辺に誘います。
そしてアポロンは、海の沖に浮かぶ丸太を指さして言いました。
「あの遠くに浮かんでいる的。君の弓はあそこに届くかな」
「まあ、それは私に対する挑戦かしら。私の弓の腕前をみせてさしあげるわ」
アルテミスは弓を引き絞ると、矢を放ちます。
矢は綺麗な弧を描いて見事、的に刺さりました。

・・・翌日。
海辺にオリオンの遺体が打ち上げられていました。
オリオンの頭には、アルテミスの矢が刺さっていました。
なんと。アポロンが「的」と言ったものは、海の中を歩くオリオンの頭だったのです。
その事実を知ったアルテミスは深く悲しみました。
すぐさま、死者をも蘇るという名医アスクレピオスの元に赴き、オリオンを蘇らせてくれるように頼みます。
しかし、それは冥界の王ハデスによって異を唱えられてしまいます。
そこでアルテミスは今度は父ゼウスの元に赴きました。
「お願いです、父上。オリオンを星座にしてください。そうすれば私は毎夜、月とともに銀の戦車に乗って彼に会うことができます」
ゼウスはアルテミスの願いを聞き入れました。
オリオンは星座となって、夜空で狩りを続けることになりました。


アルテミスが関わるそのほかのお話をもうひとつ。
イピゲネイアの物語です。
これは、トロイア戦争の頃のお話です。
アポロンの項目で話した、トロイアの王女カッサンドラの悲劇とほぼ同時代のお話です。
カッサンドラはトロイアの王女でしたが、イピゲネイアはギリシャ側、ミュケナイの王アガメムノンの娘でした。
カッサンドラはアポロンとの関わりによって命を落とし、イピゲネイアはアルテミスとの関わりによって不運に落とされるのです。
・・・とにもかくにも。
発端は、父アガメムノンにありました。

・・・トロイアへ出征しようとしていたギリシャ軍でしたが、海の風が凪いでいて、出航することができません。
この海の凪ぎ方は異常でした。
そこで、総指揮者アガメムノンが予言者カルカスに占わせたところ、意外な事実が判明しました。
少し前。アガメムノンがアルテミスの聖鹿を射殺しており、更にアルテミスを侮辱する言動をとっていたことがわかりました。
そのせいで、海では無風状態が起き、出航を妨げているというのです。
「アルテミス女神の怒りを解くには、アガメムノン様の長女イピゲネイア姫を人身御供にするほかはありません」
カルカスの予言にアガメムノンは悩みますが、ギリシャ全軍のためです。
娘を人身御供にすることに決めました。
早速ミュケナイ本国のイピゲネイアに向けて書状を送りました。

ミュケナイにいたイピゲネイアですが、父からの書状に目を丸くしました。
その書状にはこう書いてあったのです。
「おまえと勇者アキレウスとの婚礼が決まった。すぐさまこちらに向かうように」
アキレウスといえば、ギリシャ軍随一の勇者です。
イピゲネイアは母のクリュタイムネストラとともに、急遽アガメムノンがいるアウリスの地へ急ぎました。
そしてアウリスに到着した一行が見たものは、華麗な婚礼の宴ではなく、物々しい生け贄の祭壇でした。
アガメムノン王は、イピゲネイアにギリシャ軍のために生け贄になるように命じます。
「そのために、おまえをこの地に呼び寄せたのだ」、と。
喜びから悲運に突き落とされたイピゲネイア。
この事態に怒ったのは、花婿と偽られたアキレウスでした。
まったく事の次第を知らされていなかったアキレウスです。自分の名前を使って、イピゲネイアを呼び寄せたことにも怒り心頭ですが、更に姫の身の上に同情し、憤慨します。
イピゲネイアを救おうと奔走しますが、それはイピゲネイアによって止められました。
「もうよろしいのです、アキレウス様。わたくしは心に決めました」
「ですが、姫!」
「わたくしの命で、皆が助かるのなら本望です。わたくしはミュケナイの王女。自分の立場と役割は心得ております」
・・・イピゲネイアはとても強い心の持ち主でした。
アキレウスをなだめ、そして嘆く母クリュタイムネストラに別れを告げて、イピゲネイアは生け贄の祭壇にのぼります。
そして、哀れイピゲネイアは命を落としたのでありました・・・。


・・・さて。この話の終わりですが、イピゲネイアが助かったという話もあります。
祭壇に向かったイピゲネイアにまさに刃が振り下ろされたその時。
祭壇に血まみれで横たわっていたのは、一頭の牝鹿でした。
刃が振り下ろされる瞬間、アルテミスがイピゲネイアと牝鹿をすり替えたのです。
かくしてアルテミスによって命を救われてたイピゲネイアは、アルテミスの神力によりなんと黒海のほとりにまで飛ばされてしまいます。
そこはタウロイ人が住むスキュティア国でした。
イピゲネイアはそこでアルテミス神殿の祭司になりました。
ある時。イピゲネイアの元に、二人のギリシャ人が連れてこられました。
この二人はタウロイ人に捕らえられ、アルテミス神殿の人身御供として引っ立てられてきたのです。
イピゲネイアは深く同情します。故郷の人間である二人を人身御供にするには忍びないと思いました。
やがて二人のギリシャ人と言葉を交わしたイピゲネイアでしたが、そこで意外な事実が判明します。
なんと!
一人はイピゲネイアの弟オレステス、そしてもう一人は従兄弟のピュラデスでした。

・・・イピゲネイアがアウリスで祭壇に捧げられた後、アガメムノンはトロイアに遠征し、勝利してトロイアの王女カッサンドラを連れて帰国します。
アガメムノンの妻、クリュタイムネストラは、娘イピゲネイアを夫によって奪われたことを深く恨んでおりました。
そして愛人と共謀して夫であるアガメムノンを殺害してしまうのです。
一方、アガメムノンの息子である幼いオレステスは叔父一家の家に預けられ、そこですくすくと成長します。
やがて成長したオレステスは父の敵として、実母クリュタイムネストラを殺害します。
ですが、実の親殺しの罪は重く、復讐の女神エリニュエスたちにつきまとわれることになります。
エリニュエスの災いから逃れるにはどうしたらいいのか、アポロンの神託にすがると、
「タウロイ人の国へ行き、そこで祀られているアルテミス像を持ち帰れば、エリニュエスの追跡から逃れることができるであろう」
ということでした。
オレステスは従兄弟のピュラデスとともに、タウロイ人の国に赴きましたが、その途端、タウロイ人に捕らえられ、こうしてアルテミス神殿の人身御供として捧げられようとしているのです。
・・・ですが、そのおかげで生き別れの姉弟は再会することができました。
三人は、アルテミス神殿に祀られているアルテミス像の前で話し込みました。なんとかアルテミス像を持って、三人揃って国に帰ることはできないか、と。
そこでイピゲネイアは一計案じます。
「このアルテミス様の神像に罪人が手を触れたため、清めなくてはなりません。そして生け贄たちもまたみそぎが必要です」
みそぎの間、スキュテイア王を始め、国の人々を外出させないように主張しました。
イピゲネイアは神像を片手に、オレステスとピュラデスを連れて海岸に赴きました。
そして岩陰に隠してあった舟に乗って、逃げようとしたその時、なんとその逃亡がばれてしまいます。
怒った王は、兵をつれて三人を追います。
あわや掴まるというとそのとき、アテナ女神が現れ、仲裁に入りました。
・・・かくして。王は兵を引き、イピゲネイア、オレステス、ピュラデスは無事にギリシャに帰国することができました。


この、イピゲネイアやオレステスを含むアガメムノンの一族の話はそのうち別の項目でじっくりとお話ししたいと思います。
(とにかく込み入ってて、すんごい話なんですわ・・・)


というわけで。
最後の方は大分アルテミスから離れてしまいましたが。
こんなお話もあるよ、という程度に思っていただければ、と・・・。


さてさて。
次回は愛と美の女神、アプロディテにまいります。





    



天藍館TOP おはなし 旅行記 リンク