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第113話
世界の国際河川

 高速道路などで車を運転していると、川を境に都道府県が変わることがあります。信濃川や利根川や淀川や北上川など、本州を流れる川を地図で見てみますと、水源から河口に至るまで複数の府県を流れたり、県境になっていることが分かります。もしもこれらの川の水資源の利用の仕方や保全の仕方が問題になっても、川の流域に含まれる知事が集まったり、場合によって中央省庁の担当者を交えて、話し合いによって問題を解決することができます。

 ところが、世界に目を転じてみますと、世界には複数の国を流れる川がありますし、川や湖の両岸で国が異なる場合があります。このような複数の国を流れる河川は国際河川international riverと呼ばれたり、河川と湖沼を合わせて国際水域または国際流域(international basin)と呼ばれたり、国境を跨ぐので越境水域(transboundary basin)と呼ばれたりします。

 国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)によりますと、国際水域が世界には全部で276あるそうです。世界の国の約4分の3にあたる148か国に国際河川や沿岸国が複数存在する湖沼が存在します。さらに、国際河川などの流域が国土の一部を占めている場合がある一方で、30を超える国はこのような国際河川などの国際水域に国土全体がスッポリと入っています。

 日本は陸上に国境が存在しませんので、普段の生活の中でこのような国際河川を意識することがないと思います。それでも国際水域の流域に存在する国が意外にも多いと思えたのではないでしょうか。そこで、さらに数字を紹介して国際水域の重要性を説明したいと思います。まず、国際河川や複数の沿岸国を持つ湖沼の流域面積はといいますと、地球の陸上の約45%を占めています。また、国際河川と複数の沿岸国を持つ湖沼の水量はといいますと、世界中の河川を流れる水量の約60%もあり、地球の全人口の約40%の人が飲む水を賄う量に相当します。
 この数字を見ただけでも、国際水域の水資源を安全で清潔なものにし、生活や産業活動でも必要な量を賄えるように保つことが重要だということがお分かりになるのではないかと思います。

 それでは、世界にはどのような国際河川や複数の国を沿岸国に持つ湖沼があるのでしょうか。国際連合開発計画(UNDP)が毎年発行している『人間開発報告書』の2006年版に拠りながら、主なものをいくつか挙げてみましょう。

名称 流域国数 流域国
メコン川 カンボジア、中国、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム
ガンジス川 バングラデシュ、ブータン、中国、インド、ミャンマー、ネパール
アラル海 アフガニスタン、中国、カザフスタン、キルギス、パキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン
チグリス・ユーフラテス川 イラン、イラク、ヨルダン、サウジアラビア、シリア、トルコ
ヨルダン川 エジプト、イスラエル、ヨルダン、レバノン、シリア、パレスチナ占領地域
ナイル川 12 ブルンジ、中央アフリカ、コンゴ民主、エジプト、エリトリア、エチオピア、ケニア、ルワンダ、スーダン、南スーダン、タンザニア、ウガンダ
ニジェール川 11 アルジェリア、ベナン、ブルキナファソ、カメルーン、チャド、コートジボワール、ギニア、マリ、ニジェール、ナイジェリア、シェラレオネ
コンゴ川 13 アンゴラ、ブルンジ、カメルーン、中央アフリカ、コンゴ、コンゴ民主、ガボン、マラウイ、ルワンダ、南スーダン、タンザニア、ウガンダ、ザンビア
ライン川 オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、オランダ、スイス
ドナウ川 19 アルバニア、オーストリア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ブルガリア、クロアチア、チェコ、ドイツ、ハンガリー、イタリア、マケドニア、モルドバ、モンテネグロ、ポーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア、スロベニア、スイス、ウクライナ
五大湖 アメリカ合衆国、カナダ
リオグランデ川 アメリカ合衆国、メキシコ
アマゾン川 ボリビア、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ペルー、スリナム、ベネズエラ、仏領ギアナ
ラプラタ川 アルゼンチン、ボリビア、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイ

 国際河川の場合、上流国において川の水資源をどのように利用するかは、下流国に影響を及ぼします。上流国が下流国に配慮して適切な水資源の利用を心がけていれば、下流国に与える特に負の影響は軽くなります。しかし上流国が自国のことだけを考えて勝手な水資源の利用を行っていれば、下流国との間で国際紛争に発展することもあります。
 例えば、かつてリオグランデ川の水資源に関してアメリカとメキシコとの間で問題になったことがあります。リオグランデ川の上流に位置するアメリカは、自国内を流れる河川の水は自由に使っていいんだと主張し、リオグランデ川の下流国であるメキシコと対立しました。この主張を行ったアメリカの司法長官はハーモンでしたので、このような考えをハーモン原則と呼びます。

 私は、国際河川や複数の沿岸国を持つ湖沼が「共有地の悲劇」にならないようにするには、それぞれの河川や湖沼ごとに、すべての流域国や沿岸国が参加する国際的な協力の枠組みが必要だと考えています。
 ドナウ川やライン川のように、すべての流域国が参加する国際協力の枠組みを既に始めているところもありますが、メコン川のように協力の枠組みに正式に参加しているのはタイ・ラオス・カンボジア・ベトナムなどの下流国のみで、上流国の中国とミャンマーがオブザーバー参加のままのものもあります。また、アフリカの河川は流域国が途上国で財政やガバナンス能力が弱い場合が多く、十分な協力枠組みを組織できていないのが現状です。

 21世紀は「水戦争の世紀」とも言われています。国際水域の流域国や沿岸国による協力の枠組みがしっかりと機能すれば、国際社会に平和と安定をもたらす重要な助けになるのではないかと私は思います。

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