妙な声


再び人間界に戻ってきたココとナッツが、コチラの世界でのカモフラージュ兼自分
の食費ぐらいは自分で稼ごうの信念で、教師と店舗経営者として準備を進めて
なんとか形になってから、幾日かの日程が過ぎ去っている。

 申し訳なさそうな上目遣いで、のぞみが頭を下げてきたのは二日前の昼だった。
「ごめんなさいっ!」
 新しく構えたナッツハウスは、公園の半ばにあり環境も良く落ち着いた雰囲気で
以前の街中とは客層が少し異なるが、それなりにかつての固定客も付いてきてくれ
ていて、かつてナッツハウスをオープン仕立ての頃のように、ナッツが意地を張り金が
ないからと食事を取らず、倒れてしまうような心配は無かった。
 ただ、公園にオープンする許可を貰いに言った際、その書類を届けに行った
のぞみが公園管理事務局に、伝言を承っていたのだという。

「店舗はOK出したんだけど…住居もかねるのなら幾つか書類追加が必要で…
その期限が明後日だったの…ウッカリ言うの忘れちゃって、本当にほんとにごめん
なさいっ!」

 のぞみの言葉の直後からのミルクことくるみの罵倒や、のぞみを慰めるのに一生
懸命になってるうらら、落ち着いて一部の書類はそれぞれで手分けして取りに行こう
と提案するこまち、かれん、りんと…そちらの騒ぎはさておき、ナッツ自身も過去の
売上げ実績報告書作成や住居としての住まう手続きを一日で完了せねばならない
と、昨日から徹夜で手を動かしている。

「……できた……」
「お疲れ様 ナッツ 提出の方は僕が行ってあげるから後は休んでいて構わないよ」
「いや…やはり自分の店のことだし内容を尋ねられた場合ココでは困るだろう…
俺が自分で行くさ…その前に…重複しないよう一昨年のまとめの方はシュレッダー
にかけておかないと」
 ふらふらとおぼつかない足つきで、店舗隅に設置されているシュレッダーに向かう
ナッツの背後を、心配そうにココが見守る。
 紙を差し込むと同時、機械内部からのグォングォンと振動音が響いた。
「…あれ?ナッツ手にしてるほうが一昨年のまとめ…じゃない?」
「……っ!何!? し、しまった あ、ダメストップ!!だめだ やめろっやっ!!やだっ…
ここ押して……ちっ違うっ!!あぁぁっストップーー!!だめっ!やぁっ!!!」
 ナッツの叫びもむなしく、半ばまで差し込まれていた用紙は、キレイに粉砕されて
元の文字も解らぬほど細かい紙切れに分断された。


「…シロップ…?何してるの」
「えっイヤあの、ナッツに用事があったんだけど…」
「ナッツ様ならこのお部屋にいらっしゃるでしょ なんでドアノブ握ったまま固まってる
のよ いいわ私も用事あるから一緒に…」
 シロップの指を外させ、かわりにノブを握ったくるみをシロップが慌てて差し止めた。
「だ…だめだ!! い、今は間が悪い!!また後でっ!!!」
「はぁ?何言ってるのよ 今は少しの間も惜しい忙しい時間だって解ってるでしょう!」
「とにかくダメだーーー そ、そうだ今ナッツが無理しすぎて休みに入ったばかりみたい
だったんだ!!だから…邪魔しちゃ悪いだろ 30分後にしようぜ、な?」
「え?ナッツ様が…そうね それならそうした方がいいわね」

 ナッツがうっかり本書類をシュレッダーにかけてしまった瞬間に、部屋前を訪れて
しまったシロップは扉越しのナッツの声で、色んなヤバイ妄想図が脳内で展開している
のだが、幸いくるみにそれを悟られずにすんだようだ。
 間が悪い、というかナイスタイミングなナッツの声は、一部台詞だけを抜粋すれば
…かなりヤバい。

大きな吐息をついて、「ああ良かった…ドア開いてあいつらの………なシーンだったり
したら俺どう対処していいか…しかもミルクまで来るんだもんな 固まるしかできねえ
だろこの場合」
と額に浮かんだ冷や汗を拭い、肩を竦めたシロップは本来の用事を既に忘れ爽やか
な顔で階段を降りていった。

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…うっかりシュレッダーこの前やっちゃったさー…