| 「…鈍いヤツだなっ!…私は単にうっかりして転んだんだっ」 少し頬に朱を走らせた上官に、吹き出したいのを堪えたハボック の唇が噛み締められ、微妙に曲がる。 「…なんだその顔は 笑いたければ笑えばいいだろうっ」 不機嫌というより、恥ずかしさをごまかそうと必死な様子が 相俟って、かえって本人をかわいくすら見せてしまっているのだが、 ここでハボックがロイの言葉に従って、本当に笑えば確実にヘソを 曲げられそうだ。 「いや 別におかしくなんかありませんし 自分から他のやつらにも 吹聴する気はありませんから」 「…本当だな?絶対だぞ……言うなよ」 少し探るように上目遣いで睨んでくる顔は、ノラの猫がこちらの様子 を伺ってるようで、また可笑しさが沸いて出る。 …ひょっとして、これがこの人の素なのだろうか。 「まあ俺ら現場班は 医療室にお世話になることも多いですから よければそっちから廻ってみませんか?」 「ん 解った」 連れて行くなり、顔色が悪いと指摘されたロイは椅子に座らされ 瞼の裏をめくられて食生活が悪いと、白衣の軍医に窘めらる。 「今朝は何を食べましたか?」 「いや 忙しかったので」 「…では昨夜の夕食は?」 「……バケットにバター塗って……」 「塗って?」 「…以上」 先ほどうっかりと自分では言っていたが、やはり栄養不足で ふらついていたんじゃなかろうかとのハボックの懸念は正しかった らしく、医療班の者達に口を揃えて 『即座に食堂で何でもいいから胃に詰めて来い』 と追い出されたので、次の行き先は自然そちらとなった。 「うちの食事は…えーそのボリュームはありますよ」 まだ食事時間ではないためか、閑散としている入り口前でそう 告げたハボックは、ロイが見上げて聞き返した。 「…それは質より量といった味ということか」 「端的に言うとそうです」 察しの良い上官に、簡潔に答えると露骨に眉を顰められた。 「……食べたくない」 言い捨て踵を返そうとした、ロイの後ろ襟を掴みハボックは強引に 中へ足を進める。 「駄目ですよ 何か食わせろとドクター達に俺が注意されてるんです から 逃がしたら俺まで同罪です」 「う……」 「それに個人としても 夕飯ロクに食わないでさらに朝飯まで抜きの 相手を連れまわせませんよ」 椅子を引いて座らせ、そこに居るよう厳命してトレイを取りに 行ったハボックは、メニューを選びながら首を傾げる。 ――どうにも、調子が取れない。エリート様のご案内と思って 買ってでた短い道のりで、解ったことはロイが想像以上に世話が 焼ける相手であること。 困ったことに、そのフォローは楽しい位だが果たして今の自分の 態度でも、許されるものだろうか。 いいやもう上官相手だと思うから、自分の中の歯車が噛み合わ ないのであって、年下の後輩を相手をすると割り切れば、気に かからないだろうと、と振り返るとこっそり席を立とうとしていたロイ が、急いで座りなおしたのが目に映った。 何気なく流したままの視線を、見咎められたと受け取ったのか 慌てた様子で『逃げようとしたんじゃないぞ』とばかりに首を振り 続けているのが、また笑みを誘う。 ――ヤバいかも。 俺が辞表なんかで逃げる前に、この人の方がどこ行っちゃうか 理解不能で、追いかけ続けていないと下手したら、俺に職責債務 矢面役…全部かかってきそうじゃねえ? しかも何がヤバいって、この状況を興に入ってる自分がいる事だ。 このハボックの感情は、やがて『この人俺が居ないと駄目かも』 という思いに変わり、その後『俺以外のヤツがこの位置に来るよう になったら耐えられないかもしれない』という気持ちになるのだが この時点では、知る由もなかった。 ******************** とりあえずパラレル終了 気が向いたらまた書いてみたいけど、普段のハボロイとそんな 変ってないかも…。 |