| 若さというのはたいしたもので、見掛けと異なり老成した手管や、 遠まわしな誘いかけを得意とするロイ・マスタングは、現在 押せ押せのジャン・ハボックの勢いに、劣勢になりつつあった。 元より嫌いな人間を傍において、割り切って使えるほど 器用でないロイは、ハボックを基本的に気に入っている。 そこに恥や外聞といった概念を捨て去ったハボックが、 満面の笑みで常に懐いてくるのであれば、やはり分が悪い。 勿論ハボックとて、この行為に至るまでの葛藤は凄まじかった。 上役で年上でグラマーでもないという自分的茨道をひとまず 差し置いても、おのれの自己同一性原点たる『女の子が好き』という 前提を覆し、且つ同性に惹かれてしまっているという事実に 目を向けなければならないのだから、当然といえば当然だ。 だが、ふっきってしまえば元よりあまり悩む体質ではないことと、 ロイが意外にも全身で懐いてくる相手には無碍に相対出来ない のを察し、己の総力を上げてロイへの好意を態度で示していた。 「大佐…大佐ってば たいさぁ 好きなんですけど!」 「…ハボック少尉今は勤務時間中だ 唇より手を動かせ」 「きちんと書類処理やってますよ 手を動かしながらでも言葉は いえます 大佐が好きです」 「あーはいはい それはありがたいな いやー部下に慕われる上官 というのもツラい所だ ああ嬉しい」 「何スか その感情がまるで篭ってない台詞」 「…仕事しろ」 「してます」 不毛なやり取りをなんどか繰り返した後、休憩になるやいなや 『大佐と離れていた分大佐成分補充〜』と抱き締めてるハボックの 好きにさせていたロイは、ふと思いやる。 ――面倒だからと、好きにさせて流していたが……男に抱き締め られているなど、傍から見れば奇妙ではないか? 慌てて周囲を見渡すが、既に見慣れた風景の一部と認識されて いる為か、誰もこちらに注意を向けているものはいないようだ。 …それはそれで、問題だ。 「ハボック お前の思いはよくわかった」 「えっ!?じゃあ俺の愛を受け止めてくれるんスか!?」 「待て 解ったとは言ったがそうは言っていない だがお前の本当の 思いは行動に紛れて伝わってきづらいのだが 気付いているか?」 「こんなに好きだって全身で現してるのに?」 「笑いながら抱き締めてじゃ子供相手にしてるのか動物相手に してるのかも区別しにくいな 特にお前の場合」 「う……いやでも好きって気持ちは本物ですよ!」 「そうか ならばそれを手紙にしてみろ」 「手紙…?」 「そうだ いわゆるラブレターだな お前の真摯な気持ちが綴られて いれば私とて心を動かすかもしれんぞ」 「わかりましたっ! 今すぐ家に帰ってこの俺の熱い思いを ペンに託してきますっ!!!」 |