not計算


  別に大佐がどう出るかを、量ろうなんて計算したつもりは
なかったけれど、やっぱり確認しておきたい事実として
目の前で偉そうに腰に手を当て、ふんぞり返っている
人物に一応、自分の主張を抗弁として試みる。

「大佐 俺彼女できたばっかなんスけど」
「別れろ」
 間髪いれず、きっぱりはっきり。
 別に遠距離恋愛がんばれよだとか、東方への出張を優遇して
やるだとか、そうかだったら早く結婚してしまえなんて言葉が
欲しかった訳じゃないけれど、…自分が大佐にとって考慮する
に値しない、どうでもいい存在だと宣言されたようで軽くへこむ。

――考えてみたら、俺と大佐を繋ぐ線は大佐がいらないと
告げたらその瞬間に断ち切られてしまう儚いもので、自分の
一生を賭けるには、頼りないものだ。
 それに引換え彼女は。…ひょっとしたら今はまだ未確定要素が
高いけれど、一生のお付き合いになる相手かもしれない。
 素直でかわいい相手で、何より俺を好きだと言ってくれて。
「別れろ」なんて簡単にいう野郎には「馬に蹴られろ」と
でも言い捨てて、転属願いでも叩きつけてやったら
さぞ爽快だろうと思うのに。

 …どうして心の天秤は、大佐のほうに傾いているのだろう。

 わがままで、自分勝手で、無茶な命令言って、それでいて
自分も無茶ばかりするから目が離せなくて。
いっそこの人と離れられたら、毎日がこんな血湧き肉踊ると
楽しくはなくても、安定した毎日が送れるようになるだろうか。

 ぼんやりとそんなことを考えて、大佐を見詰めているとその
視線に気づいたのか、大佐は振り返った。

「…なんだその未練がましさイッパイといった顔は」
「別に 大佐にとっては簡単に別れろって言っちゃえるような
出来事で俺がすっごく傷ついてるなんてアンタは想像だにして
ないんだろうなあという怨みオーラを漂わせてみただけです」
「…そんなに傷ついたのか?」

 目を丸くして、ストレートに聞き返す大佐はどうやら本気で
『デートを1,2回しただけの相手と別れるぐらい大した事ない』と
考えていたのだろう。
――あーヤダヤダ よりどりみどり掴み取りで女性との縁に
困ったことがない人は。

 少し首を傾げ、背後の奴等に本人小声のつもりで
「そういうものなのか?」
と尋ねてるあたり、俺をどうでも良いと思っていた訳でなく真性の
ボケであったようだ。
 そんなことで少し安心してしまう、自分が情けない。

「ええっとだな ハボック少尉 セントラルに行けば私が懇意に
している女性を紹介してやるぞ」
「…それって今俺がオツキアイしてる彼女にすっげ失礼な事
言ってるんスけど自覚あります?」
「…う…悪気ではなかったが…お前の言う通りだな」

――ヒネクレ者の癖に、なんでこういうトコは素直なんだか。
愛想が尽きるような失礼な事、もっと言ってくれれば俺だって
割り切れるのに。

「お前は私に付いてきたくないのか?」
 嫌味でも、皮肉でもなく多分この言葉に含まれてるのは
純粋な疑問。
ここで俺が彼女を取りますといったら、――この人は俺を捨てて
いってしまうのだろうか。

 俺の無言をどう捉えたのか、大佐が深く息をついてこちらを
真摯な眼差しで見上げた。
「では どうすればお前は私を選ぶ?」

 ああもう駄目だ、言葉にすればいくら自分を騙そうとしても
大佐に従っていくことしか考えてない自分がはっきりしてしまう。
 彼女に張り倒される覚悟をする代わり…せめてもの意趣返しを
させてもらうとしよう。

「大佐が俺の目を見て『ハボックが必要だ傍に居て欲しい』と
言ってくれたら 多分俺は滅茶苦茶感動して一生アンタに
捧げちゃうかもしれませんね」
 咥えた煙草を口先で揺らし、できるものかとニヤリと笑うと
大佐も負けずに笑い返した。

「フン 莫迦めそれぐらいたやすいものだ よく聞け
…ハボック…お前が必要なんだ これからも私の傍にいろ」

――卑怯だ。
笑いながら言ってるって事はどうせ本心じゃない癖に。それ
なのに、俺の視線を逸らさず受け止め、艶やかに微笑むなんて。
ズルいだろう、本心じゃない言葉で俺を引き止めようなんて。
――それでもこの人に、一生を捧げるなんて言うんじゃ
なかったという後悔が沸いてこないのは、どうしてなんだろう。


「あーありゃ墜ちたな」
「大佐のタラシ術って同性にも効くんですねぇ」
「元々ハボック少尉が大佐から離れられるとは思いませんでした
けどね」
 
 微かに赤面をしたまま、ロイを見詰続けるハボックに周囲の
言葉はまるで聞こえていなかった。


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セントラル勤務前のやり取りで妄想補完