ズルイ人

 ズルい人だと、いつも思う。

俺じゃなくてもできる、くだらない用事や瑣末仕事、ひいては年や地位相応とは
とても思えねぇサボタージュの逃亡劇と、莫迦らしいぐらいに俺の時間を奪って
は、やたら手間暇かけさせやがる。
 だけどそれを引き受けてしまうのは、俺に自信がないからだ。
誰でもできる用事だからといって他の奴なんかにそれを頼まれて、大佐がそいつ
と二人きりになるなんて事態を作られちゃ冗談じゃないと思うし、百万が一にも
それがきっかけになって、ソイツの方が俺より便利だなんて思われたりしたら、
……考えたくもない。


 ずるいだろう、人の好意を逆手にとって。

 軍人なんて職業上、言葉だけじゃすまないぐらい本気で命懸けでアンタの事を
思っているのに、命懸けの本気ばかりか日常生活でのくだらない事にまで煩わされ
て、振り回されて…俺ってホント可哀想。
 それでも大佐がサボって隠れているのを、俺だけが探し出せる不思議な絆みたい
な物を密かに自慢に思ってしまうし、人前では気取った笑顔を崩さない大佐が
素で驚いたり微笑んだり、時には困った顔をしている様子が拝める特等席の座を
誰かに譲るなんて、とても考えられやしない。

「…なんだハボック 大袈裟に溜息をついて」
 少し口端を上げて尋ねる大佐は、多分俺の心情なんてお見通しなんだろう。
「…大佐の我侭聞いてたら 俺、始終大佐のこと考えてるしかできねぇなって
つくづく思ったんスよ」
 不本意ではないけれど、ちょっとはこっちの気持ちも思い知れとぶつけた言葉
は、見事に得意げな笑顔でかわされた。

「当たり前だ 愛想いいお前が他の奴らに親切や笑顔振りまいてるのを見たら
腹が立つから、わざと私の用件でお前の時間を潰してやってるんだ」
 どうだ私の頭の巧みさを思い知ったかとばかりに、ヘヘンと上機嫌で言葉を
重ねる大佐に、多大な脱力感と幾分かの惚れた弱みから来るかわいらしさで、
思わず苦笑が浮かぶ。
「……随分遠回りな道を選ぶんスね」
呆れたような呟きに、どういう意味だと無言で目線で問い掛けられて、俺の苦笑は
深まるばかり。

「あのね大佐 そういう場合は無理して俺を振り回す理由なんて考えなくても
たった一言『傍に居ろ』って命じてくれるだけで充分なんですよ …違うな命令
なんかじゃなくても 俺はその言葉だけでどこまでも大佐のかたわらに立ち続け
ますから」
 言い聞かせる俺の本気の言葉に、大佐の頬にわずかに朱が刷かれ、軽くこちら
を睨まれた。
「……この天然タラシめ」
「真性タラシのアンタに言われたくありません」
 
 この俺にとってとてつもなくやっかいで、途方もなく可愛い上官は、今日も
元気に、俺を見事なおねだり攻撃で振り回してくれている。
 大佐が他の奴に関心を持ってしまわぬよう、ズルイずるいと言いつつも、俺は
今日も大佐の言い訳・命令・用件etcに振り回されっぱなしの一日だ。

それでも我侭=素直じゃない恋人の可愛いおねだりと、脳裏が見事に変換して
くれるおかげで、どうにも幸せに感じてしまう自分が末期だと思いながら、俺は
大佐の傍らで佇んで、俺にだけに見せてくれる素の表情を楽しんでいた。