スカウト オマケ2


どう努めても、ロイ・マスタング大佐を可愛いとは思えぬオリヴィエ
・アームストロング少将が下した解決策は、代理人という方法
だった。

 演習の間の三日間、相互の理解を深めるという名目と、あまり
軍部の現場にはいない女性将官と尉官としての双方の司令部の
見方を検討したいとの名目で、オリヴィエの副官であるマイルズと
ロイの副官であるホークアイとの、交換視察を提案という名の
強制で、ロイに了承させてきたのである。
 そしてその交換の間に、マスタング大佐と部下のやり取りを
観測してくるよう、マイルズは上官に仰せ付けられていた。

「失礼いたします 本日より三日間マスタング大佐の護衛役を
ホークアイ中尉に代わって勤めさせていただきますマイルズと
申します 階級は少佐です」
型にはまったきっちりとした敬礼をして、扉を開けたマイルズの目
に飛び込んだのは、アーモンドクランチとチョコレートのかかった
ドーナツを銜え、片手にマグカップを持ったロイの姿だった。

「…明日の午後からじゃなかったか?」
「今 来てるんだから今日からなんじゃないスか?」
 横に居るロイの二人目の護衛官であるジャン・ハボックは、
ドーナツこそ咥えていないものの、上官の真横であるというのに
煙草をふかしたままで、言葉使いもオリヴィエの下にいる人間では、
想像の付かないぞんざいさだ。
 あと数口分はあったであろうドーナツを、慌てた様子でコーヒー
で流し込んだロイは、口元の粉を拭ってあらためてマイルズへと
向き直った。
「三日間 よろしく頼む」

 現時点だけ見れば、涼しい顔した若きエリートの看板に恥じぬ
風体であるが、いかんせんその直前の行動を眺めているだけに、
評価差が生まれるのは当然である。

 ――なるほど、実感を持って可愛いとは思えないがこの空気が
心地よいのであれば、ブリッグスで働きたいとは思えぬだろう。
まだ拭い残しがあると、ロイの口元を指節で擦っているハボックの
気安さは、オリヴィエとの関係では望めぬものだ。
……望みたくもないが。

 だがこのハボックという飄々とした少尉とは異なり、ホークアイ
中尉はきっちりとした規律を好む、性格に見えたのだがと、観察を
重ねつつ内心では首を傾げているマイルズだが、一見すると無表情
のままだ。

 しばしマイルズを眺めていたロイは、意を決したように唇を開いた。
「今からの質問は非公式かつ個人のものであって マイルズ少佐が
どう答えようとも咎めないので 正直に答えて欲しい」
 真摯な表情のロイが、少し自分を見上げて言う台詞は仕事という枠
を越えろと言う提案で、容易に頷く訳にもいかなぬマイルズは、その
まま続きを待った。

「…私の傍らで 数日といえど勤務せねばならないのは辛く…いや
率直に言おう 憎しみは感じないか」
「憎しみ…ですか?」
 しばし考えた後、目前の人物の二つ名が『イシュヴァールの英雄』
であったことに思い当たったマイルズは、無言で首を横に振った。

「…私の見掛けを汲んでの処置対策でのご質問でしょうか」
「先ほど述べたように 今の質問は個人の質問だ だがそちらが
つらいと感じるのであればなるべく私の姿を見ずにすむ調整を取る
ことも可能だ」
「ならば率直に申し上げさせていただきますが 私はアメストリス
国軍に属する軍人です 軍の命令した行為に従った方を憎むの
であれば 個人は対象になりかねますし 何より自分が属する軍隊
への自己矛盾で撞着します…むしろ殊更自分の容姿を思い知らされ
る 親切めいたこういった問いかけの方が不愉快ですね」

 マイルズがあえて余計な言葉を最後に加えたのは、ロイの反応を
見るためだった。
幾ら私的を前に出そうと、目下から言われれば嫌な顔の一つも見せる
だろうとの思惑であったが、当人は少し意外そうに目を軽く瞠っただけ
だった。

  むしろ、傍らに立つハボック少尉の表情の方が、僅かであっても
険しくなっているのに気付き、マイルズは挑発を仕損じたかと心中で
密かに笑った。
少尉から見ればこちらが上官であるため、直接は噛みつけないで
あろうが、マスタング大佐ならばどうでるか。

「そうか無神経な質問をしたことを詫びよう」

 直後にロイの唇から漏れたのは、謝罪の言葉だった。
――公でないとは言え無礼な言動をし、立腹させこちらへの風当りで
人間性を確かめてやろうと踏んでいたのだが。

罵声といかぬまでも、無愛想に会話を断ち切られる覚悟はしていたマイ
ルズは、あらためて目の前の人物に瞳を凝らした。
そこにあるのは、悪意のない誠実さのみだ。

――なるほど。これを階級幾つも離れた上官にやられるのであれば、傍に
いたいと願ってしまうのは当然の理かもしれない。
自分とてアームストロング少将の下に属していなければ、きっと惹かれて
いただろう。
自分の上官は、事あるごとにロイ・マスタングという人物を「甘い」と称して
いるが、その甘さこそが部下たちを引寄せている原因となっているようだ。

 共感はできたとは言いがたいが、理解ができたとのマイルズの報告を
聞いたオリヴィエが、潰すよりもマスタングごと引き入れても面白いかも
しれんなと、思考を切替えたのはロイにとっては幸か不幸か、計りかねる
進展であった。


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姐さんますます出世しそうだしなぁと妄想…というか甘い甘いといいながらそこにオリヴィエ少将も
ロイに惹かれてるよね(笑) あれでロイが冷酷に普通にのし上がってくタイプだったら、もっと
毛嫌いしていたと思います