| 小雨程度であれば、自分の能力特性を忘れ暴走しかねない 大佐が極々まれに見せる、怯えた顔。 それに一つの共通点があると悟ったのは もう自分の家に帰るより、大佐の元で一日を暮らす事が 日常となってしまって、その部屋に身体が馴染んでしまった頃だ。 ガラスを叩きつけるような豪雨と、耳を劈く雷。 この条件が揃うと、大佐の身体が無意識に一瞬震えその表情に 虚無が刷かれる。 多分、こんな近くに存在を許されてなければ一生気付けなかった であろう、その顔。 そうそうある天候ではなし、鈍い俺は最初雷を怖がるなんて、 大佐にも案外可愛い所があるとそんな風に思ってすらいたのだ けれど、その様子が本格的におかしいと気付けたのは、真夜中ふと 目を醒ました時だった。 普段人一倍多忙な為か、睡眠が可能な時は寝汚いと称される ぐらい眠りを貪る人が、こんな時間なのにまだ寝台にいない。 俺と同じように、目でも覚ましたかと気配や名残を探っても、 どうやら寝室自体を訪れていないようだ。 どうしたのだろうと、廊下に出ればまだ居間に明りが燈っていて、 大佐がそこにいるのが解った。 俺が先に寝てますと告げたら、もうしばらく起きているからの 会話があったので、ひょっとしたらソファで寝入ってしまったのかと、 様子を窺いにいけば大佐はまだ起きていて、窓辺に立っていた。 少しの悪戯心が手伝って、そっと傍に忍び寄り 「大佐」 いきなり声を掛ける。 だが俺の存在に気付いていなかったはずの大佐は、ピクリとも 動かなかった。 ――しまったこんなに外が暗いのだから、当然窓に俺の姿が 映っていたか。見破っているぞとばかりの、子供のような笑いを 想像して、大佐の前に回るがその目はどこまでも空ろで俺を 見ていなかった。 「…たい、さ…?」 さすがに不審に思い、その肩に手を乗せると、大佐の体は弾かれた かのように、大きく震えた。 何かを考え込んでいたのだとしても、あまりに大仰な反応にどう声 を掛けていいのか、戸惑う。 仔細に眺めてみれば、ただでさえ日焼けしてない肌は血の気が 引いて、蒼褪めているに近い。 「…ハボ…ック?」 弱々しく、かすれた声。 普段、背中を追うしか許されていない人が、縋るように俺の腕の中 にいた。 たまに弱みを見せる事があっても、剛い頑健な心まではけして 折れる事のない大佐が、小刻みに震えている。 何を言っていいのかわからなくて、ただすがって来るその体を そっと抱き締めたら、俺の胸元に置かれていた男にしては細い 指先が、シャツをぎゅっと掴んだ。 「ハボック…私が軍人になる前 既に人を殺していたと言ったら… お前は私を厭うか?」 聞き取れるか、取れぬかの小さな声。 ただ、それは俺の鼓膜にはこれ以上ないほど、印象強く拾われた。 |