否定の理由


 「大佐って呪いとか祟りとか霊魂を否定するのに
お化け屋敷とか怖がるんスね」
 マグカップを差し出すハボックの、少し揶揄する
目付きを見たロイは、心外だとばかりに睨み返した。
「別に怖いわけじゃない ああいった趣味の悪い
グロテスクさを見世物にするというのが嫌いなだけだ」
「ヘェ〜そうっスか」
 口元を可笑しさで歪めたハボックの口調は、まったく信じていない。

「大体人の事言う前に お前はどうなんだ忘れたとは言わせんぞ
十三倉庫の時の出来事」
「俺は呪いも祟りもアリだと思ってますもん」

 軽く道化た仕草は、本気というよりロイおちょくり続行中と言いたげで、
ロイの眉根は寄せられる。

――こうも簡単に、感情を顔に出しちゃうぐらい可愛いのに、
大佐に絡む奴らって勿体無い事してるよなぁ

 チェシャ猫さながらの笑みを浮かべ、ポーカーフェイスを装い、
見下ろしてくるハボックが不快だから座れと命じるロイは、
勿論ハボックがそんな事を考えているとは気付いていない。

「だから私は怖いといってるのではない …平和であれば見ずに済む
あのグロテスクさを わざわざ金を払って見に行く酔狂さが理解
できないだけだ …それにしてもお前は呪いや祟りを信じていながら
よく軍人が勤まるな」
「人間の行為で二重規範なんて当たり前でしょう…自分が正義だと
思ってなくちゃ狂っちまうからどっかで弁が外れて己を
正当化するんでしょうね 俺の知ってる奴で聖句を唱えながら
村ひとつ住民ごと滅ぼして勲章貰った奴だっていますし」

「…ハボック少尉 私自身の精神的外傷も呼び起こされるので
この話題はやめないか」
「…そうっスね すみません」
 苦々しく微笑むロイの無理がわかったハボックは、軽い気持ちで
答えてしまった反省とともに了承しコーヒーを飲み干した。


「ハボック覚えておけ 呪いや祟りがあるのなら私など何度
死んでも足りん 死に逝く者の中に私の顔と名前を脳裏に
刻んでいってやると言った者は一人や二人ではない」
 空になったカップ二つを指先にひっかけ、洗い場に持っていこうと
立ち上がったハボックの歩みを、ロイの声がとどめさせた。

「…大佐のした事は軍人として間違っていませんよ」
「それはあくまで味方でいてくれる者が評する言葉だ …敵でなくとも
 中立の者や軍人で無い者にとって私の行動は悪魔の所業に近いだろう」
「…大佐と同じ部隊にいたことある奴は 誰もアンタをそんな風に
いいませんよ イシュヴァールの英雄という呼び名だって軍部が
士気高揚の為 勝手に名付けたんじゃない アンタの下にいた者たちが
自然そう呼び始めたんだ」

 慰めではないが真剣な思いを込めたその言葉に、浮かんだロイの微笑み。
 それはロイの傍にいると時折見掛ける、相手を韜晦する為の
表情で、自分の傷をぶつけぬよう制してるのが伝わってきて、
ハボックの胸奥を切なく苦しくさせる。
 誤魔化す為でなく、年長者が子供の理屈に浮かべる鷹揚な優しさ。

「お前は幽霊も信じるのか?」
「あいにく否定できる強さを持ってませんので」
「霊魂がいるのならば…それも良いな ……あいつに逢いたいものだ」
 
 語り掛けではなく、溜息のような独り言。
あいつが、ロイにとって永の親友をさしているのは鈍いといわれる
ハボックにでも見当がついた。

「もし俺が死んだら幽霊になっても大佐に会いに行きますよ」
 少し格好つけるつもりで言い捨て、扉から出ようとした瞬間、後頭部に
飛んできたのは来客用ソファに置かれているクッションと、ロイが
握っていた万年筆。

「…ってェ何をするんですか」
「不吉な事を言うからだ お前が霊魂になる時は私が霊魂になってからだ
馬鹿者 それ以外は認めん」
 
 目線を外し、無茶苦茶をいう上司の行動はそれでもハボックの心を
上向きにさせてくれる。

「アイ、サー」
 快活に答え、部屋を出たハボックの表情からは 先ほどの、ロイに取っての
地雷を踏ませてしまった自責からの暗さは拭われていた。

 
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最初コメディの予定だったのに終わりは何故かシリアスっぽいお話に…