白黒灰


 どこの世界でもそうだろうが、組織であろうと役所であろうと、子供
達の未来を護るなんて清廉潔白なコピーをかざす団体であろうと、
大人数の所属する舞台であれば、そこの上層部は魑魅魍魎に近い
清濁併せ呑むグレーで
あるのが、当然だ。
 自分が灰色に染まりたくないから、頂点を目指すと決意した青かった
自分も、今では世界が白か黒かだけになんて、分けるのが不可能
だと気付きつつあったのに。

「逃げないで下さいよ」
 ハボックは、イエスかノーかのみの選択を私に求める。

 正直、今の立場は心地好い。子飼いと呼べる部下達は有能であり、
また信頼も出来る。
 なかでもホークアイ中尉とハボックはこちらが望む以上の機転を
利かせ、咄嗟の際にはこちらの指示を仰がず、私の望む最善の路を
意図せず追ってくれる、重宝な部下といえよう。
 それ故に、今の均衡の取れたそれぞれの立ち位置を崩したくないと
いうのが、私の本音だ。

「だから俺から言わせてもらえればそれが逃げなんですよ 嫌いなら
一言嫌いで構わないんです 俺が勝手に大佐を好きなままでいるだけ
ですから」

 ハボックの迷いが無い視線は、まだ私が韜晦術やうまく立ち回るなん
て言葉を意識した事が無かった過去の自分を思い起こさせ、懐かしく
苦笑させる。
 自分もこんな目をして、周囲に食って掛かっていたのであれば、一部
に疎まれていた理由を悟れる程度には、私も年を重ねた。
 だが、今の私は疎むよりこの真っ直ぐな視線を好ましく思える。

「ふられたを理由に大佐の部下まで辞めるつもりはありませんし 未練
がましく付き纏う真似だってしたくありません ただ…答えが欲しいだけ
なんです」

 そこまで言われても、私は曖昧な逃げ道を探したく思ってしまう。だが
この臆さず決着を求める空色の双眸は、それを許してくれそうも無い。

「ノーと言えばお前は諦めるのか?」
「…それが答えですか」
 僅かに揺らいだ視線と、微かに飲んだ息がハボックの衝撃を物語る。
だが、それを感情に表さぬよう制して、震える拳が、傷つけてしまった
当人としては決して口にできないが、痛々しい。

 これでもう、私を好きだなとと世迷い言は抜かさないだろう。
お前には、灰色である私より白のみで構成された者が似つかわしい
から、私ではない他の者を探せ。
 その想いは口にせず、踵を返そうとしたら力強い掌が、私の二の腕を
掴み歩みを止めさせた。

「大佐 仮定の話で逃げないで下さい『ノーと言えば』ではなく ノーなら
ノーの一言が大佐の口から俺は欲しいんです」

 ――どこまで私を追い詰めるのだ。

「言って下さい俺を嫌いだと そういう対象だと見れないと …目を逸ら
さないで」
「………無理だ」
「どうしてです?」
「………」
「言ってくれないなら俺は諦めてあげません いえ、諦らめ切れず逃道
なくす迄 どこまでも大佐を追い詰めます」
 
 真近に寄せられる、真剣な顔を直視できず外す視線をハボックは
許さない。 顎を掴み、自分を見ろと強いる力は容赦が無くその想いを
直接的に伝える。

「…もう…お前に追いつめられている …ハボック私にだって出せない
答えがある」
「…期待、しますよ?」
 何をだと聞き返す代りに、一段強まった指の力が私をハボックの元へ
引き寄せ、口接けを落とされた。
 我に返って、抵抗よりするより早く唇は外されたけれど、固定された顎を
掴む指は、まだそのままだ。


「大佐が迷ってくれてるなら期待します 俺を見てくれる可能性が少し
でもあるなら …もう答えを無理に求めませんから」

 真摯な表情をしたハボックは、やはり率直で曖昧な逃道を許してくれ
そうになかった。
 
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ハボ=白 ジャク=黒 ではっきりしているから逃げたいロイ