勢いと嘘 オマケ

 おはようございますの挨拶より先に、ロイの机に寄って来た
ハボックが、ドサドサと厚みのあるカタログを数冊落とした。

「…何だねこれは」
「やっぱ籍を入れるからには式もちゃんと挙げて置いた方が
いいかなと思いまして あちこちから……」

 ハボックの言葉が終わるより速く、その口元を慌てて掌で
塞いだロイが、机上のカタログを回収し個人執務室へと
引っ張りこむ。
 机の上に広げられていたのは、全てウェディング
関係の冊子だった。

 がっくりと力を失ったロイが、ハボックの両肩に手を置き
項垂れるのを、どうやら勘違いしたらしいハボックが、
腰に手を廻して支える。

「…大佐 そんなに感動してくれたんスか!」
 …いやいや、違うから。
「俺 大佐にはやっぱり白のウェディングドレスが似合うかと
思うんですけどどうですか?」
 ――ここはどうですかの意味がわからんと、問い返しても
いいのだろうか?…断言してやる。
確実に似合わんし、私がそんなものを着たら醜悪な見世物だ。
「それとも東の国の民族衣装がいいですか?この『キモノ』って
やつもオリエンタルで大佐に 似合いそうっスよねぇ」

 ニコニコニコ。本当はこちらの意図を解っていて、わざと
こちらを煽って遊んでいるのではないかと、ロイがハボックの
表情を窺うが、嬉しさを全面に溢れさせたその笑顔には、
まったく裏が読み取れない。

――ここが正念場だ、ロイマスタング。
今のうちになんとか言いくるめる方法を、考え出せ。
さあ考えろっ!!!

 沈思黙考に耽るロイが、花嫁衣裳を考えているのだろうかと
受け止めたハボックは優しく見守っている。

「ハボック…残念ながら私とお前の結婚は無理だ」
 ようやく逃路を探し当てたロイが、そう呟き愁いを帯びた表情で、
視線を逸らす。
「何でですかっ!?俺きっちり責任をとるつもりですし
それにっ責任じゃなくても…その…俺 何か悪いことしましたか?
言って下さい直す努力しますからっ!」
「…いやお前は何も悪くない だがアメストリス軍法の一つに
同族の者の同部隊勤務を禁ずる 項目があるのだよ」

 言い聞かせるようでなく、遠くを見たまま呟くような口調なのは、
ロイが記憶を掘り起こしながらの会話である為なのだが、
それが何やら一見寂しげに見え、ハボックの心を揺さぶる。

「えっと…それって…」
「つまり上官が父や叔父であった場合、部下に息子や甥がいたら
幾ら私情を挟まぬよう努力をしたってどうしても危地回避を
自然図ってしまったり 優遇をしてしまうだろう?
だから、同族の名を持つ者は別部隊の所属になってしまう
という事だ。勿論、婚姻や養子縁組による関係でもその法は
適用される。…ハボック私は…部下としてのお前を
手放したくない……」
 
 完璧だ、さすが私。見ろハボックの眼差しも感動で潤んでいる。

「大佐っ そこまで色々考えてくださっていたんですね!
わかりました …俺事実婚でも構いませんっ!
二人で退役まで頑張って 年金貰えるようになったらその後
あらためて入籍しましょう!!あ、でも大佐が大総統になったら法律
改定して俺らが結婚できるようにしてくれても無問題っスね」

 …ヒューズや年上の、基本知能派と呼ばれる者達と
過ごすことの多かった私は、確かに多少性格にねじれが
入っていることを認めるに吝かではない。
 …以降、直情径行の者をからかうのはやめておくと誓う。

 誰か、助けてくれないだろうかというロイの内心の呟きは、
誰にも届きそうにない。

 なお 流されたままでいるロイは、ハボックならまぁいいかと
心の奥底で思っているのが根本にあるから故に、強く出れないで
いるのだが、まだ当人にその自覚はなかった。