やきもち


 大荷物を抱え困っていた女性を助け、すぐ先だという家までロイが
付いていこうとすると、ハボックも必然 ともに歩まざるをえない。
 頭を下げて恐縮する女性に、にこやかに か弱い異性を
労わるのは男として当然の事だと返すロイは、司令官室に居る時は
見せぬ柔和さだ。
 
 まだ少女と呼ぶより、女の子と称したほうが正しいであろう年齢の
女性の妹がロイの頬にお礼と、軽く恥ずかしそうに口付ける様子は
ほのぼのと心を和ませ、通行人の目を細めさせていた。

「…何だハボック つまらなそうな顔をして
まあその…お前が勤務で私につき従わねばならない時間帯に
私的の親切を行なったのは少々面白くないかもしれんが…」
 言い訳を重ねようとするロイの声を、ハボックが軽く肩を竦め遮った。

「いや別に俺だってかわいい女の子が困ってたら助けますし」
「私は彼女が可愛いからという理由で 助けたわけじゃないぞ 単に
困っている女性がいたから…」
「はいはい いかなる時でも困ってる女性に手を差し伸べるその信条
はご立派ですって…ところで参考までに聞きたいんスけど あれが
若い男だったら助けますか?」
「…己の腕で荷物一つも運べんような甲斐性なしでは 将来が危ぶま
れるだろう 放って置く方が親切というものだ」

 まったくご尤もといいながら、ハボックの表情は怒っているようでは
ないものの、あまり交流のない人物と相対する時の飄々とした空気
のみを纏っていて、それを一歩踏み越えた、独特の親しい笑顔をロイ
に見せようとしない。

 互いに無言で暫く歩いた後、周囲に人影が絶えたのを見計らって
ロイがハボックの上衣の背裾を引いた。
「…ハボック 何を怒っているんだ?」
「別に怒ってないっスよ」
「じゃぁ聞きなおそう 何で機嫌を損ねているんだ」
「…俺 そんなにつまんなそうな顔でもしてます?」
「つまらなそうなというか こちらに愛想を向ける余裕もない顔というか
…ふふん ハボックわかったぞ 先ほどの女性の荷物 お前の方が
重いものを持ってあげたのに彼女の視線が 私の方にしか向けられて
いなかったから嫉妬しているのだろう」
「………」
「まぁ私が若く爽やかで礼儀正しいハンサムであるから 仕方がない
ことだ…うん なに安心しろ お前とて単品で立っていれば充分観賞に
耐えうるし それなりに魅力あるぞ」
「嫉妬はあながち 外れちゃいませんけどね」
 冗談のつもりの軽口が、真摯な顔で向き直ってきたハボックにロイの
言葉がとまる。

「大人げないし自分が矮小だと思うし…情けないけど 女性だという
だけで大佐の心を向けられる存在がちょっと羨ましくなっただけです」
「…本当に大人げないな」
「大佐に関しては どうしても、ね」

 咥えていた煙草を、指で挟み外したハボックがその煙草をロイの唇へ
差し込みニィと笑った。
「これで 間接キスになったからいいや」
「…お前 あの女の子にすら妬いていたのか?」
 少し呆れたようなロイに、ハボックは仰々しく首を傾げ両掌を空へと
向けた。
「たった今言いませんでしたっけ? 大佐に関しては大人げないって」
 
 慣れない煙草に咽たロイの口から、それを外したハボックは再度
咥えなおし二重間接キスですね、とイタズラめいた微笑で先に歩んで
いった。