ありのまま

 ハボックがロイへと好きだと連呼する事が、東方司令部で日常と
なりつつある今、傍から見ればいちゃつきでしかないやり取りが
今日も繰り広げられていた。

「だからっ 何で信じてくれないんスか!? 俺がこれだけ毎日
愛してるって言ってるのに!!」
「やかましいっ! 愛してるの安売りで信じるも信じないもあるか!」

 ハボックは自分がもてないと思っていたようだが、日頃女性への
感心を隠さぬばかりでなく、あからさまに見目良い異性への態度
が違う事から複雑な乙女心理として敬遠されていただけで、元々
の評判自体は悪くなかった。
 評価対象がロイ・マスタングであるから普通兵のような扱いを
うけがちだが年齢の割には出世をしている方だし、長身で、金髪蒼目
むくつけき筋肉という程度でなく逞しい体つき、基本目下や女性には
優しく、気配りもある。…思い人が何人かいたとしても、不思議ではない。

 そんな所でロイと付き合うようになってから、ボンキュボンが横を
歩こうと、超グラマラスお姉ちゃんが前を往こうと、平常と態度が
変らぬようになったとあれば、ハボックの評価は更に急上昇だ。

 今日も通りすがりに、赤い口紅が印象的な女性が、長い髪を耳に
掛け流しながら、路上でラブレターをハボックへと渡してきたのを、
通りすがりのロイが偶然目撃してしまった事から、ご機嫌取りに
ハボックは奮戦しているらしい。

「だいたい私は気にしてないと何べんも言っているだろうが!」
「じゃぁ何で俺の言葉に本気がないなんて 腹立ててるんですかっ?」
「それとこれとは別問題だ 第一事実だろう!ことあるごとに好き好き
言ってる奴なんて 単なる口癖と同じではないか」
「なら どうすれば信じてくれるんですか!?」

 コホッ
 小さな咳払いは女性のもので、マスタング中佐司令官室で該当
する人物は一名しかいない。
 その小さな動作一つで、残る男どもを圧倒させる仕草はさすがだ。
瞬時に静まり返ったハボックとロイを見詰る鳶色の眼差しは、平常と変らず
冷静で、それ故に莫迦をやっている自覚があるものには、いたたまれない。

「――そろそろ休憩時間も終了です
中佐 中央司令部よりアームストロング少佐がお見えです
お通ししてもよろしいですか」
「あ、あぁ勿論だとも こちらへ通してくれたまえ」

 昨日の夜に、アームストロング少佐から『出張で東方に寄るので、
昼頃にでもよろしければお時間を頂けませんかな』との電話を
貰っていたロイは、慌てて居住まいを正す。

「じゃぁ 俺は大部屋の方に戻ります」
「いや アームストロング少佐は私的にも交流がある人物でな
お前も紹介しておきたいから残っていろ」
「了解です」

 椅子に座るロイの傍らに立つ、ハボックはアームストロング少佐とやらに
気に入られたらしい。
 願わくばあと少し筋肉が増えれば完璧だとかで、まだ名乗ってもいないのに
ロイに直接、暫くこの部下をわが輩に預けてみませんかとの談判を
はじめられた時には、ハボックの背中に少々冷や汗が伝わったが、ロイが
苦笑で断ってくれたから安心だろう。

「ハボック アームストロング少佐だ 自己紹介をしたまえ」
「ハッ! はじめましてアームストロング少佐 マスタング中佐護衛官を
勤めさせていただいておりますジャン・ハボック少尉であります」
「うむ」
「ちなみに好きな人物はロイ・マスタング中佐
好きな言葉はロイ・マスタング中佐 興味ある人物はロイ・マスタング中佐
尊敬する人物もロイ・マスタング中佐 趣味はロイ・マスタング中佐の観察
得意な料理はロイ・マスタング中佐の好物で 好みのタイプは黒髪黒目
特技はロイ・マスタング中佐のお世話であります!」

 教本に載せたいような、見事な敬礼をしたハボックとは対称的に
肘を机に付けて、両手指を組んでいたロイのポーズは硬直しきっていた。
 …ハボックの言はあきらかに、先ほどの意趣返しである。
好きだけでは信じられぬというなら、徹底して外部に知らしめてやろうとの
アイディアは、見事な自己紹介として表現された。

「フムッ!マスタング中佐 このように慕われてる部下がいるとは
羨ましい限りですな」
 善意の塊といったアームストロング少佐は、ハボックの言葉をそのまま
裏なく受け止め、感心しきったような表情でしきり頷いている。

 ようやく硬直が解けたロイが、眦つりあげハボックを睨んでも、当人は
涼しい顔で知らぬフリを貫いていた。

「ハ…ハハ…いや…まぁ…」
 アームストロング少佐が帰ったら、先ほどの続きを納得いくまで追求して
やろうと思っていたロイは、下手に色々企むタイプより直情径行の方が
数倍恐ろしいこともあるのだと、身に滲みて実感をしていた。

 

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捨て身の嫌がらせ。でも本心。