好きと愛

 視察帰り、新しく出来た店を見つけたとかで買ってきた
フルーツタルトを頬張る大佐は上機嫌だ。
 普段なら絶対に嫌がる、俺の分のチーズケーキを、一口分
フォークに刺して差し出し、からかい混じりに
「食わせてあげますから アーン」と
やってみたら素直に口を開けた程だ。

 本当に味わっているのかと疑問になる咀嚼数で
飲み込んだ後、チーズケーキの味もお気に召したらしく
次回はどちらを購入すべきか悩んでいる姿なんて、
きっとこんな時じゃなけりゃ、拝めないだろうと思うと、
自然こっちの頬も緩んでくる。

「大佐 甘いモン好きですよね」
「…そうか? 普通だと思うが……」
 …なかなか好きだと言ってくれない人だと思っていたが、
単に、とことん自分の感情に疎いだけなんだろうか。
 好きでなくちゃ、俺が残りのケーキを進呈した所で
溢れんばかりの笑みなんて、返してこないと思うんだけど。


「そういえばハボック 『好き』という感情と
『愛している』という言葉の意味の違いは解っているか?」
「…愛してるの方が思いが深そう…って感じなぐらいですけど」
 紅茶を飲み終えた大佐に、お代わりを注ぎながら答える。

「うん…間違ってはいないが…及第点には至らんな」
 人一倍情が深いくせに、愛だの恋だのを口にするのを
気恥ずかしがって、話題にもさせない大佐が気にせず
語ってくるのは、珍しいなとこちらも軽い口調で
二つの違いを尋ね返す。

「そう難しい事ではないよ 単に自分主体と相手主体の
違いなだけだ」
「主体…っスか?」
「そう 『好きだ』という言葉は、自分が相手を好きだ
だから傍にいて欲しい 自分を好きになって欲しいと
いう意味合いを多く含んでいるのに対し
『愛している』は例え相手が自分を同じ重さで思ってくれずとも
自分は相手を思い続けていられるし、離れていても寂しくは
有ろうが耐えられるという 強い思いだ」
「…なるほど」
「最も理解しやすいのは 親の『愛』だろうな
あれほど無償で何もかもを捧げられる感情は他にない」

 具体的な大佐の例えで、ようやく納得をするが
そうなると気になるのが、自分の大佐への思い。

「…なんだ 溜息をついて?」
「いえ…俺はまだまだ未熟者だなって自覚しただけっス」
「なんだ 今更」
 そっけないような台詞だが、大佐は軽く微笑んでいて
俺をからかっているだけだとわかる。

「…俺は大佐と離れたくないし 幸せになるなら大佐と
一緒が良いし ずっとずっと傍に居たいしで…
愛の域には達してないなと思いまして」
 俺の言葉を聞いた大佐にフフンと鼻先で笑われ、
更に気分が落ちる。

「なんだそんな事 私とて同様だ」
「…え?」
 意味を確認しようと大佐の顔を、見返すも
その双眸は窓外を眺めていて、こちらに合わせてくれない。
「私は欲張りだからな …お前が私と離れた所で
勝手に幸せになられたりでもしたら…腹が立つ」

 愛してるって言葉より、嬉しい言葉があるなんて
しりませんでしたよ大佐。
 ポーカーフェイスを保ってるフリで、僅かに頬が
紅く染まっているのが、どうしようもなく可愛くて。
 嬉しさを言葉にする代わり、横に回ってぎゅっと抱き締めたら、
大佐の頬はますます紅潮して好きだという気持ちに
歯止めがきかなくなる。 
 
 この人にいつか、「愛してる」と告げられる男になりたいと
幸せを噛み締めながら、俺は思った。 




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ヒューズとは多分愛の領域まで達していたと思いますがでも、ハボロイで幸せ