好きと愛/オマケ2

  危ないと叫ぶより先に、体が動いて大佐を抱え込む。
肩の辺りに、灼熱の塊が当てられたかのような感触を感じたのは一瞬だった。
跳んできた弾丸が、俺の肩章を飛ばし敗れた軍服の下から赤い血がじわりと滲む。

 苦痛の呻きを洩らす代わり、腕の中の大佐の身が心配で、抱き締める力をぎゅっ
と強めると、大佐はやんわりと…だが断固とした動きで俺の戒めを外させて、弾丸
が跳んできた方角を睨みつけ、パチリと指を鳴らした。

 くぐもった低い喚き声が響くと同時、焔が全身に纏わりついた男が半狂乱の態で
服に付いた火を消そうと、路地角から姿を現す。
そうなれば、天下の国家錬金術師殿がお相手せずとも、下っ端だって簡単に捕り
押さえるのが可能だと判断したのだろう、肩を押さえしゃがみこんだ俺に大佐が
厳しい顔で向き直った。

「ハボック!…傷は…無事かっ!?」
 俺が蹲ったのは、大佐が攻撃に移る際うっかり目隠しになってしまわぬようにの
判断で、別に傷の痛みに耐えられなかったという訳じゃない。
むしろうまく骨の部分も主流血管がありそうな箇所も外れて、擦られただけの傷で
済んで幸運だとすら思っていたので、「大丈夫っスよ」とだけ言って微笑む。

 それでも心配そうな顔を崩さぬ大佐に、いつも多大な憂慮を強いられてる身と
して、ふと悪戯心が沸いた。
「…っつぅ…」
大仰に顔をしかめ、大佐から目線を外して地面を見る。
「…ハボック……ハボック!?」
 途端、大佐が現場で作っている凛とした気配が薄れ、頭上で真剣に俺を案じる
呼び掛けの声。
大佐が俺に心を配ってくれる嬉しさと、現場でこれはさすがに不謹慎だったかと
平気だからと笑って答えようと顔を上げた俺の目に、飛び込んだのは迷子になった
子供のように、泣きそうな大佐の顔。

――しまったこの人が一番恐れているのは、自分が怪我するよりも身内が傷つく事
だった。特に中佐…違う…ヒューズ准将がいなくなって、その経緯を追って『自分
のせいで他人が傷を負う』ことに人一倍過敏になっていると、誰より俺が知って
いた筈だったのに。

一言、冗談ですよと告げるにはあまりに痛々しいその表情に、俺は唇を噛み締めた。
「…ごめんなさい」
「…ハボック?」
「ホント、大したケガじゃないんスよ」
「ならば何故そんな辛い顔をしている…痛むのだろう?早く病院へ…」
「アンタを傷つけさせないって 護るって誓ったのに…守るどころか俺が大佐に痛み
を与えてしまった 自己嫌悪の顔ですんで気にしないで下さい」
「…何を言ってるしっかりしろハボック 私はお前のおかげで無傷だぞ ケガも痛み
もない大丈夫だ」
「…そうっスね」
 見掛けではそうっスよねとの後半の台詞は、大佐の心に余計な創痍を与えるだけ
だろうと、自分の思慮の浅さを苦い思いで飲下す。

 早く病院へと急かす大佐の後ろに、平気な顔して居座れる図太さはさすがの俺
にもなく諾々と、ファルマンの運転してくれる車の後部座席に座り込んだ。

「…大佐を無事御守りしたというのに随分難しい顔をされていますね」
バックミラー越しに、俺の様子を伺っていたファルマンにも解るほど態度に出して
しまっていたかと、吐息をついてそのまま後ろに凭れこむ。
「自分の莫迦なトコとか考え無しなところをちょっと反省してたんだよ」
「…大佐は少尉のそういう箇所を含めた上で 気に入っておられると思いますよ」
「ん、サンキュ…って事実だけど否定なしかよキツいなファルマン」
「口先の否定を欲しがるタイプではないでしょう」
「まあな まだまだ己の青い部分が多すぎだって人に指摘されても自分じゃいまいち
解んねえし…情けねえ 早く大佐につり合える立派な男になりてぇよ」
 そう言って目を瞑った俺を、邪魔しないようにの配慮だろう。ファルマンは口を噤み、
それ以上語りかけてはこなかった。

 恋と愛、早く大佐に追いついて堂々と愛していると告げられる人間になりたいと
願う心は真実で。
 ならば大佐の心を考えずの、冗談に乗じたバカな真似は今後はよせとのとの警告
かのように、肩の傷が熱を持ってズキリと痛んだ。