| 話があるのだが、と真面目な顔で上司が切り出したときは どんな無理難題を押し付けられるやらと身構えたハボックが、 楽にしていて構わないの言葉に従って、ロイ個人執務室の ソファに座って五分。 肝心の呼び出した上司は、何事か書類に没頭しているようで、自分の 椅子に固まったままこちらへ動く様子が無い。 「…あの大佐 俺に用があるんじゃないんスか?」 さすがに長い沈黙に間が持たず、後頭部を右手で掻くハボックが 切り出すと、瞬間ロイの身体は座ったまま大きく跳ね上がった。 「大佐…?」 「い、いやそのだな 物事にはタイミングというもの が存在して それをどう計ろうかと…」 珍しくしどろもどろと言っていい口調のロイは、書類に走らせる ペンを止めてはいないが、明らかに文字が重なる個所にまで ペン先を滑らせており、遠目で確認したハボックの方が、慌ててロイの 机へと歩み寄った。 「ちょっと大佐しっかりして下さい そこ記入個所じゃないでしょう」 ひょいと伸ばした手で、尚もロイが書き込もうとする用紙を 取り上げるハボック。 うっかりしていたとでも返されるかと思いきや、 「うっうわっ!!! い、いつのまにお前横にいたっ!!」 と相手が大仰に椅子ごと後退りされたとあっては、呆然と 立ち尽くすしか出来ない。 「いつのまに…ってお化けかなんかみたいに表現しないで下さいよ マジで変ですよ大佐 体調悪いなら送りますから 今日はもう 切り上げたらいかがです?」 言いながら、ハボックが伸ばした手でロイの額に触れる。 熱を測るのに邪魔と軽く掻き分けた黒髪の感触はサラサラで、 気持ち良かったのか無意識にその感触を指で楽しむ動作の後、 武骨な指は、ロイの額に触れた。 「…っすっげぇ熱いですよ!? 大佐マジで大丈夫ですか」 慌てたハボックが見下ろせば、先ほどまで顔色自体は平常であった はずのロイの頬は真っ赤で、更にその身体は硬直しきっていた。 「…えっと とりあえず 車 取って…」 見たことの無いロイの様子に戸惑ったハボックが、 掌を外そうとした瞬間、ロイの両手がその手首をがっしりと掴んだ。 「ハ、ハボック…あのな」 「何ですか?」 「……私はお前を好きらしいのだが…どうしたらいい?」 好きだというだけでも、脳裏が真っ白になる言葉だが どうしたらいいと問い掛けられたら、こちらこそどうしたらいいのやら。 立ち尽くすハボックが、半ば呆然と自分の上司を見下ろすと、 自分の手首を握る手はプルプルと小刻みに震え、 いつも真っ直ぐ前しか見えていないその双眸は、伏せられていた。 「えっと…とりあえず俺 今迄大佐をそういう対象に見てなかったんで 応えかねるんですが…」 困惑したハボックが、呟くように返す。 「…それだけか?」 「は? それだけとは??」 「だから…悪い冗談を言うなとか 気色の悪い戯言をぬかすなとか…」 それまで逸らしていた視線を、ハボックに当てたロイの表情は真剣で、 とても冗談に思えるものではなく、また言われた内容が突拍子も ないことではあったが、別段生理的嫌悪も沸きあがらなかったハボックは そのままその旨を伝える。 ひとしきり、ハボックの台詞を聞き終えたロイに浮かんだのは、 満面の笑顔。 「そうか ならば問題ない これから暫く私をそう言う対象だと思ってみろ …私に惚れるのは簡単だ」 「……脳裏に絶句って言葉がリアルに浮かんだの初めてっスよ」 前向きにも程があるだろうと思うハボックだが、困ったことにその台詞を 吐く主は、それだけの資質も外見をも備えていた。 顔良く、適度に我侭言えて(もっとも数倍のワガママで返されるが) 放っておけなくて、傍にいたいと思う相手。 確かにこれが女友達であったなら、見方を変えれば…… 即座に惚れてしまうパターンであったかもしれない。 …とはいうものの、これが同性の上官であった場合 どう相手すればいいのやら。 少し前にプルプル震えていたロイに、僅かなりとて胸が高鳴った ハボックは、その事実に困惑しながらロイの指を手首から そっと外し、溜息をついた。 「無理だ」と即答できなかった時点で答えは見えているのだが、 ハボック自身はそんな自分の感情に、まだ気付いていない。 ************************* 珍しい…というより私が書いたのは初めてかもなロイ→ハボへの告白 |