| 深夜の残業で、俺と大佐が広い執務室で二人きりになった。 任務直後の、少しハイになってる時とは違い、今の俺は大佐に正直 どう接していいのか解らず、仕方なし目の前の書類整備に没頭する。 一通りの仕事が済んで、手持ち無沙汰になって…さて大佐はどう しているだろうと、顔を上げるとぶつかる視線。 慌てて目を逸らすかと思えば、なぜか大佐はペンを持った状態で 硬直しきってピクリとも動かない。 「……大佐?」 不審に思って声をかけた途端、小さく跳ねた体は横を向き周章し た様子で大佐は何度か首を振った。 「な、なな、なんだね」 「…いやなんだねって…大佐の様子が変だからどうしたのかって」 「…変か?」 「変っス」 実りと進展性のない会話の後、大佐が諦めた様子で大きく溜息を つき、改まった様子で俺へと向き直った。 「率直に言う 私は私の想像で幾通りのものお前にフラれるやり取 りを考えていたのだが…お前がOKを出すという想定は0.01%も 思いつかなかったのだよ」 「…とりあえず大佐の想定内だと どういう風に進展予定だったのか 聞いてもいいっスかね」 「その一、同性相手などと有無言わさず断られ、その理由は尤も だからその後ヒューズを呼び出して酒に付き合わせる その二、 同性であるというのを差し置いても 私が相手というのは考えられ ないと断られ、…ヒューズを呼び出して自分を反省する愚痴に付き あわせる その三、私相手というのを考慮してくれても現在お前に は好きな相手がいるだとか交際している相手がいるだとかで断られ る場合は、タイミングが悪かったと慰めろとヒューズを………」 つい叩きつける勢いで、机隅に置いてあったバインダーを手元に 移せば、その音に驚いたらしい大佐がようやく視線を俺に向ける。 「…なんでどの選択肢も最後はヒューズ中佐に辿りつくんスか」 さりげなく尋ねるつもりが、自分で思っていた以上に不機嫌で低い 声になってしまった。 「何でと言われても…失恋した場合は親友と呑むというのが一般的 ではないのか?」 「学生の頃ならともかくイイ年してそれって変じゃないっスかね」 大佐はなぜ自分が絡まれているのか解らない、といった困った顔で 言葉を探しつつ小さく答える。 「…そんなものなのか?」 自信なさそうな疑問系の声色に、ひょっとしての思い当たる節。 「……大佐もしかして自分から好きな人に振られた事とかって経験 なかったりします?」 「…そんな事はない あまりに会えない時間が続いてしまったりとか 自分以外の女性と話すなと言ってきた彼女とは続かなくて 私が振ら れた形でお別れしたぞ」 「…それは大佐の思いやりで 実質的には女性が振られてるんじゃ ないっスかね」 と、問い返せば無言になるのは心当たりがあるからだろう。 「…よく解らんがヒューズと呑んではいけないのか?」 純粋な疑問以外、含まれていない大佐の言葉。 これが駆け引きじゃなく、素なのだとしたら…異性との経験値は ともかくとして、色んな意味での同性との関わり合い……色事含め 俺の方が上なのかも(とはいっても、俺だって仕掛けられたら逃げ切る 方法とか、嫌いではないけれどそういう視点で見れぬ相手からの告白 を、いかに傷つけずお断りできるかとかそんなレベルなんだけど) 頭がいい人なのに、仕組もうと思えば幾らでも仕込ができる人な のに、どうしてこうも何か抜けているのかと思えば、多分人の感情と いうものが、この人は計算できていないのだろう。 自分が心を殺せる人だから、…どこまでも一人踏ん張ってまっすぐ 行く末を目指せる人だから、…他人の弱く折れてしまう思いを心では 理解していても、計算に組み込むことができず。 結果として出世しか見えていない、冷酷な人間に思われてしまう 変なところで不器用で、損な人。 ヒューズ中佐に変な嫉妬する前に、俺は大佐の中にある俺の居場所 を固めてしまおうと決意をし、大股で大佐の席に歩み寄る。 『面白いから』と言う理由だけで、付き合いを了承したんじゃないと、 視点を変えたら、自分も大佐のことを好きだったと気付いたときちん と言葉にすべく屈む俺を見上げる大佐の目は、深夜二人きりという 状況にもかかわらずまったく警戒が含まれておらず、これからの苦労 を想像した俺は、内心苦笑した。 *********************** 黒ハボでかるーくOKしちゃっても、我に返ったら…とのMつき様のお言葉で妄想話です |