気付けるか/オマケ5

  なにをきっかけで、そんな事を言ってしまったのかは覚えていない。
「フフン どうだお前の想い人は可愛いだろう?」
とハボックを揶揄するつもりで振り返ったら、コイツめゆったりとした笑い
を浮かべ、いとも簡単に「ええ、そうっスね」と返しやがった。

 ちょっと待て。そこでそう返されてしまっては、年上なのに上役なのに
私のほうが簡単にいなされてしまった、子供のようではないか。
声に出さずにそう思っているだけだったのに、私の表情を見取ったハボックは
その少し勘に触る余裕のある表情のまま、クスリと笑った。

「その驚いた猫みたいに目ェまん丸にしてる顔もかわいいっスよ」
「…っお、お前な 違うだろうっここで私が言った事みたいなのを聞いたら
『自分で言うな』とか『莫迦言うな』って言うのが本当だろうがっ」
「いやいや本当に可愛いから同意したんでご心配なく」
「違うっ 年上に向かってかわいいとか言うんじゃないっ」
「…はいはい じゃあ否定してさし上げますよ かわいくない可愛くない」
 ニコニコしながら言うハボックの、あやす口調に頬が赤らむのが解る。

「だからっその言い方を改めろ それでは説得力がないだろう」
「無理っスよ だって大佐がかわいいのは事実なんですから それに大佐に
質問ですけどかつてオツキアイした彼女達が ちょっと擽ったそうな顔で
『私 かわいいでしょ?』なんて聞いてきたら俺と同じように考えただろうな
って思いません?」
「それはいいんだ その相手たちが可愛いのは事実であって歪曲ではない」

 キッパリと言い切った私の態度に、ハボックは盛大に吹き出した。
「ほんっと大佐は厭きなくてイイなあ 尊大かと思えばたまに自分をすげェ
過小評価してたり 冷たいのかと思えば中身はものすごく熱血だったり有能
な人だって遠目でだと思っていたのに近くにきたら要所要所で抜けてたり…」
「…何が言いたい」
「いえ別に 事実の確認っスよ」
「…呆れたとでも言いたいのか」
「いーえ とんでもない 大佐の素顔を知れる距離に来れて増々好きになり
ました」

「おっお前は いつからそんなタラシ文句をサラリと言ってのけるようになった
んだ?私の知ってるハボックは女性相手でもそんな言葉を吐けん筈だ!」
「タラシ言葉も何も 思ってること口にしてるだけっスから」
 ゆとりを持って、こちらを眺めるハボックに頬の赤みが増すのが解った。
「それに いいんです」
 続いたハボックの言葉は主語がなくて意味が解らず、首を傾げる。
「大佐が可愛かろうが可愛くなかろうが 俺の好きだって気持ちはまったく
変りませんから」

 蒼い双眸はまっすぐに、そして優しく私を見下ろしていた。
――悔しいが、今のやり取りではハボックの方が大人な応対をしている気が
しないでもない

 せめてもの意趣返しに、
「わ、私は今のままのお前が気に入ってるんだからな お前がその鷹揚さを
失ったり口先だけで咄嗟の判断もできないような人間になったら 好きじゃ
なくなってやる」
そう言ってやったのに、ハボックは微笑んだまま、私の耳朶に唇を寄せ
「…今のままの俺が好きと言ってくれて 嬉しいっス」
と低く囁き返す。

 普段、頭が悪いなどと自称しているくせに、なぜこうも素早く私が言葉に
詰まる台詞を、切り返せるのだ。
声を失って、少し睨んでやろうと上げた顔に落ちた来たハボックの唇。

 伸ばされた腕が背中に廻る感触が温かくて、私はもうそれ以上の反論を諦め
黙って目を瞑った。
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今回は包容力ありのハボックで