腕組における深層心理/ハボ

 先日ブレダが読んだ、心理学とやらの本に載っていた言葉が、
現在俺の大佐を追う行動における最注目点だ。

『人の腕組みは無意識なうちの己を護ろうとする防衛行動』
……あれ?大佐俺の記憶の中で、始終腕を組んでいるんだけど。

朝 車でお迎えに行って後部座席に大佐を座らせると、何やら
考え込む様子で腕を組んで、大佐は背凭れに寄りかかる。
…目を伏せたその顔は、一見思慮深げなようだが……こりゃ
単に寝ているだけだと、今では解る。

 司令本部到着、車を停めにいった俺を大佐が玄関で待ってて
くれる……のは嬉しいけれど、やっぱり腕を組んだ立ち姿だ。
苦手な書類処理を行って、さて一段落ついたと顔を上げれば、
目に入るのは、山と積まれた書類を睨む大佐の姿…もちろん
腕を組んでだ。
 気になって、演習中に報告待機中に書類処理の合間…どれも
必ずとは言わないまでも、ふと気付くと大佐は腕を組んでいた。

「…鬱陶しいぞ ハボック」
「何がっスか?」
「二日ほど前からのお前の視線だ」
「…気づかれてましたか コッソリ見てたつもりだったんですけど」
「あれをコッソリだと主張するなら 隠密行動が必要な任務
に今後お前を赴かせる真似は一切できんな…今更私に見惚れてたわけ
でもあるまい?」
 鼻先で笑いながらの大佐の台詞は、追求ではなく今更何だという
問い掛けで、俺がごまかそうと適当言えば、それに乗って流してくれる
だろうとわかるけれど、ここは一つ正直な思いを返しておこう。

「ブレダが読んでた本にね『腕組みは無意識の自己防衛反応だ』
って書いてあったんスよ …で、気づいたら大佐いつも……」
俺の濁した語尾に、大佐はおやという顔をして自分の胸下を見下ろした。
……そこにあるのは、左右の掌が交差して脇腹に向かう形に置かれた…
つまりは、組まれた手。

「で、大佐は俺と居るときでもそうやってるなって」
「……私は別にお前に対して警戒を抱いていないぞ」
「無意識ってところがキツいんじゃないスか」

 しばらく困った顔をしていた大佐は、何か思い当たったようで顔を上げて
俺に向き直った。
「私が腕を組むのは この服装の時だけだと思うのだが」
「……あっ」

 言われてみれば、その通り。
大佐が腕を組んでるのはいつも軍服を纏っている時だけで、記憶の
どこを漁っても、私服でくつろいだ大佐の腕組み姿はありゃしない。

「えーっと…俺といる時は全然無警戒でいてくれてるんですよね?」
「…わざわざ聞くな馬鹿者 お前の回想に私服で腕を組んだ私の図が
無いのならばそれが答だろう そんなだからお前はデリカシーにかける
と言われるんだ」
「はい 全く持ってごもっともで」

 もともとの職務上プラス、特に大佐の性格と言う付加価値がありでは、
軍服姿で居る大佐は、どこもかしこも敵だらけだ。…それこそこの環境で
防衛本能なしなら、ヤバいだろうという程に。

「…俺と二人きりのときは 軍服でも周囲を警戒しないでいられるよう
精進します」
「優秀な護衛官に期待しよう」
 そう言って組んでいた腕をとき、俺の肩を軽く叩いた大佐は小さく笑った。