一回り大きめの

「炎天下の力仕事にこんなモン着てけねェよ」
天下のアメストリス国軍の制服上着を、暑苦しいからと椅子の後ろに掛け
備品のハンマーを担いでいったハボックは、今頃汗みどろで破壊された
建築物撤去と、現場検証に勤しんでいるだろう。

 軍人にとって褒め言葉にはならぬかもしれないが、ハボックはツルハシ
やらハンマーやらの小道具が、えらく似合う。
ライフルやバズーカといった存在感のある武器も勿論似合うのだが、小型
化された拳銃も似合い、その上力仕事系の道具まで似合うというのだから
男らしさを信奉する軍隊という場所で、ハボックが部下達に慕われるのも
尤もな事だ。

 何気なく手に取ったハボックの上着からは、微かに染み付いた紫煙の香
り。ヘビースモーカーなハボックは、それでも吸えれば何でもいいという
訳ではないらしく、自分で購入しているのはいつも同じ銘柄だ。
…もっとも貰い煙草であれば、種類には拘ってないようだが。
私から見れば…違うな、嗅げばというのが正しい表現になるがどれも同じ
でしかない只の煙なのに、…どういう理由だろう。今はこれがハッキリと
ハボックの愛用している煙草の匂いだと解ってしまう。

 なんとなく自分の肩に、ハボックの上着の肩の辺りを合わせてみれば、
腰丈のはずの服裾が、自分の太腿辺りにまで届くのが癪に障る。
その長さが、子供がよく遊ぶ正義の味方ごっことやらで首に巻きつけて
いる布地ならぬマントと似たような丈だったので、昔を懐かしむ年齢でも
ないがと一人ごち、自分の上着を脱いで羽織ってみた。
 すっぽりと収まる上半身は、ハボックの匂いに包まれて…抱き締められ
ている時のようのようで、頬が赤らむが幸い今は誰もいない。

 丁度良いから、これを借りたまま執務室で仮眠を取るとしよう。
暖かくて、心が落ち着いて、…傍にハボックがいるみたいで落ち着いて
眠れそうだ。…ハボックが帰ってくる前に、椅子の背凭れに戻しておけば
問題あるまい。



「ただいま戻りました うー暑ィ…ってあれ?大佐いないの」
「上着が椅子にかけてあるから個部屋の方じゃねえ?」
ブレダが指差す、大佐の執務席を見れば確かに椅子の背凭れに立派な
階級章つきの青い制服上着。
 声がしてもこちらに来ないということは、おそらく熟睡中なのだろう。
…だって起きてりゃ、自分がいかに皆が居ない間仕事を頑張っていたか、
無言でアピールしてくるし。
そっと個人執務室を覗くと、来客用ソファの上でクッションを枕に抱えて
上着を布団代わりに掛けて眠る、大佐の姿。
あれ、上着は椅子にあったのにとよく見れば、サイズが腰下まであって
……少し大きなその服はひょっとして俺のやつ?

肝心な時に何も言ってくれないし、愛情表現を欲しがっても「そんな恥ず
かしい言葉口にできるか」と横を向いてしまう人なのに、たまに見せて
くれる無言の行動が、こんなにも愛おしくなるほどかわいくて。

 さて、このまま起きるまで横に居て、俺の上着に包まって眠ってくれて
いたんですねと告げようか。それとも知らん顔をして机の前に座ってて
大佐が戻ってきたら、俺の上着がないんですけど知りませんかと尋ねて
みようか。

――俺のささやかな悪戯計画を察する様子もなく、大佐はいつものように
寝息すらない静かな顔で、気持ち良さそうに眠っていた。