注目の人/下


「うっわ…ベタベタ これって何で固まってるんです 変に白っぽいっス
けど…」
まずはロイの髪を崩そうと、指で荒く梳いたハボックはその感触に顔を
しかめた。
「多分…砂糖がけのパンを食べて寝て…その袋が起きたとき破れてたから
それかと」
「仮眠室で物を食わんで下さいよ ベッドは大丈夫っスね?」
「勿論だ 汚していて私の仕業とばれたら中尉に怒られるからな!きちん
と確認したとも」

「…威張っていう内容じゃないっスよ」
トイレには幸い誰も居らず、鏡前にロイを立たせたハボックはあえて背後
から密着し、その頭に顔を埋め鼻をかすかに鳴らした。
「どうりで…甘い匂いがするワケだ」
「こらっ!重い …のしかかるな」
「…昼休みがまだな俺の前で そんな甘い匂いをさせてる方が悪い」
「…好きでさせてる訳じゃない」
「じゃあ寝起きの無防備顔で 猫耳姿をホイホイ晒してるアンタが悪い」
「だから好きで……待てっ落ち着け中尉がくれたリミットは15分だ」

自分の発言で、徐々に目が据わっていくハボックにあわてたロイが、体を
反転させ寄ってくる厚い胸板を掌で押し返す。
「二人きりで 密着していて猫耳で甘い匂いさせて…その姿を他人に見せ
まくって俺だけオアズケ?」
ハボックの低い声が、耳朶近くで響きロイの背筋をぞくりとさせる。

「お預けもなにも… 勤務中だ!」
あまり見る事のできない、真摯な瞳をしたハボックが指を伸ばしてきて、
ロイが小さく震えた。
「なにビクついてるんスか…髪の毛…直そうとしただけっスよ」
どこか熱を秘めた囁きに、自分が怯えてしまってるのを感じたロイが悔し
げに唇を噛んだ。

部下にからかわれているのが不本意だとばかり、ハボックの肩を叩くと
その手首を鍛えられた指が締め付けた。
「は…離せっ!」
眦を細めたハボックが、口端を歪み上げロイを見下ろす。
「我慢して身づくろいまでしてあげる犬に ご褒美一つぐらいくれても
いいでしょ?」
ロイが返事をする間もなく、ハボックの空いている方の手はロイの顎を
強引に捉え、唇が重ねられた。

ねじ伏せるような口接けは、ロイの呼吸が保てなくなる寸前まで強いられ
口内を蹂躙する。
「ゴチでした」
ニヤリと笑ったハボックを、目元を朱に染めたロイが睨みつけたが、当人
はまるで意に介していないようだった。

「…おぼえてろよ」
「勿論 忘れてなんかあげませんよ尊敬する上司が菓子パン食って猫耳
寝癖をつけてあまつさえそれを他人に見せまくっていただなんて」

――どうも、今回は分が悪そうだ。
作り笑顔で背後からロイの髪を整えるハボックを、鏡越しに眺めるロイは
髪が戻るまでは大人しくしておこうと、抵抗をやめる事にするのだった。