首輪/下


「…はぁ…まぁ…なんかの余興の練習ですか?」
「いやいやロイの奴がなお前とのコミュニケーションがうまく行かないって
悩んでるから じゃぁわんこの気持ち体験してみろと 俺がこのアイテム
を差し入れしてやったという訳」
「…誰が犬なんですか」
「お前だよ 今までだって他の奴らに言われた事ねぇの?犬っぽいって」
「…言われますね」
 だが数回合っただけの相手、しかも一応はまだ自分の気質を表して
いないうちにそう呼ばれたのは始めてで、見た目や地位以上に色んな
意味でこの人物は侮れないと、ハボックは苦笑した。

 そしてヒューズの言葉は一見もっともなようだが、言うまでもなくハボック
は犬でなく人であって、首輪をつける趣味もつけられる趣味もある筈が
ないし、それを他人が着用しているからと言って喜ぶ趣味もない。
…とりあえず今までは。

 だが、親友を信頼しているのか普通であれば大慌てしそうな姿のロイ
は、見られた事でもう慌ててもしょうがないと開き直ったのか、頬を少し
染めて目線をそらしたまま、ヒューズの横にちょこんと腰を下ろした。
 偉そうにしてみても、多少の気恥ずかしさはあるのだろう。
無意識の動きで抱えたクッションに顔をうずめるロイに、そういう趣味が
ない筈のハボックの目にすら、その様子はかわいく映る。

「…で大佐は 素直にヒューズ中佐の言う事聞いたんスか?」
「お前が言ったんじゃないか 大佐ぐらい何でもできると 俺なんかの
気持ちなんて理解できないって 確かに私は優秀だからなっ!頭も良く
キレモノで女性にだってもてる!…お前の言うとおり理解できていない
こともあるかもしれないから 今後の為にも部下の気持ちをわかる上司
になろうと前向きに取り組んでやったんだぞ」
「…言いましたけど アレは酔っ払い同士のシャレじゃないですか 大体
俺が言ったのは 女の子が何でああも皆揃って大佐に……」
 引っかかるのか謎だと言おうとして、ハボックはあらためて目下に座って
いるロイを見た。

 …方法はかーなーり間違っているが、基本はまっすぐに努力をしよう
という心持で、…犬耳&首輪。
一歩間違えれば…いや間違えなくても莫迦な行為だが、似合い度から
比較すれば企んだ内容をバカかと言うよりは、「グッジョブ!」と親指を
たてて賞賛したい気持ちになれる。
なるほど、男相手でここまで無意識に思わせるなら女性を誑すぐらい
お手のうちかもしれない。

「ヒューズ中佐 申し上げたい事が」
「おう何だ言え」
「お心遣いありがとうございます 中佐のおかげで番犬の心構えできまし
たよ 大佐のこういうトコ他人の前で晒させないようにするのも俺の仕事
っつーことですね」
「…やっぱお前 俺の見込みどおりだわ」
 ニヤリと唇の片端を上げたヒューズとハボックは、視線で語り合い
ロイの頭上で会話をしていた。

「個人的には大佐には犬耳よりネコのほうが似合うと思いますが」
「おっお前やっぱ見る目あるな! …黒猫耳と鈴首輪の方が俺も似合う
とは思うぜ」
「首輪より紅い鈴付きリボンなんてどうっスかね」
 
 自分とハボックの相互理解より、なぜかヒューズとハボックの相互理解
のほうが深まってしまっているぞの事態に困惑しているロイは、いつか
こいつらにも犬耳と首輪をつけさせてやろうと密かに誓うのだった。

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いろんな意味で鈍い人をほっとけない二人