思い込み解消努力/下

「いつもみたいに じゆうにふるまえってゆったのはおまえなのに」
「…確かに言いましたけど そんな既に呂律廻ってない口振りの人が新たに酒に
口を付けようとしたら止めるのが大人としての務めっス」
「なんだとー オトナだというのならわたしのほーがお前よりとしうえでオトナ
だぞ つとめとかゆうな」
「はいはい その通りですね」

自然あやすようになってしまった俺の口調が気に障ったらしく、むぅと口を
噤んだ大佐は、わざとらしく反対隣に座る男へ向き直り、にこりと笑った。

「それは美味いのか?」
「えっ!?あ、はぁこの店オリジナルのカクテルだとかで ちょっと甘いですけど
…俺は好きです」
「一口 くれないか?」

ただでさえ、巷に英雄と名高い焔の錬金術師の横に座ることになっちゃったよ
俺と、緊張していたらしい男は、大佐に話しかけられガチガチのまま、頷いた。

「えっと…でもこれ 俺口つけちゃってるんですけれど」
「構わんよ」
俺への応対とは違い、一見普通に見える様子で微笑むのだから始末に悪い。
「ああなるほど…飲み口が涼やかで後味も感じいい 良い物を教えてもらった
礼を言う」
「い、いえ あっもし今みたいなのがお好きでしたら他にちょっと色が違って似た
感じのもあるんですよ あの…もし良かったら試してみませんか?」
「それは興味あるな…頼んでもらっても良いかね?」
「勿論です!!」
「あっあの…マスタング大佐 もしよろしかったらコッチも試してみませんか?」
「これも珍しい酒なんスよっ!こっちどうですか」
「俺のおススメはこれなんですがっ!」
「ああ ありがとう」

階級が幾つも上の、噂に名高いエリートであるロイ・マスタングがにこにこと
グラスを手に、礼を言っているのを見た同じテーブルの奴らは、我先にと大佐へ
近づき色々と語りかけている。

普段は垣根を感じ、悪い噂しかない大佐の親しげな表情に興奮しているのだと
は理解できるが…正直、俺にとっては面白くはない展開だ。それに、外面作る
大佐は一見普通のようだが、中身は現在完全な酔っ払いのはず。

新たに渡されようとしたグラスを、俺が取り上げたのに気付いた大佐がようやく
こちらへと視線を戻してくれた。
「駄目っスよ大佐 どうしてもまだ飲みたいならせめて胃になんか入れてからに
して下さい」
さりげなく、大佐の背後からメニューを前に廻し抱え込むようにして俺と大佐
はこの距離が許されているんだぞと、周囲に印象付けさせる。

「何が喰いたいっスか?」
「んー はぼっくのすすめてくれるのは全部おいしーからはぼっくが決めて」

――俺の腕の中でだけ、俺を相手にしているときだけ気が緩むのだろうか。
そんなふうに自惚れてしまいそうなほど無防備に、今しがたまでのしっかりした
対応を忘れ、大佐は俺にもたれかかっている。
メニューの一つ一つを指差しては俺にこれはどうかと、酔っ払い特有の巻き舌
で確認を求める様子は、他のやつらにも見えているだろう。

惚れた贔屓目差し引いても、上機嫌に俺の説明に耳を傾けにっこり丁寧に礼を
言ってくる大佐は尊大さなんて微塵もなく、困った庇護欲が沸いてくる。

駄目だ、俺はまだまだ修行が足りない。
大佐の可愛いところみんなに見せまくり、もっと味方を作ってもらって誤解を
している奴らには、本当の大佐を知って貰いたいと望んでいた筈なのに。
包容力の足りない俺は、俺の腕の中に納まって楽しそうにしてくれている大佐が
かわいくて、誰にも見せたくなくなってしまう。

「…大佐 可愛げキャンセルできますか」
「きゃんせる? なんのことだ」
 きょとんとした顔で俺を見上げてきた大佐の脳裏からは、既に俺がお願いした
から無茶な呑み方をしたのだという事実は、すっかり消え去っているらしい。

番犬よろしく大佐からピッタリ離れない俺を、揶揄する声は一部嫉妬に満ちて
いる。それでも大佐の邪気なく微笑む顔を、これ以上他の奴らに見せるぐらい
なら、恨まれた方が数倍マシだと決意をし、宴会終了までガード最高警戒レベル
で、俺はひたすら大佐の姿を守り隠し続けた。