| ノックと同時に扉を開けて、ずかずかと入ってくる部下を咎めよう としないのは、既にそれが何度も繰り返された光景であるからだ。 「大佐 メシ行きません?」 ノレンに腕押し・馬耳東風・糠に釘と昔聞きかじった異国の諺とやら を思い浮かべつつ、それでも一応ひとこと言っておいてやろうかと 顔を上げたロイは、にこにこと『ご飯だご飯だメシの時間だ〜♪』と 目に見えないシッポをブンブンとでも振っていそうな上機嫌なハボック を見て、小言を呑みこんだ。 「…楽しそうでいいな お前は」 「メシを楽しみにしないだなんて ソッチの方が人生損してるだけだと 思いますが、サー」 「ハタチを越えたら後は肉になるだけだ 無駄な栄養摂取は慎むべき だろうし頭の回転を良くする為にも食事は考えて…」 「お言葉ですが」 ロイの言葉中途、割り込んだハボックは大きな掌をロイの眼前に翳し その言葉を遮った。 「俺 二十歳越えて数年立ちますがまだミリ単位とはいえ身長伸びて るんスけど」 「……むやみと食べまくる男だとは思っていたが お前その年でまだ 成長してるのか…」 「そうそう だから喰ったモンは無駄な栄養じゃなく大事な骨肉になり ますので ご憂慮なさってくださらずとも大丈夫です」 「…あいにく 私はもうお前のように摂取しまくったらその糖分や カロリーが無駄になってしまう体になってしまっているんだ …今日は この書類の処理があるから昼はいい 一食抜いてもたいして変らん」 机の片隅に積まれた束となった紙を疲れた目で見たロイが、とても 食欲などないと頭を振るのに、ハボックが間近に詰め寄り目線を同じ 高さにあわせた。 「駄目っスよ! 頭だって色々動かすのに栄養いるんでしょ 売店で 適当になんか買ってきてあげますから…何がいいっスか?」 「食べるのが面倒だ いらない」 「そういうワガママ言う上司には…」 書類処理に疲れていたロイが、机の上にへばっている体勢でいたの に乗じて、ハボックが上から圧し掛かった。 「ぐっ…!こらっ重いぞハボック!!どかんかっ!」 「メシもろくに食わねえから 俺一人退けられないんスよ少しは胃に 何か納めたほうが効率だって捗りますって…ほら何がいいっスか?」 「…なんでもいい」 「何でもいいは一番対処に困る返答だって頭良い大佐ならよーーく ご存知の筈かと思っておりましたが?」 「…方法を部下に任せるのは信頼している証だぞ」 「それは戦闘や仕事に関しての場合ですよね 今は俺が個人的な行為 で大佐の為に私用の時間を割こうと提案してるんです……なのにそれ で『なんでもいい』?」 「…焼いてない系の甘いもの」 「了解 フルーツサンドでも残ってたらいいんですけど…なければ プリンとゼリーどっちがいいっスか?」 「プリン」 「んじゃ ちょっくら行って来ます」 軽い敬礼をして、ロイ個人執務室から出てきたハボックは、同じく 業務に負われホットドックを片手に、書類処理に励むブレダと目が 合った。 他のメンバーは食事や見廻り時間だとかで、席を外しているらしく ブレダも少し休む気になったのか、ハボックを手招きした。 「…お前さ 元々面倒見は悪くねぇ方だったし体動かすのは嫌いじゃ ねえ方だったけど大佐に関しては異常がつくぐらい面倒見よすぎじゃ ねえか? わざわざメシまで買いに行ってやるなんてよ」 「そうか?」 扉越しのやり取りは、声を潜めていなかったのでブレダにまで届い ていたらしい。 「仮に買いに行ってやるとしてもせいぜい自分のメシついでに売残りが 普通だろうよ お前大佐前でだけ邪気がないふり徹底してるよな わざわざ悪戯まがいに大佐に接近までして…って行動を妙に思っても 不思議じゃねえだろ?」 「ああそりゃ簡単 大佐がそういう事をしでかす俺を気に入ってくれてる からだよ」 「は?」 紙パックの残り少ないジュースを盛大に音立て啜っていた、ブレダ の動きが止まった。 「大佐はさ 基本構われるの嫌いだしおせっかいされるのも苦手みたい なんだけどな その手のチョッカイも『こっちがやりたいからやってるん だ』って感じで押してしまえば結構流されやすいんだよ」 「ああ…確かにそういう所あるよな」 ハボックだけでなく、よくこの部屋に入り浸っている、大佐の友人の 態度を思い出して納得したらしいブレダも同意を示す。 「で まあ自分で言うななんだけど 俺の特性は人に懐きやすい雰囲気 を出せるとこだからな 最大の武器を生かして最大の効果を狙うのが 一番の得策…ってのはお前お得意の兵法でも常識だろ?利用して 近付ける方法があるなら それにこしたことねえし」 フルーツサンドが売り切れると、部屋を出て行ったハボックを見送る ブレダは、その気遣いを女性に向ければ数十倍お前も異性にモテるよう になるのになと小さく呟きつつも、ハボックの顔が幸せそうであるの も事実だからあえて言わずにおいてもよいかと、黙って手を振った。 ******************** ちなみにこの時点では、お互い自分の片思いだと思ってます(笑) |