甘えの答え


 
置いていくから付いて来いの一言で、俺をその場に残していった筈の大佐。
忙しい人だから、これが最後の対面かもしれないなんて覚悟をしていたのに、
何故か大佐は今日も俺の病室を訪れては、何をするでなく傍らの椅子に座り
ニュースペーパーをめくっている。

本来複数の人間で利用する筈の病室だが、大佐がホムンクルスと戦っての
被害で入院であることを理由に、またの襲撃があってはいけないと傍らにある
ベッドは空のまま、俺の個室としてあてがわれている。

一日一本とはいえ、気兼ねなく煙草は吸えるし下半身が不自由なことで
生じる醜態を人前で晒さなくて済むという点では感謝をしているし、色々と
大部屋よりは便利なのは事実だ。
だが、本来の個室でなくあえて複人数用部屋を個人室として俺を寝させて
いるのは……大佐のサボり場所として目を付けられたからではないだろうか。
ピラッとめくったカーテンの向こうで白い枕に抱きついて眠っている大佐を
見てると、そんな邪推してしまう。

相変わらず、息をしているのかと不安になるほどの静かな眠り。
皺になりやすい材質の白シャツが、起きてもそのままシワなくピンとしたまま
なのは流石だが、…肝心な頭に寝癖が付いてちゃ、視察と称して外に出て
俺のところに脚を向けていたと、バレちゃいますよ、大佐。

頭を撫で付けて、その撥ねそうな髪の毛を治してあげたいけれど。
――カーテンまでは伸ばせば届く指も、今の俺じゃベッドの大佐に届かない

暫くして、俺の視線に気づいたらしい大佐がうっすらと目を開けた。
無防備な寝ぼけ眼がかわいくて、その大佐に手を伸ばせないのが切なくて。
色んな複雑な心から、大佐にお目覚めですかの代わりに一言告げる。

「ねぇ大佐 忙しい時とかにも…たまにでいいから俺を思い出してくれますか」

まだ半分眠ったままらしい大佐が、むぅとした顔で俺を睨む。
つまらないことを言うなとでも叱られるかと思えば、返されたのは俺にとって
それ以上にキツいお言葉だった。

「思い出してなんてやるもんか」

…そうですね、大佐が待っているといってくれた言葉だけで俺は納得をして
おくべきでした。
忙しい人だし、色々考えなくちゃいけない事はあるだろうし、先に行くと言い
ながら俺の元を訪れてくれるだけで、満足しなくちゃいけないのだろうけど、
それでもヤッパリ今の大佐の台詞は、心に痛い。
追いついて来いと言ったこの人は、置いていった者にまで心を配っていては
身が持たないだろう。
だが、続いたのはそんな暗い気持ちを吹っ飛ばしてくれる一言だった。

「大体 忘れたことがないのに思い出すなんて不可能だ」

――それって、常に俺を思ってくれていると取っていいんですか。
聞き返したいけれど、不可能だと告げたきり枕を抱いたまま壁側を向いた
大佐に、質問を繰り返せば枕が飛んでくるのは目に見えている。

自然、どうしても緩んでくる口元を見られても、大佐はニヤニヤするなと
怒りそうだし。
それでも赤く染まってるだろう大佐の頬を見たら、追求したくなってしまう。

ほんの少し悩んだ末、めくり上げたカーテン端から俺は指を外し、狸寝入り
の大佐の気が済むまで、声をかけずに置こうと枕へ改めて寄りかかった。

窓の向うの空は、気持ちいいほど青い。
あの空の下、いつか、絶対。大佐を追いかけて、追いついて「ただいま」と
告げてやると思いながら、伸びをしてダンベルを持ち上げた。

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本誌読んだ 再会を…二人の再会を切に…!