喫煙のきっかけ/オマケ


低レベルな応酬の後、やはり引くつもりの無いハボックは短くなった
煙草を携帯灰皿で潰し消した。
そこでやめるのかと思いきや、意地にでもなったかのように『本当
なら明日予定分』と呟き、新たな包みを胸ポケットから引っ張りだす。

「…まだ吸うのか? 節煙するのではなかったのか」
「明日からにしました」
「行儀が悪いから咥えたまま喋るんじゃない」
「そういやそれ 前にベッドの上でも言われましたよね」
「………ハボック少尉 火が必要だろう」

ロイの机の方から、ガタリと引き出しが動く音がして顔を上げた
ハボックの眼に、手袋を装着しようとする上司の姿が眼に映った。
「うわっ ちょっ…タンマ!なんで軽い痴話げんかに発火布なんて
物騒なモン持ち出してきてんスかっ!」
「なにが痴話げんかだっ! これは心優しい上司が喫煙で体を
痛める部下を案じてやってるやり取りだっ」

「えーでもー 働きさえこなせば煙草をフカそうがつまみ喰いをしな
がらの状態でも勤務オッケーって言ってた上司が いきなり体に悪い
から禁煙しろって言い出すのは…やっぱ俺への気遣いと愛でしょ?
充分痴話げんかじゃないっスか」

にへっと人好きのする笑顔で返すハボックに、ロイは何かを言いたげ
に口をパクパクと数回開閉させると、勢い良く横へ向いた。
「そんな訳あるかっ! 私がいきなり煙草を嫌いになったんだ!煙い!
臭い!!」
「大佐のそういう嘘って ホントかわいいっスね」
 
机に頬杖をついたハボックが、まだ火の付いていない煙草を指に挟み、
上機嫌に笑い続ける。
「なんで 嘘だと断言できる」
「今更でしょ ヒューズ中……准将が真横で吸ってた時だって平気な
顔してたし 飲み屋で煙濛濛の中宴会でも気にしてなかったですもん」
「……それをよこせ」
「燃やす気ですか!?イヤですよまた値上がりするってのに」
「ならば倍の値段で買ってやる!ムカつくからそれを燃やさせろっ」
「いやーん 心優しいはずの上司が無抵抗な無機物にヤツアタリしよ
うとしてるぅー」
「ええい 気色の悪い話し方をやめろっ!」
「嘘つくところも可愛いけど そうやって毛ェ逆立てた猫みたいに怒って
る大佐もかんわいー」
ロイの怒りを悉くスルーするハボックに、ついに限界を迎えたらしい上司
は手袋を装着すると立ち上がった。

「…もういい お前ごと燃してやるっ!」

「あ、いけね見回りの時間だ じゃ、失礼しますsir」
ここはひとまず退散と、からかいの限度の頃合と見たハボックは、時計
を眺め素早く姿を消した。

ハボックが不在になるや否や、恐るべき直感と嗅覚でハボックが机奥や
ロッカーに隠していた分煙草在庫をロイは探し出し、全部を燃やすと
満足げに微笑み、席に戻った。
勿論、ハボック以外の直属の部下達はおおよそのやり取りの見当が
つくため見ないフリをしている。

帰ってきたハボックは職権乱用だと吐息をついて、それでも人の悪い
笑みを浮かべた。
「倍の値段で買ってやる…んでしたっけ?大佐」
「う……」
言質を取られていた為、ハボックに煙草代の弁償を求められたロイは、
渋々とだが、一見爽やかに支払う。
代わりに燃えカスの溜った灰皿を、ざまあみろとばかりに突き出し、ハボ
ックに処分しろと命じた。

「…ねえ大佐 燃やしたのはいいけどこれで俺 今の倍の量の煙草が
買えちゃうって解ってます?」
「……あ」

 ――俺が大佐のことを好きな理由の一つは、頭脳明晰な筈なのに
俺ですらすぐわかる簡単な理屈を、綺麗に忘れているときがある
こういう抜けたトコも含めてだったりする。 
                                 ハボック 談
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最初は特に意識してなかったのですが、髭ハボ映像で想像くださると嬉しかったりします