贈り物の選択

どうにも理解不能だ、という顔をしているハボックを見たロイは、
何がハボックを悩ませているのかと、こっそりと当人の背後に回り
手にしている書物を覗き込んだ。

 その手にあるのは、それなりに装丁された見栄えのいい文庫で
プレゼントとして送ってもおかしくないと定評のある、純文学系の
シリーズの一冊だった。
 普段雑誌や娯楽小説を読む事があっても、ハボックがそういった
類の本を手にしていることは滅多にないので、珍しいなと小さく
呟いたロイに、ハボックが顔を上げた。

「昔付き合ってた子がくれたんスよ」
「……お前に文学系の本をか?」
「あー言いたいことは解ります 彼女悪い子じゃなかったんスけど…
まあ夢見がちな子で プレゼントも相手が喜ぶ物じゃなく自分が
上げたい物くれてたのかなあ…って今この本を読んで思い起こし
てたトコで」
「何の本だ?…『The Gift of the Magi―賢者の贈り物』か…
なんとなく お前の言う夢見がちの意味が解るな」
「さっき部屋隅にあった箱整理したら見つかったんスよ 直訳だと
Magiの贈り物…っスよね」
「ああMagiは東方の三博士などとも呼ばれているな …で お前は
当時のその可愛らしい彼女を思い出しながら読み耽っていた訳か」
「その聞き方 …嫉妬してくれちゃったりしています?」
「単なる事実の確認だ だいたい過去のお付き合いしていた相手が
プレゼントしてくれた物を見ていちいち嫉妬するなら お前の方が
大変だぞ」
 ロイの相手を適当にあしらう時に浮かべる笑みを見たハボックは、
「少しぐらい 大佐も夢見させてくれてもいいじゃないスか」
と軽く肩を落とした。

「…嫉妬してほしいなら してやろうか?ただし…私が独占欲を
発揮させたら…お前の息が詰まってしまうかも知れんが」
ハボックの脇に屈みこんだロイが、いたずらげだった表情を拭い
妖艶に目を細め、耳朶近くで囁いた。
「望むところですよ 大佐…尤もそれなら俺も同じぐらいの独占欲
行使させて貰いますけど」
 負けじと凶暴さを奥底に秘めた笑みで、ロイの腰を抱き寄せた
ハボックに、途端ロイはつまらなそうな顔に変化した。

「…最近のお前の返事は 慌てるとかのかわいげが無くてつまらん」
「つまるつまらんで人の気持ちをもてあそばんで下さい ホント大佐
ってば気紛れな猫みたいっスね…あんま大型犬を舐めてると
いつか痛い目みますよ?」
接近戦の力づくなら、自分の方が上だという自信があるハボックの
言葉に幾分かの本気が込められているのを察したロイはそのまま
書物の文字を目線で追いかける。
「で 結局何をそんな難しい顔をしていたんだ?難しい比喩もない
解りやすい話だと思うが」

サラリと話題を変えるロイに苦笑しながら、ハボックは開いた頁を
指し示した。
「男の方が爺ちゃんの形見の金時計でしょう?女の方は…まあ
髪は女の命って言葉も有るぐらいだから大事なんでしょうけど…
切ってもいずれ元に戻るじゃないスか…形見としばらくすりゃ戻る
髪の毛じゃ何か割り合わなくねぇかなって しかも読んでると奥さん
のプレゼントの開け方 何かちょっと怖いし」
「…怖い?」
「紐をちぎって紙を破ってプレゼント開けて しかも中身見た後アパ
ートの女主人が必死で慰めなきゃいけないほどの声で泣く…って
怖くありません?俺ならそんな反応されたら確実に引きますよ
だから プレゼントした旦那が可哀想だなって」
「…概ね同意だな まあ女性側の言い分もあるかもしれん この
物語が書かれた情勢では 女性はみな長髪で 短い髪といえば
あまり性質の良くない商売…つまりは夜の街で身一つで稼ぐような
ことをしている者がほとんどだから それを売るというのは強い決意
だっただろう…その分男の方も重圧は感じるだろうな」

「髪切るぐらいで?」
「現在で例えるなら 帰宅したら妻がスキンヘッドにしていたと
同じぐらい衝撃なんじゃないか?」
「…それは…ショックでかいかも…それで旦那が自分の為に時計
売っちゃったのを知ったらこの奥さん また大泣きしそうっスね」
「おや?妻は旦那が時計を売ったと知らぬままだったか…印象的な
話だが 案外記憶に残ってないものだな」

「大佐はこの話読んでどう思いました?」
「…思い合ってる割には要領も間も悪い夫婦」
「あ 良かった俺も同じ感想です…大佐は俺に不相応なプレゼント
くれたりしないで下さいね 嬉しいより恐縮しちまうんで」
「私もだ…形見などで身銭を切られたら重たくてしょうがない」

現実的な恋愛を嗜む二人は、しばし目を合わせた後笑い出し
床の上に抱き合う形で倒れこんだ。

「物を貰うより大佐とこうしてられる時間の方が すげぇ大事で
嬉しいっス」
「お前の温かさは世界中の何より貴重だよ ハボック」
笑いながら戯れるかのように床で転がる二人の表情は、どんな
贈り物を前にした時よりも幸福で輝いていた。

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一部個人的本音が混ざってたり…