| 疲れたとばかりに大きなアクビをしたハボックに、ペンを動かす 手を止めたブレダが視線を送った。 「…眠たそうだな」 「ああ すっげぇ眠い…寝ていい?」 「お前 そういうのは自分の前に積まれた書類を片付けてから ぬかせ…だいたい昨日は別に遅く……」 言いかけたブレダが、今朝方見たロイの様子を思い出し、言葉を 濁した。…我ながら、察しがいいのもどうかと苦い顔だ。 朝から個人執務室に篭もりきりのロイの方は、きっとハボック曰く 『息してんのか心配になる寝かた』を利用しコッソリ静かに睡眠を 貪っているに違いない。 「業務じゃなく個人的理由による寝不足からのサボりは却下だ… 黙ってると眠たくなるっつーんだったら会話ぐらい付き合ってやる から手を動かせ」 ブレダの本心を言えば、目覚ましの運動ついでにどうせ壁越しに 寝てるだろう大佐を、書類が進まないから叩き起こして来てやった らどうだと言ってやりたいところだ。 だが、実際にそれを行なわれ壁越しに『誰のせいだと思ってる』だ とか『お前っ…いい加減に…』のやり取りの後、無言になられたり して二人揃って部屋に篭もられてしまったら…怖すぎる、とブレダ はその提案を飲み込んだ。 「なーブレダー 暇つぶしの話何かねえ?」 「…東の国に鰻という魚を裂いてソイソースやら甘い酒で作ったタレ につけて焼いた後ご飯に乗せてから混ぜて食べる料理が…」 「…そりゃ前に聞いた『ひつまぶし』とかいう料理だろ お前投げやりな 会話を振ってくるにも程があるぞ」 「ったりめえだ 何でお前の…ああそうだ ハボックお前コーヒーに ついてどう思う?」 「は…?なんだよソレ」 いかにもあしらうという様子だったブレダが、ふと思いついたらしい 言葉は、ハボックにとって焦点の掴めぬ内容で怪訝な顔だ。 「気にすんな 暇つぶしの会話だ」 「コーヒーねぇ…別に特に意識したことねえけどな 気付いたら口に してたし」 「お前らしいな 味とか種類にこだわりはないのか?」 「あー別に 自分で買うならやっぱ好きかなーって種類選ぶけど 人が用意してくれたり貰ったりするんなら何でもいいかな……って なんだよブレダそのニヤニヤ笑い」 「いやいや引き続きお前らしいって思ってるだけだ お前大佐によく コーヒー淹れてやってるだろ…大佐もそんな感じか?」 「いや 全然」 大袈裟に手を振るハボックは、即座に否定をした。 「こっちが用意したら一応飲んでくれるけど 迂闊なモン出したら即座 に眉を顰めてマズイと言い捨てられるな そうじゃなきゃ無言でカップを 返されるぜ そういう場合いたたまれないったら …コーヒーがなかったらなかったで平気みてぇだけど 俺と違ってミルク や砂糖入って甘いほうがいいみたいだな それからやっぱ口が奢って んのか 本人意識してねェけど基本高級品が好きみたいだ」 ハボックの言葉の端々で、吹き出しかけていたブレダがついに笑い出し たのを見て、ハボックの視線にいい加減に種明しをしろの無言の重圧 が混ざり始めた。 「落ち着けって これで最後だよお前は大佐に高級品とかの味も教えて もらったんだろ… で何か変ったか?」 「え…ああ まあ大佐相手に用意する時 ここでみたいに不味いヤツしか ないって場合以外は、豆も選ぶようになったし教わった美味しい淹れ方 とかそれなりに準備するようにはなった…かな…自分用ならどうでも いいんだけど」 にやにやとハボックの答えを聞いていたブレダが、これみよがしに 溜息をついて首を振った。 「じゃあ今の会話の意味教えてやるよ 深層心理でコーヒーに関しての 質問への答えは『セックスに対する心理』そのままなんだとさ」 人の悪い笑みを浮かべたブレダが、ハボックの言動を揶揄するように、 指折りでまとめて数え上げる。 「気付いたらやってて自分の時は何でも良くて 大佐相手だとそれなりに 考えてる…だっけ? どうだ結果は」 「なんだよそれ…まあ…うん…あー当たってない…こともないな…」 自分の答えを思い返していたハボックは、不承不承と言った様子で ブレダの問い掛けに頷いた。 「ま、所詮お遊びだ 今ので少しは目ェ醒めただろ」 「醒めた醒めた…よしっ 大佐が何て言うか答え聞いてくるっ!」 勢いよく立ち上がったハボックは、ブレダが止める間もなく隣のロイ 個人執務室へノックと同時、既に押し入っていた。 「…大佐とハボの奴を 同じ場所に行かせないよう 眠気飛ばしてやろう と聞いた質問だったんだがなあ…」 ちょっと待てと掲げた手が、行き先を失ったブレダは所在なげに後頭部 を掻いている。 まあそれで上司と同僚の二人が、目を覚まして働くのならばいいかと 係わらないようにしたブレダだが、何となく隣室から漏れてくる会話に、 耳がそばだってしまうのは仕方がない事だったといえよう。 ******************* これは確かお遊び的な心理テストで見かけたネタでして、本当の深層心理でコーヒーが そういう意味という解釈は、あまり見かけた事ありませんと一応注意 |