| 頬杖を付いて、うたた寝に勤しんでいたロイが強めのノック音に 目を覚まされると同時、返事をするより早く部下であるジャン・ハボックは、 既に自分の目の前に移動してきていた。 「…何度言えばノックの後こちらの返事を待ってから入室しろと解る」 「今更っスよ」 「自分で言うな」 またかと呆れ顔をされても、まったく意に介さぬ様子のハボックにロイは 吐息をついて、視線を上げた。 「…で? 何の用件があってそう勢い込んでいるのだね」 「大佐…コーヒー好きっスよね?」 押しの強い、質問を同意を促す形で切り出されたロイは、相手の質問の 意図が攫めぬとばかり何度か瞼を瞬かせた後、ハボックの期待を裏切る 回答を口にした。 「…選択の余地があるなら 他の飲み物の方が私は好きだが…」 「ええっ!?そうなんスか」 大袈裟に驚くハボックを、なんなのだと少し引いた様子でロイは淡々と 含みなく続ける。 「別に嫌いと言うわけではない ただ自分で用意してまで飲みたい物では ないと言うだけだ」 「理由はありますか?」 「しいて言うほどのものはないな 逆を言えばもっと楽に用意できて薫り 高い物があるしそれに準備に手間が掛かるから面倒だというのが一番の理由 …という程度だ」 「…それは自分で準備するのが面倒って事ですよね?俺が用意した コーヒーを美味いって言ってくれてるのは…そのままの意味って思って いいっスか?」 「ん…?ああ正直 お前が最初の頃用意してくれたコーヒーは量だけという 印象で 風味も何もあったもんじゃなかったから…その、進んで口にしたいと いう物ではなかったが…今は私の為にわざわざ好きな豆を選んで しかも 美味しくなるようきちんと手順も踏んでくれているだろう?…そんな気遣いを されて…美味しく感じないはずがない」 「…俺の淹れるコーヒーなら好きと言ってくれてます?」 「ああ そうだ」 ゆっくりとハボックの瞳を見詰め微笑むロイに、ハボックは感極まった様子 で力強く抱きついた。 「大佐ァ!…俺 大佐の為にもっともっとうまくなるよう頑張りますからっ!」 「え…いや別に…いまのままで充分だぞ?…」 「そんな事言わないでっ!こうなったら俺も大佐が俺の淹れたコーヒー以外 飲めないって言う位まで研究します!」 何がそうまでハボックの情熱を燃やしたのか、理解不能なロイは熱意を 込めて語るハボックを、半ば呆然と見送っていた。 数日後ハボックの質問の真意を知ったロイは、 「コーヒーをしばらく飲まない」 と 宣言をしてみるのだが、結局それ自体は夜の営みとは何の関わりない ことであって、常通りその夜も押され、ねだられ負けてしまっていたのは ここだけの話であった。 |