不意打ちな本音/1


 ドカドカと足音荒く、司令室に帰ってきた大佐の眉は不機嫌
極まりないといった角度に釣りあがっていて、ああまたどこぞ
の莫迦に絡まれていたのだなと、気の毒に思いつつも、触らぬ
神になんとやらの格言を思い出し、俺達は無言で目線を逸らした。

「…貰うぞ」
「あっ!」
 机の片隅に置かれた、透明な液体の入ったグラスを手にした
大佐が、止める間もなくそれを唇へと運ぶ。
 珍しく冷静なホークアイ中尉までが、揃って短い叫びを上げた
のに気付いた大佐は、僅かに目を瞠ったが時既に遅く、液体の
2/3は大佐の喉を通過してしまっていた。

「な…何だというんだ」
 全員の視線を一身に浴びている大佐が、口元を拭って自分を
見守るもの達へと向き直る。
咄嗟に目が合ってしまった俺…にどうやら、白羽の矢が立った
らしい。説明しろと、その目線が訴えていた。

「いや…研究班が新しく開発した…まあ自白剤の一種らしいんス
けど…思ってることを本人無意識にベラベラ喋っちゃうらしいです
強制的に口を割らせるのは不可能らしいんスけど …ちょっと
怪しいなって相手に酒の席で飲ませてみれば本人に気付かれず
尋問できるでしょ?」
「な…なんでそんな物がココにあるんだっ!『どうしようっ思いっきり
飲み干してしまったぞ!』」
「…人によって効き目や継続時間がまちまちなんで 少しでも実験
人数が多い方がいいから協力しろって言われて廻されてきたんスよ
でも誰だってヤダからどうしようか皆で話し合ってた所に大佐が来た
という訳で…それより大佐 もう薬効いてきてません?」
「そんな物を不用意に置いておくなっ!『な…そんな…今私は本音
を洩らしているのか!?』」
 恐る恐るといった様子で、俺達を眺める大佐に返ってくるのは
揃っての頷き。

「き…今日は具合が悪くなったので帰らせてもらう『このような状態で
仕事などしてられるか 早く逃げなくては』」
焦る大佐はそそくさと帰宅準備をはじめるが、その肩を冷静な有能
副官殿が押し留めている。
「大佐 口を開かずともできる仕事は幾らでもあります 早退の理由
として今の言い分は認めがたいかと」
「確かにそうだ だが万が一ここにガザーリン中将やカストマ少将が
訪れてきたらどうする?『…想像したくもないっ』」
「…どうする…とは…?」
 何を懸念しているのか読み取れないホークアイ中尉が、少し首を
傾げれば、大佐は必死な面持ちで抗弁を続けた。

「出遭ったときに社交辞令でなんであれ 無言で通す訳にはいかん
だろう『おひさしぶりです将軍と』言った直後に『もっと久しぶりでも
良かったのに』とか『以前は貴重なご意見ありがとうございました』と
言った直後に『全然役にも立たなかった意見だがな』なんて思わない
でいられる自信はまったくないぞっ『…というより絶対思って言って
しまうっ!』」
 ブッ…と吹き出した俺達を睨みつける大佐だが、その表情は真剣で
また、大佐の性格をよく知っている者達にはものすごく説得力のある
台詞だ。

 暫く考え込んでいた中尉も、仕方ないとばかりに溜息を付いた後、
大佐の机の上を指差した。
「…妥協案に致しましょう こちらでの業務作業は確かに危険である
とは同意です ですが仕事自身には差し障りありませんので書類を
機密分以外ご自宅に持ち帰り処理なさってください …ハボック少尉
書類の運搬と見張り役頼んでも良いかしら」
「アイ マム」
 俺の敬礼は半ばふざけてではあるが、大佐の早退を認めることへ
の感謝は本当だったようで、余計な事を喋る代わりに中尉へと少し
頭を下げた。

「ああ 疲れた」
後ろ座席へ座り込んだと同時、大佐は背もたれに全身の体重を
かけるよう、どさりと倒れ座った。
 おや、といった俺の表情をミラー越しに気付いたのだろう。
「なんだねハボック」
と問いかけて来た。
「いや…台詞の後に本音が出てねェなって思って」
「なんだ そんな事か」
 えへんと軽い咳払いした大佐は、窓の外に視線を逸らす。
「…お前には ほぼ本音で接しているからな今更だ」
 大人のオツキアイには、本音と建前・嘘や駆け引きも必要だと
悟っているけれど、普段嘘で塗り固められた笑顔を見ている俺と
しては、大佐の『今更』がとても嬉しい。
「…ヘラヘラ笑うんじゃない」

「え 俺笑ってます?」
「自覚なしか 処置無しだな」
「えーだって嬉しいもんスよ? 普段見栄張りで意地っぱりな大好き
な人が自分に本音で接してくれてるって」
「誰が見栄張りの意地っぱりだ!『…どうせ私は素直じゃないし
お前みたいに可愛げもない』」
 後半、本音が出てますよ大佐。
俺が指摘するまでもなく気付いたらしい本人が、慌てて掌で口元を
覆う。
めちゃくちゃ可愛らしいけど、ここでそう告げたら確実に機嫌を損ねる
なと、黙っている俺の頬は幸せで緩みっぱなしだった。


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とりあえず ほのぼの続きます