| ロイ・マスタング大佐の告白は、そんな面映い行為ですら 偉そうだった。 「ハボック少尉 私を好きになりたまえ」 軍人の上官命令には服従と叩き込まれたサガで、咄嗟に イエスと答えかけたハボックは、台詞の内容を反復し、暫し 固まった後、自分の空耳かと内容を確認しなおした。 「…勢いでハイというと思ったのに」 椅子に座り、机の上で組んだ掌の上に顎を乗せていたロイは 顔を背け小さく舌打ちをしたので、ハボックの聞き間違えでは なかったらしい。 「だいたい こういったデリカシーを必要とする事柄を二度も 言わせようとするからお前はもてないんだ」 「ちゃんと聞こえてましたし聞いてましたよ だけど真面目な 顔で冗談言われたら コッチだってリアクションに困る位は 察してくれてもいいんじゃないスか」 苦笑しながら、うなじに大きな掌を当てるハボックは上司の 突拍子もない言動に慣れているので、あえてその行動の理由も 尋ねようとしなかった。 だが、それが不満であったらしくロイが座った位置から 見上げてくるのに、ハボックはどうしろと言うんだという困惑 で見詰め返すしかできない。 しばらく互いを凝視しあった後、負けたのはロイの方だった。 「…もういい」 ふいと顔を下ろし、うつむいたロイの視界が少し暗くなり、 机に影が落ちたことでハボックが目の前に近づいてきたのだ と察するが、ロイは顔を上げようとしなかった。 頑なに下を向き続けるロイの顎を、長く鍛えられた指が掬い、 無理やり顔を上げさせる。 「…ハボック…!何のつもりだ」 「ね 大佐…もういっぺん言ってくれません?」 少し唇を噛み締めたロイの頬が、羞恥で紅く染まりハボック を睨みつけた。 「…人を揶揄して楽しむつもりかっ!」 「違いますよ 俺こそからかわれてるんじゃないかって今 疑心半分と…期待半分で心臓バクバクいってます…もう1回 言ってくれませんか」 耳朶に寄せられた唇が紡ぐ、ハボックの甘く低い声。 目を瞠ったロイが、何度か唇を開いは何かを言いかけ、それでも 声には出せず口を噤んでしまった。 「ね…言って?」 吐息にも似た囁きが、ロイの耳孔をくすぐる。 「…ハボック…わ、私を…好きになって欲しい」 「無理っス」 精一杯の気持ちで、喉奥から繰り出したロイの台詞を、 ハボックは薄く笑い否定した。 やはりからかわれたのかと、ロイが絶望に囚われるより先、 ハボックの言葉は続く。 「もう随分前から大佐を大好きです 今更改めて好きになれ なんて過去の気持ち捨てるような真似できません…もっと好き になれって命令でしたら可能かもしれませんけど」 「…ハボック…?」 「ああでもこれ以上大佐を好きになったら 俺どんな暴走するか 自分でも解んないスよ?覚悟してくださいね」 「まっ待て!…えっと…つまりだな…お前は私を好きだった… ということで合っているのか」 「合うも何もそう言っています 大体俺は大佐みたいに出世に 命賭けてもいないのに 大佐の護衛官なんてマジでの命懸けの 大任 好きでもない相手に引き受けませんよ」 ゆっくりとハボックの言葉を、脳に浸透させていたらしい ロイの顔が少しずつ、だが確実に赤味を増していった。 「ねえ大佐 俺も言っていいですか…俺の事好きになって?」 「…どうでもいい相手に 私は好きになれなどと命じない」 「大佐らしい告白っスね…まあそんなトコもかわいいんだけど」 笑いながら少し位置をずらされた指が、そのままロイの頤を 固定し、ハボックが唇を重ねた。 「多分 大佐が想像してる以上に俺は大佐のことが好きっス」 そう言ってロイを立ち上がらせ、腰を抱えたハボックの唇は 容赦がなく、ロイの全身から力が抜けて縋るようになっても 貪ることをやめようとしなかった。 |