愛する愛される


   年下のクセにとか、年下の分際でとか口先で言っても
へこたれないその根性とおおらかさ、自分のスタイルを
けして崩そうとしないで、そのままの自分を受け入れさせる
…ある種の人としての器で、こいつに負けていると思うことはある。
 
 ヒューズも、そういった面では似たような所があり、敵わないと
内心思っていたのは、洞察力に優れたあいつの事だきっと
気がついていただろう。
 アイツとハボックの違いといえば、その鷹揚さの裏が
あるかないかといった点だ。

 ヒューズの場合裏があるからこそ、私の心のうちを見透かし
面白がってくれたから友人という関係を築くことができたのだろう。
 
 だが、この男は違う。
人の心のうちにたやすく入り込んでくるクセ、私の心を見よう
としない。
我ながら、素直で無いと認識している言葉を吐けばヒューズであれば
「も〜ロイちゃんてば素直じゃないんだから」と笑いながら
首根っこを抱え込み流してくれるのに、ハボックは変わらぬ
表情のまま「ハァ そうっスか」と受け止め、その真意が掴ませず
こちらを不安にさせる。

 行動を計れぬ相手であれば、こちらも本音で答えるしかあるまい。
「私と付き合うことで生じる、人質にされてしまう可能性や
連座責任を負わされる危険性を増やしたくないから
今以上の人間関係を望まない ハボックそれがお前であってもだ
それは私のエゴだと理解している
だから申し訳ないとは思うが…お前の言葉に応えられない」
 自分を正当化するつもりはないし、部下という言い難いであろう立場
からのハボックの言葉に、真摯に向き合い答えたが、予想と違い
ハボックは暗い顔にはならず物言いたげに苦笑していた。

「…それはエゴとは呼びませんよ 大佐」
 肩を竦め、あきれた表情のハボックはそのまま続けた。
「他人に素直じゃないのは御自覚あるみたいッスけど自分の
心にまでそんな捻くれた解釈押し付けることないでしょう
…大佐のソレはエゴでも我侭でもなく 普通優しさって呼ぶ
感情ですよ」

――思考停止。

「…そんなことは無い」
ハボックが何を言っているのか理解しようと、見上げて否定を
すれば、なぜか返されたのは多少の苦さを滲ませた笑い。
「…そんな驚いた猫みたいな顔して否定されても説得力
皆無っス めちゃくちゃ可愛くて困りますね」
「な…何を訳のわからぬことを言っている 第一私は可愛く
なぞない!年下の分際で失礼だぞ」
「ハハ 大佐ってばむきになってかんわいー」
「…人の話を聞けっ!」
 怒鳴る私に、急に真面目な顔になったハボックが腕を
伸ばした。身構えるより早く、私の体はハボックの厚い
胸板の元へ引き寄せられる。
「大佐がそう言うならその理論で受け止めてもいいッスよ
ただその場合俺は俺のエゴで大佐を好きでいることをやめませんし
傍に居られるよう努力を惜しみませんから」

 …ああ、まただ。
この私が心を許してない者相手の、腕中に大人しく収まっている
はずがなかろうと、それぐらい悟れ。
私の内側に入り込み、かき乱す男はこうも鋭くこうも鈍感で、
毎回私を途方にくれさせる。

「好きですよ 大佐」
「…そうか」
 否定をしない、精一杯の私の妥協にハボックは満足そうに
抱きしめる腕の力を、少し強めた。