| ああ、イヤだ。 自分より大事にしたいと、自分より優先して守りたいと思う 命が、こんなにヒネクレ者で高飛車で、傲慢な我儘なしかも 同性の持ち物だなんて。 「…何を妙な顔をしている」 俺の髪とは違って、伸ばしても下に落ちてくだけの大佐の サラサラストレートの黒髪を、撫でたら気持ち良さそうだな なんて思いながら、考えていた俺の思考はどうやら顔にも 出ていたらしい。 「いや別に 大佐の髪って黒いなあって思ってただけっス」 「…なんなんだ今更」 「いや俺の好みはブロンドかシルバーブロンドだったのに …最近黒髪もつい目で追いかけちゃうようになったなあと」 「女性の髪の色になどこだわっているうちは まだまだだな」 フフンと鼻先で笑った大佐の顔は、自分がもてているのを 十分承知のそれで、際立った美形でも無いのにきまって見える。 人の心に残るってのは、多分この人のこんな表情。 少し自慢げでいたずらめいた、子供を覗かせる顔が若き エリートの本心を見せているかのようで、脳裏に焼き付いて もっともっと素の顔を知りたくなってしまう。 「…ハァ……」 「ん?溜息ということは思い当たるフシがあるのだな」 残念ながら見当ハズレですよ、大佐殿。 どうせ命懸けで守りたいと思うなら、自分を思ってくれる素直な 可愛い子だとか、優しく気遣いある女性だとか、色っぽくて あちこち出たり締まったりしてるレディだったら良かったのに、 どれにも当てはまらず、よりにもよってこの人かの自虐の 溜息なんですが。 …多分、大佐が茶髪だろうと金髪だろうと、芽生えた気持ちは 変わらなかっただろうと自覚させてくれた今、大佐の言葉に 用意に同意、できますし。 ついてくだけで精一杯で、本人気付いて無いし――気付いたら 気付いたで眉を顰めて否定しそうだけど、こっそり同性にも モテて、異性の場合言うに及ばずで、イイ年してサボリ癖が あって部下にいたずらしでかす大人げなさで、些細な点でも 負けず嫌いで…やめよう、キリないや。 そんな相手が自分にとって、己の命より優先順位が高いのは 理不尽じゃないかと自問する。 …まあ、その順位を決めたのは俺自身なんだけど。 護衛官の立場上、上司を守るのは当然だから、俺の行為で で心を悟られる心配ないだろうけど、業務上の枠を越え 本気で命を賭けて大佐を守ったりしたら、…多分一番 傷つくのはこの人だ。 周囲に悟られぬよう、理解ある上司程度の顔しか周りには見せず 薄情者と罵られても、きっと本心見せないで。 大佐を守るのに命を惜しいとは思わないけれど、 …大佐を独りにしたくはなくて。 なんでこんな性格の人が、自分より大事なんだろうと 色んなジレンマ抱え込んだ俺の愚痴。 ――酒を飲みながらつきあってくれた友人の一言は 「それって単にお前が相手に惚れてるってことだろ」 ああそうか、そうなんだ。 なんだか目の前の景色が、突然変わってしまってみたいに 俺の中に自覚という感情が生まれ、世界を見る目を変えた。 「サンキュ、ブレダそっか…そうだったんだな …俺大佐に告白してくるわっ!」 とりあえず、二人分の飲み代置いて勢いよく立ち上がった俺に ブレダは盛大に酒を吹きかけやがった。 「ま…待てハボック!相手は大佐なのかっ!?」 …あれ、肝心なその点伝えてなかったかな――まあいいや。 決着ついたらきちんと報告してやるよ。 とりあえず、当たって砕けても再構築すりゃ問題なし。 足取り軽く店を出る俺の背に「もう一度落ち着いて考え直せっ!」 のブレダの声が聞こえたけれど、それは俺にとってなんの 足止めにもならない雑音と同化していた。 |