棘のない蕾



「ぺリエ、ボルヴィック、エヴィアン」
「…水」
唇端を少し上げたロイの台詞に、くわえタバコのハボックは憮然と返した。
「よし正解 アダマンタイト、オリハルコン、ヒヒイロカネ、ミスリル」
「えーっとオリハルコンどっかで聞いたことあるんだけど…ヒヒイロカネ…
…馬の名前じゃないっスよね?」
「どれも古代にあったとされている幻の金属の名だ」
「では次アレクサンドライト、ターコイズ、アイオライト、タンザナイト」
「……地名?」
「宝石の名前だ アレキサンドライトは変った石でな太陽の光の下で見る
のと自然光の下では色が違って見えるという貴重な石だ 宝石の王と呼ば
れるダイヤよりモノによっては高価だ 女性との会話でねだられたり聞いた
りしたことはないか?」
「ダイヤとかルビーぐらいならありますけど そんなの聞いたことすら
ないっスね…大体俺と付き合ってくれる子はコッチの財布の中身を承知
してくれているから、ダイヤより高いもんをねだってなんてきませんよ」

 職務中の休憩時間、一見コーヒーを飲みながら会話をしているかの
ような光景は、現時点のハボックにとっては意味不明なことを囁かれ
続けている尋問でも受けている気分だった。
「フォーゲットミーノット、薄花桜、アクア」
「…まーだ続けるんスかー んー…花の名前…?」
「誰のためだと思っているんだ 勿忘草は確かに植物の名前だが今並べた
のはそこから派生した色の名前の方だ…お前にわかりやすいように表現
するならどれも水色…になるかな さて、続けるぞソマリ、エジプシャン
マウ、ロシアンブルー」
「えーっとじゃあ今度は 青色の種類の名前!」
「…ロシアンブルーから直球を狙ったつもりだろうがハズレだ猫の種類だよ」
「パルミジャーノ、パニール、モッツァレラ」
「たいさーもういいっスよぉー…楽器の名前?」
 少し考えて、これだろうと返したハボックの言葉に、ロイが溜息をついた。

「チーズの種類ですよ…お二人とも何をなさっているんですか?」
盗み聞くつもりはなかろうが、わざとマイナーな種類の名前ばかりを上げて、
それが何かを当てさせようとしているロイの意図を掴みかねたファルマンが、
二人の会話に割って入った。

「ファルマンなら今の単語を全てわかっただろうな」
「いえ 残念ながら薄花桜というのはピンクに近い色を想像しましたよ
色彩方面の命名は奥が深いですね」
「うむ 東洋の色彩の感覚はなかなか調べてみたら面白かったぞ」
 生き字引の異名を持つファルマンは、理解していたらしいが、同じく横で
二人のやり取りを傍聴していたブレダやフュリーは、互いに知らなくても普通
ですよねと目を見合わせていて、ハボックに同情気味の視線を送る。
だが、関わるのはごめんらしくそれ以上は踏み込まず、遠巻きにしていた。

「そうだな で先の質問だがハボックが昔 女性に黄色のバラを贈って
ふられたという話を聞いて物知らずは恥をかくと教えてやっていたんだ…
しかもコイツ仲直りの侘びにとそれを選択したらしい」
「…それは…拙いですね」
 苦笑したファルマンに、いまだ何が悪かったのかを理解していないハボック
は、「え?俺なんか悪いことしちまった??」と疑問をそのまま顔に出した。