| けして不真面目な人間ばかりが集うた訳ではないが、 トップである部屋の主が、お目付け役が不在であるとサボり がちになるのに乗じて、他の者も雑談に興じてしまうのは 無理ないことである。 今日のテーマは花。 フュリーはかすみ草がイメージだとか、ブレダには紫花菜が 花言葉の「知恵の泉」「聡明」で連想される上、別名が 花大根で似合ってるだとかは、男同士としては奇妙な話題だが、 記憶力を誇るファルマンと何事にも探究心を持つロイの雑学の おかげで、会話は成立していた。 「ハボック少尉はひまわりですよね!」 「あー確かにこいつには似合うかもな」 下手なバラの花束よりは、青空を背に茎根元近くから切った 向日葵二〜三本を担いだ方がサマになりそうな男に、 視線は集中する。 俺かと自分を指差すハボックに、フュリーがにこにこと 肯きを返した。 「へえ…俺ってそんな雰囲気なんだ …ひょっとして今まで デートの時彼女に似合いそうなかわいいっぽい花束持って ていたんだけど…それって似合ってなかったのかな」 「…悪いが似合ってなかったと思うぞ」 「そうだなお前なら大振りなカラーを1本とか そういった方が似合いそうだ…間違ってもバラを1本とか 気障なまねはやめておけ」 クスクスと笑うロイに、過去に思い当たる自分があるのか、 奔放に撥ねまくっている前髪をわしゃわしゃと掻くハボックが、 眉根を寄せて尋ね返した。 「…もうやっちまった過去は記憶からデリートしときますよ ところでカラーってどんな花ですか」 「水芭蕉に似た…といってもお前にはわからんだろうな 名前の通りカラー…つまりは襟に似た形状の花だ」 「エリ…っスか?」 「そうだシャツの首の部分を襟ごと拡大して首の位置に黄色い 縦長の猫の尻尾みたいなものが生えてる図を想像してみろ」 「ああ…あの花カラーって言うんスか 実家の方で見た サトイモの花っぽいなーって形だけは知ってたんですけど」 「あながちハズレではありませんね カラーの別名は海芋で サトイモ科ですかし 花言葉は素敵な美しさとか清浄です」 「…芋でもキレイな花言葉あるんだな 大佐みてぇ」 「ちなみにひまわりの花言葉は 私の目はあなただけを見つめる とか崇拝とか敬慕ですよ」 うかつに相槌を打てば、どんな反応が返ってくるかを 身に沁みて知っているファルマンは、ハボックの言葉の 末尾をさらりとかわし、元の会話へと引き戻した。 「…お前 花言葉まで犬みたいだな」 「どういう意味だ」 「まんまだろ」 悪友だからこそ言えるとばかりの、ブレダの言葉に 内心同じ事を考えていたロイも、苦笑を洩らした。 「まあ向日葵には 他の花言葉もあるからめげるなハボック 確か…ニセモノの金貨といつわりの富…だったなファルマン?」 「…って大佐!コイツに金に縁が無いってトドメさしてますよ」 あくまで犬らしくないという例えとして持ち出した、珍しく 茶化した意図を含まぬ善意のロイの言葉がツボだったらしく、 ブレダは突き出た腹を抱えて笑い、立場上こらえていたらしい フュリーとファルマンも、俯き笑いで震えていた。 ここで謝罪をするのも、妙だろうかと少し困惑した 視線をよこすロイに、ハボックも苦笑を洩らして屈み、他の者には 聞こえぬようその耳朶近くで、甘く囁く。 「…まあいいっスけどね アンタだけを敬慕してみつめてる 貧乏な犬を 見捨てさえしないでくれれば」 ひまわりのよく似合いそうな男の言葉に、棘無いバラの蕾と 例えられたロイは、頬を僅かに紅潮させ 「当たり前だ」とだけ呟き返すのだった。 *************************************** ヒマワリの花言葉に 「にせ金貨」はびっくりでした |