| 「傷…残っちまいましたね」 日頃炎天下でも、きっちりしたシャツを着込んでいたため焼けて いない大佐の胸元の肌。 だが、そのわずか下の脇腹から腹部にかけて、焔の舐めた痕が 痛々しい引き攣った皮膚として、領土を広げている。 ピンクの再生したばかりの細胞は、あきらかに他の手触りと異な っていそうで、流石に俺の強張った指先で触れるのを躊躇わせる。 「…別にもう痛みはないから平気だぞ」 ピンと張り詰めたその箇所は、接したら弾けてしまわないだろうか。 恐る恐る手先を伸ばす、俺の様子を見た大佐が微笑みながらそう 告げた。 「大佐も…マルコー先生に癒して貰えばいいのに」 傷を塞ぐ処置として、ミディアムレアにと焼かれた俺の皮膚は、 下半身の麻痺を治す際一緒に治療され、火傷のあとはもうどこにも 見られない。 他意はなかったけれど、大佐の程よい筋肉を纏い締まった、それで いてどこか丸みのある元の白い胸腹部を知っている俺としては、 やっぱり勿体無いような気がして思わず洩らした台詞。 「不要だ 命に別状あるわけでも無いし痛みも無い 女性ではない のだから これを気に病む必要も無いそれとも…こんな醜い躰では もうお前は触れる気になれないか?」 「とんでもないっ!痛そうだなって…思いますけど全然醜くなんか ないっス …不謹慎だって怒られちゃうかもしれないですけど遠目だと 薄桃の炎のタトゥーにも見えますし」 「焔の刺青か…その例えは思いつかなかったな ハボックお前私が 思っている以上にロマンティストだな」 クスクスと目を細める大佐は、強がりでもなんでもなく本当にその傷 をなんとも思っていないのだと教えてくれる。 「からかわんで下さいよ 黒く爛れてたりしたら心配でしょうがなかった でしょうけど…本気でそう見えたんです」 「…仮に皮膚が黒くなってしまっていたとしても 私は治すつもりは なかったがな」 サラリと言いのけたロイは、視線を合わせないよう顔を少しハボック から背けた。 「なんで?」 ロイに付いた傷であるなら、それがどんな形状であっても思いは 変わらぬ自信はあるが、あえて治療しないというのを選びたがる理由 もわからず、ハボックは問い掛けた。 「…これ、は私の焔が人を救えた印だから」 そっと己の指で傷跡をなぞるロイの動きは、白いシーツの上どこか 艶かしい。 「…大佐の焔はいっぱい色んな人助けてくれていますよ馬鹿どもへ の足止めにだって 危ない奴への牽制だってしてくれて 大佐の おかげで無傷で済んだ事件数えられないほどあるじゃないっスか」 「それは脅しとしての利用であって助けたことにはならん」 遅まきながら、大佐が何を言っているのかようやく俺は理解する。 自虐でも卑下でもなく、大佐は自分の代名詞でもある焔は、力と破壊 と恐れの象徴で、マルコー先生や鋼の大将のように再生や癒しは 産めないと、己を評価していたっけ。 ――だけどこの傷は、紛れも無く焔が傷を塞いでくれた命の代償だ。 「…ああ…そうか 俺も…残してもらえばよかったっスね」 アンタが、俺に残してくれた命懸けの行為の痕。 その創を体に刻んだまま、一生背負っていけるのも悪くなかったかも と、今では思えるからこその呟き。 「バカ言うなっ 勿体無い!」 「……は?勿体無いって…」 間髪いれず怒鳴られた俺は、咄嗟に間抜け面で聞き返してしまった。 「勿体無いだろうが! お前のその体にヤケド痕なんて痛々しいし せっかくキレイな肉付きをしてるのにっ」 ――俺に言わせりゃ、大佐の体に残ってるその痕の方がよっぽど 勿体無いです。 「えーっと大佐は俺に傷跡無いほうが好きですか?」 「……自分の焔の跡が 他人の皮膚を侵食してるのを心安らいで 見れると思うか」 …どうにも矛盾してるんですけど。 大佐の行為は俺にとっても救いであったわけで、医者だってぎりぎり の選択でよく思いついたっていう位のデッドラインで俺を救い上げて くれた名残だったていうのに、…自分の傷は許せても俺のはイヤだ ってどういうこったい。 「…ヒューズは…息が切れる瞬間まで……妻と子の未来と私の身を 案じて…そのまま息絶えた」 ――知っています。声だけは繋がった空間で、ヒューズ中佐に何が 起こったかが判明するまでは、大佐は冷静な仮面を被りながらも、 己を完全に失っていましたね。 「お前が目の前で倒れた時 声だけじゃない本人もそこに存在して いるのに手をこまねいて 私は何もできないのかと自分を呪った… だが賢者の石じゃない自分の力で、お前の命を繋ぎ止められ…私の 後を追ってきて…せっかくだったら完治した態を見たいと願っても それはワガママではないだろう?」 薄く笑う大佐の顔は、儚いようでしっかりとして己の信念を貫く美しさ に溢れていた。 誓う言葉の代わりに、そっと大佐の傷痕に唇を走らせれば、大佐は くすぐったそうに身を捩じらせ、頬を染めた。 「…大佐の騎士としてこの時守れなかった分 俺に傷痕を癒させて ください 舐めて、ね」 耳朶近くでそう囁いて、再生した皮膚の箇所を撫でたら 「なっ…おまっ……騎士…って… なに、どこで聞…!お、お、お前の 前で言ったことないっ!…いや違うっ お、お前の前じゃなくてもそん なこと私はゆ、ゆってないぞっ!!」 今まで見たことないほど顔面を紅潮させ、大佐はシーツにくるまって 縮こまってしまった。 大佐が俺の分の傷も負って生きてくれるなら、俺は少しでも大佐の 重みを分かち合ってもらえる、支えになりたい。 ずっとずっと、…前で盾になれなくても 横でアンタを護る立場は誰に も譲るつもりないですから。 後はベッドの上で白い繭のようになってしまった大佐のご機嫌をどう 取るかが、今の俺の最大の命題だった。 ********************** アニメの騎士発言はもう衝撃でした…! エドに扉バンっとやられて車の中でびくっとしてるロイは本当にプリンセスっていうかヒロイン ですよあのポーズと顔!!『黒髭騎士とツンデレ姫』とかいうタイトルで本を作りたいとか 思わずクラクラしちゃったよっ …ヒゲ騎士はナイト姿よりマフィア衣装とかのほうが似合い そうだけどww |