上司自慢/下

「スカしてるなんて とんでもねえって マスタング大佐って普段『超』が
付く程可愛いぜ? あ、いや なんていうか俺ら直属の部下以外の前
だと若くして出世してるから 舐められないように慇懃無礼装ってるけど
本当にこの人年上かってぐらい感情すぐ顔に出るし そこをこっちが
気付いて問いかけたら自分の心読まれたって顔紅くするし 飲み会行って
俺らと呑み比べやったら 意地張って潰れるまで勝負降りようとしないし
負けた罰ゲームに猫耳付けろって話になっても大人しく付けるしさ… 
でもってその姿が もう違和感なしって叫びたくなるほどめっちゃくちゃ
似合っててすっげぇ愛くるしいっていうか…こんな顔見せてくれるのって
ホント俺らマスタング組の前だけなんだけ……んがっ」
「そこらへんにしとけ」

 目尻を下げ相好を崩したハボックが、とめどなく語りかけてくる『マスタ
ング大佐の可愛らしさ』についてやらの饒舌は、ブレダがその口をがさつい
た掌で塞いだことで、ようやく止まる。

「…本当は そんな感じなんだなあの人」
 ブレダがようやく止めた、のろけ寸前になりかけていたハボックの上司
自慢話は、せっかく断ち切ったというのに意外とばかりに呟いた横の者の
せいで、再開されてしまった。
 
「ヘヘヘ〜そうだぜ いいだろーーー他にはいないぜこんな上司 確かに
独断行動が凄かったり 何も言わないで独りで無茶するからフォローは
大変なんだけど それもこれも部下を思いやっての行動ばかりだし…大佐
の悪口を言ってる奴らに一度見せてやりたいね ソファで仮寝してる姿
とか 微笑んでる大佐の姿とか…無防備で 見てるこっちの顔が自然と
綻びてきちゃうぐらい…」
「だからっ! もうやめとけこのバカ」

 同期の中には、たまたま作戦でロイの元に付いたことのある者がいて、
直属の部下になりたいと願ったが適わなかった者も何名かいた。
その者達にしてみればハボックの言動は、叶わぬ願いをかなえている
ばかりか、これ以上はない『現在部下である自分』の誇示である。
『マスタング大佐の微笑みばかりか寝顔を…
ましてや猫耳姿を見ただと!? 大佐のホントの可愛らしさを知ってるのは
お前だけじゃない 俺の方がお前より先に作戦指示に従ったことあるし、
大佐と言葉を交わしているんだっ 畜生!大佐に何かあったらいつだって
命懸けで付いていこうと思ってるのは俺たちだって一緒だ!』

 部下になり損ねた者達が大いに反発を覚えても無理ないかと、一部から
投げつけられる暗く鋭い視線を察したブレダは吐息を零し、頭頂部を掻く。

普段気配りなどは利くタイプであるのに、今日ばかりは周囲の視線を悟らぬ
ばかりか、酒の勢いでまだまだ語り足りないと再び語り始めたハボックを
黙らせるべく、ブレダはつまみとしてグラスに纏められているスティック野菜
を無言で束ね、ハボックの口へと突っ込んだ。


後日ブレダが、呟く
「俺らマスタング組は嫌われているからな」
の一言は、単にロイが嫌われているというだけの意味ではなく上記のような
ハボックの人目憚らぬ惚気から来ている一因にもあるのだが、おそらく当人
は、いまだ気付いていない。

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沈黙は金雄弁は銀(笑)