肉と食欲/上
注*ハボロイというよりハボック&ロイという感じです
グロではありませんが内容にカニバリズムに関する考察を含みます
苦手な方単語の意味の解らない方は読まれない方がいいです


ジャン・ハボック少尉という人物の最大の長所であり
かつ欠点は、思ったことを素直に口にする、だ。
心情をそのまま言葉にする率直さは、おおらかで人に好かれる
のだが、反面デリカシーがないと現在の上司である、
ロイ・マスタングに警告をうけること既に数え切れない。

「…で昨夜ふられた理由はなんだね」
 デリカシーの無さなら、人前で堂々とこの質問の方が
よっぽどじゃないかと思うのだが、ロイ曰く自分はきちんと
相手を見計らって告げているのだから問題ない、との主張で
実際ハボックにとっても、しくじったかなと思ってはいても
さほど胸が痛んでいる訳ではないので軽く肩を竦めた。

「ウサギが好きだというんで、ウサギ料理出す店連れてったら
真っ青に泣かれちまいまして」
「…お前な……」
「いや 今なら意味勘違いして悪かったかなって思うんス
けど…彼女が兎を飼ってるなんて知らなかったし
でも肉をまったく食べない聖職者とでもいうならともかく
種類によって嫌悪ってのはイマイチ納得いかなくありません?」
 少し眉根を寄せたその表情は、難しい数式を解けと
教師に当てられたそれと同種で、ロイは溜息をついた。

「…ハボック今日は昼食を奢ってやろう その兎料理の
店へ私を連れて行きたまえ」
「えっマジで!? いいんスか」
 途端顔を輝かせたハボックに、ロイは苦笑する。
 大佐のオゴリだタダだと浮かれるハボックが案内したのは
路地裏にある、古びた木の看板が釣り下がった料理屋だった。
 市内巡回の後の、少し遅めの時間帯であったためか席には
多少の余裕があり、雰囲気も落ち着いている。
誘導するきっぷの良さそうな年配の女性に、少々内密の話が
あるので、できれば奥まった場所をと微笑むロイの、軍服姿に
察したとばかり、頷きを返された。

「大佐 内密の話って何スか?」
 てっきりただのふられ話聞き出し賃として、食事をご馳走
してもらえるのかと思っていたハボックは、意外顔でロイを眺める。
「食事が揃うまで待ってろ…そうだな このマデラソースの
ソテーなんかは美味しそうだがどうだ?」
「あ、それ美味いっスよ じゃあ俺もそれで」

 若々しい緑のクレソンが添えられた皿と、香ばしいパンが
スープとともに並べられハボックがフォークを取った。
 一口サイズに切った肉を咀嚼したロイも、味わいながら
満足そうに頷いている。

「ハボック カニバリズムというのを知っているか」
「…なんかの音楽ですか?」
「いや人肉摂取のことだ つまり人間を食べるという意味だな」
 ナイフを進める手を休めず、さらりと言われたロイの台詞に
ハボックが、スープを吹き出しそうになった。
「古くは未開の地の者たちが勇者の血肉を我が内に
取り込むということで食べたという例 近代でも変質者の
特殊嗜好で少年ばかりを狙って殺害後血を吸いハムやソーセージ
にしていたという男もいたな…あとは団体で遭難した時
先に召された者を生き延びるために食したとか」
 涼しい顔でまた一口と肉を食むロイと対称的に、口元を
掌で覆ったハボックは、一気に食欲が失せた様子だ。