| 別にたいして甘いものが好きな訳じゃないから、欲しいと は願っていないけれど、年中行事の一つで愛を語る云々の視点 でいえば、やっぱりもらえたら嬉しいというのが本音。 ――だが、これは。 「ほら」 と大佐が差し出してきた紙袋は、可愛くラッピングされた (推定)チョコレートの包みが複数個。 これがまだ1個だったら、大佐が俺の為に用意してくれたのかも とおめでたい勘違いができただろうけれど、この数では 明らかに違う。 「お前が今日夜勤だと言ったら 申し訳ないけれど預かって くれないかと言われてな」 恋人がいない頃は、バレンタインにチョコが欲しいと思って たりもしたけれど成果はなく、…なぜか大佐とつきあうように なってから、俺がモテ始めたのはどういう理由だろうか。 いやこの際そんな考察はどうでもいい。チョコはともかく、 その気持ちは嬉しくなくも無い。 ただしそれを差し出した相手が、大佐であるというのが唯一 にして最大の問題点だ。 「…大佐はそう言われて引き受けたんスか」 「その場には私と中尉しかいなかったからな …中尉は頼ま れれば引き受けただろうがやはり同性には頼みづらいだろうし」 ――俺が言ってるのは、ソコじゃなくて。 「…大佐は俺宛の物預かっても 何とも思わなかったんスか?」 「何ともとは…何か思って欲しかったのか?」 はい、そうです。 普段から好き好き言ってるのは、一方的に俺ばかりだし 告白したのだって俺からだし、たまに言ってくれる言葉だって …俺が大佐を追い詰めて、半ば無理やり言わせてるような 自覚もある。 …それでも、幾ら無理やりだって大佐の性格だったら、心の どこかで俺を好きだと思ってくれてなきゃ、絶対に言葉に してくれない台詞だろうと思っていたのは俺の勘違いだったの だろうか。他人からの好意を俺に渡すのを、こうも頓着なく 行われては、さすがにへこむ。 「…そんなに恨めしい顔をするなバカ」 むっつり黙り込んだ俺の視線に気づいた大佐が、普段の表情で 俺を見上げた。 その顔には、鈍い大佐がついうっかり、自分が人の恋愛の橋渡し をしてしまったのだとか、引き受けてしまっただけだとかの、 そんな罪悪感はまったくなくて、ますます俺を落ち込ませる。 「どうせ馬鹿です 大佐はバカ嫌いなんスよね」 「バカな上にいじけて拗ねるとは…でかい図体で鬱陶しい」 ――それは、いくらなんでもあんまりだ。 落ち込ませてる原因はアンタじゃないか。たとえ一方的に 俺ばかりが好きなのだとしても、大佐だって俺の言葉に頷いて それで今の関係になれたんじゃないか、と言いかけて真っ直ぐ 俺を見る漆黒の瞳と目が合った。 「お前は私がお前の数倍チョコレートを貰ってきてる事が 腹立たしいか?」 「…いえ別に 相変わらずモテるなあとは思いますけど」 ――腹を立てているはずなのに、どうにも大佐のこの視線に 弱い俺は、無意識に丁寧語になっていて情けない。 「で?」 「…で…とは?」 「ムカつくからチョコレートを受け取るなとか叩き返せとか そういう感情はあるのかと聞いている」 「…いえ別に…大佐がモテてるのは昔からじゃないスか それ相手に嫉妬したって今更でしょう」 大佐の質問の意図が汲めず、問われたことに素直に答えたら 何故だか呆れ顔で、吐息をつかれた。 「自分がそう思うのに なぜ私が逆の立場でお遣いを 受け取ったくらいでそうも拗ねる …お前が女性から チョコを貰ったぐらいで私への気持ちが揺るがんだろうと 自信があるから私は引き受けたんだ」 …大佐の言葉が、ゆっくりと脳裏に滲みていくと同時 俺の唇は嬉しくて、自然と笑みを形どっていった。 「ニヤニヤしてるんじゃない」 「す…すみません」 掌で口元を覆っても、洩れてくる嬉しさと笑みは隠し切れず。 緩んでくる俺の表情を見る大佐の頬は、ほんのり紅く可愛くて 俺をこの上なく幸せにしてくれた。 |