| 「はい ブレダこれ」 手渡された小さな箱に、記憶の無いブレダは何だと首を傾げた。 プレゼントというにはあまりに素っ気無い小箱で、かといって自分 がハボックに何かを頼んだ覚えも無い。 「装備品か?」 ハボックと元自分の上司である…正確には上司であったロイ・マス タング現在は伍長の元への監査を引き受けたのが、先週のこと。 雪深い僻地であるが為の、特別な装備品か何かを上から支給された のかと、ブレダが箱を開けてみると入っていたのはマシュマロ状の 上部分が少し細くなっている小さな円柱。 「…?」 摘んでとりあえず匂いを嗅いでみるが、特になんの香りも無い。 だが大きさや感触で、それの使い道がわかったブレダは眉を顰めて ハボックを見返した。 「……昼飯十日分」 「一週間」 「譲れるかよアホウ 雪ン中にまで遠征して何で他人の情事気にし ながら眠らなきゃいけねえんだ」 掌の中にあるものが、耳栓…しかもかなりな高性能なものだと察 したブレダは大仰に眉根を寄せて、顔を歪める。 「情事前提とか決めんな…俺は大佐と色々話したいだけなんだ」 「…俺はな お前の性格も大佐の性格もよく知っている上に 幸か 不幸か その行動を先読みできる程度の頭を持ってるんだよ…まあ 俺もお前と大佐が話し合っておいた方が良いとは思うし 痴話げんか もどきに巻き込まれたくないは本音だけどな」 「だったら これあった方が便利じゃん」 「…一つ言っておくが 俺が耳栓してるなんて大佐の前で言うなよ 俺まで予め承知で 共謀だと思われたらかなわねえ」 「だからなんだよ さっきから俺が大佐に殴りかかるみてえな前提 ばかり …意味わかんねえ」 「…殴りはしないだろうけどよ」 尻尾をぶんぶん振って、大好きなご主人様の元へ駆け寄った犬が 冷たく拒否されたときの心境を考えたブレダは、ボソリと返した。 一緒に帰ろうと言っても、自分の未来を否定した元上司は決して それを受け入れず、そして自分達を巻き込むまいとその関係を否定 するため拒絶をするはずだ。 殴りはしないだろうけれど、その悲しみに耐えられずハボックが 怒鳴るぐらいはするだろうと…詰め寄って自分の存在を認めてくれと 縋るぐらいはして…それでも、大佐は頷かないだろう。 そこから先の行為は、予測がつく。予測は付くが、自分のために ブレダはあえて想像しないことにした。 頑ななロイ・マスタングという人物が、共に戻るという案を一蹴する だけでなく、自身の為にも友人の為にもほんの少し飴という慰めの 手段を交えた上で、ハボックを宥められるよう祈りながら、鞄の片隅 に耳栓を押し込み、ブレダはファスナーを閉めた。 |