| 「うぅーっ…バカ犬…下が…ベタベタ濡れて気持ち悪い…」 勤務時間帯の声を殺しての色事が、背徳的でヤバい状況で あると理解しているが故に、かえって煽られた自覚あるハボックが てへっと笑うと、すかさず返されたのはロイの渾身のボディー ブローだった。 「グッ…大佐 容赦ねぇ…」 「容赦なぞできるかっ!こ、こんなペタペタ纏わりつく下着で… 残務をこなせというのかお前はっ!出すだけのお前は爽快かも しれんがなっ責任取れ!…こっちは…気持ち…悪い…」 怒鳴った拍子に、とろりとした液体が腿部に洩れ落ちたロイは その感触に小さく体を震わせ、唇を噛んだ。 潤んだ目で睨みつけてくるロイが、胸倉を掴んで怒鳴ってきた のを、ハボックは殊勝な顔付きで背中に腕を回し抱き締めた。 「…ごめんなさい」 「うっ…お、お前のそういう素直さはずるいぞ!」 元々自分がつまらぬ嫉妬をおこし、ハボックを無視して進んだ という負い目があるロイは、自然勢いを失う。 「えーっと…とりあえず俺のハンカチで…その…始末しますから じっとしてて下さい」 上げただけで、ファスナーもボタンも止まっていないズボンに 指が伸ばされたのを察したロイが、身を捩ってそれを避けた。 「いいっ!…やるなっ」 「でも…気持ち悪いんでしょ?」 「いいからっ!」 事後の名残をとどめる場所を見られたり、いじられるなら自分 でやるから向うをむけと言い張るロイに、ハボックの困惑の顔は 深まった。 「…責任取らせてもらえないんで?」 「別のことで取らせてやるから今はいいっ …こっちを向くなよ」 「あ そうだ えーっと…拭きとっても着替えなきゃ…」 気持ち悪くないスかねと言いかけて振り返ったハボックは、白い 内腿を露わに広げ処理をしようとしていたロイと目が合った。 「こっちを向くなといっただろうが バカッ!」 「…シャワー行きましょうか ふき取った後でもそんな顔で… 歩かれちゃ色々ヤバイっス」 言うなり、大股で歩み寄ったハボックはロイの服を手早く戻し 肩を押してバランスを崩させると、そのまま抱き上げた。 「放せっ!ふざけるな こんな姿でお前はシャワー室まで行く つもりか!?」 俗に言う姫抱っこの形でかかえられたロイは、じたばたと暴れ ハボックの腕から抜け出そうとするが、鍛えられた身体はその 余地を残さぬほどしっかりと、ロイを戒めていた。 「…俺の責任…でしょ?」 にっこりと笑ったハボックが、故意犯だと確信したロイは暴れ るのを止めて、戦法を切り替えた。 「こんな…大袈裟な真似で司令部を歩かれたら 何があったかと 周囲に思われてしまうから…下ろしてくれ」 「えー…大丈夫っスよ 多分」 「その根拠の無い返事はなんだ お前だって私が歩いた方が手間 が掛からんだろうがっ!」 「だって大佐自覚ないでしょ今の顔 超エロいんですもん普通に 歩いてそんな表情晒されてたんじゃ 堪りませんから」 「…っ!な…わ、私のど、どこが!」 「上気してすべすべホッペは赤くなってるし 目元はうるうるだし 唇はさっきまで噛み締めてたせいか紅く艶っぽいし 汗で数筋 張り付いてる髪の毛ってのも……」 「も、もういいっ!言うなっ!!聞きたくないっ」 「…どこがって言われたから説明してあげてたのに…って理由で 納得頂けました?」 再度抱きかかえてこようとするハボックの腕を、何とかとどめた ロイは、ハボックの背中側に周りピタリと額を押しつけた。 「大佐?」 「こうやって…顔を隠していくから」 少し苦しい体勢にはなるが、振り返ったハボックの目に俯いて 寄り添うロイの黒髪が写る。 ――これはこれで、…ツボかも。 「じゃ 具合悪いってコトにしますから顔上げないで下さいね」 幸い休憩時間から外れていたためか、廊下に人通りはほとんど 無く、通り過ぎる者も具合の悪い同僚辺りを抱えた少尉が移動中 なのだろうと察するのか、通りすがっても目礼を寄越すのみで 不審がられている様子はない。 だが、さすがに昼食から帰ってきたと思わしきブレダは行き過 ぎる際にハボックに寄りかかるように歩くロイの姿を認め、足を 止めた。 「大佐…?具合悪いんですか」 「あっ…えーっと 日射病!大佐がちょっと外で訓練兵の相手を してやってて…具合が悪くなっちゃったんで体冷やそうかと… 大したことはねえんだっ!」 割って入ったハボックの顔をまじまじと見詰めたブレダは、大きく 頷き、ロイが顔を隠している方の肩をポンと叩いた。 「ああ解った だけどなハボ他の奴らに会う前に他の言い訳考え ておけ」 「へ?」 「今日は曇天でしかもこの秋最高の冷え込みだ …俺は予定が あるからな お前らの残業には付きあわねえぞ」 「じゃっ」と手をかざしてスタスタと歩いていったブレダを見送る ハボックは、背中を強い力で抓られたのを感じた。 「バカッ!バカ犬!…もっとマシな言い訳考えろバカバカッ」 「…なんか大佐がこんな風に言ってくれるって 可愛くて嬉しい かも」 笑いを含んだハボックの声に、ロイがぼそりと呟き返した。 「覚えてろ いつか…お前にヤキモチ妬かせてやる」 「…勘弁してください 俺は普段からアンタの周りにいる人に嫉妬 してしょうがないんスから そんな事言うんでしたら今から姫抱っこ でかかえてきます」 「……バカ犬…」 「バカだけどご主人様に忠実っスよ …棄てないで下さいね大佐」 「…そんなことを聞いてくるから莫迦だと言うんだ…捨てるとすれば 私がお前をでなく お前が、私をだ」 「それだけは絶対ありませんって」 切なさが少し混じったロイの声を、どうしようもなく嬉しいと思って しまう自分の気持ちはかなり危ないと思いつつ、周囲に人気が無い のを確認して、ハボックは体を反転させロイをそっと抱き締めた。 |