| チビにゃんぐ大佐の食事の心配は、好物ばかりに偏る事だ。 とはいっても、それは全て本人が悪い訳ではなくて食べてる姿が和むと いう理由で、食堂付近を歩いていると悉くに「プリンがあまっている」だの 「ババロア苦手なんで良かったら」「コーンスープお好きでしたよね?」 などと大佐の好物ばかりが回されてきてしまうからだ。 確かにプリンを幸せそうに食べている、マスニャング大佐の姿は可愛 いし癒される。 だけど、朝食がバナナミルクにメイプルシロップホットケーキ・昼食が 桃のゼリーと桃シフォンケーキで夕飯がチョコレートケーキとロイヤル ミルクティーって……オエッ羅列しているだけで、気持ち悪くなってきた。 「大佐はアジとかヒラメも好きなんでしょっ こんな甘いモンばっかり 喰ってちゃいけませんっ!」 幸せそうにフォークを構え、ニコニコ皿の前に座っている大佐から、 ケーキを取り上げるのは気が引けるがこんな食生活は見逃せない。 「にゃっ!?ワンッ何をする返せっ!」 「今言った通りです 魚とか肉とかも喰ってくださいそしたらその後で こっちを食べても構いません 大佐お魚好きじゃないスか」 「アジもヒラメもウツボもナポレオンフィッシュも好きだ!でもクリームは もっと好きなんにゃーっ!返せーーっ」 ――喰うのか、ウツボやナポレオンフィッシュ。 あの独特のフォルムを脳裏で思い出している俺の足に、ズボンに爪を 伸ばした大佐が布にツメを引っ掛けながら皿を目指し昇ってきた。 昇って来たは良いが、そのまま腰の辺りで固まっているのは自分でも その先どうしたらいいのか、困っているからだろう。 「そうだ 大佐ちょうどいいやこの前流れた賭けをやりましょうか」 「賭け?」 「そう俺が負けたら料理とかしますってやつ 俺がこのケーキ持って 一時間逃げ切れたら俺の勝ち 失敗したら大佐の勝ちってことで」 腰にしがみついたまま、考え込んでいる様子は脈略ありだ。トドメと ばかり駄目押しで 「俺 ケーキとかプリンも作れるようになったんですよねー大佐が食べ たい時にすぐ作れるって便利だと思うけどなー」なんて独り言めいて 呟けば大佐はすぐに「やるぞっ!」の返事。 犬同士のやりとりならば、高い位置に皿を置いて下を見張ってりゃ いいけれど、縦の動きに強い猫相手である場合やっぱ自分でガードして いた方がいいだろう。 ソファに座った俺がこれみよがしに頭上にケーキ皿を乗せているのを、 大佐は足元でウロウロと狙っている。 我ながら間抜けなポーズだと思うけれど、大佐が横から回り込もうと しても腕を伸ばせば抱え込めるし、足から上ってきたら両手でキャッチ できるしで見た目よりは機動性重視ということで。 斜め上の戸棚から俺に目掛けて飛んできたときは、ひょいとかわすだけ で難なく避けられたんだけど……あれ、成功しても大佐の顔がケーキ 塗れになるだけじゃなかろうか。 俺が雑誌を読んでいるのに熱中していると思うのか、そぉっとソファ の後ろから上ってこようとしてるのも微笑ましいが、…俺の背中にしが みついてきたんじゃ、気付くなと言う方が無理だろう。 そんなこんなであと10分。企みがある俺はその後をどうやって切り 出そうかと悩んでいたら、くるぶし辺りをソファ下からたしたし叩く肉球 の感触。多分俺が無意識に鼻歌歌って、リズムを取っていたからその 動きに反応したのだろう。 たしたしも気にはなるけれど、屈むには皿が邪魔なので適当に爪先で 大佐の体のラインを辿ってあしらってたら、今度はがしっと足首に両掌 でしがみついてくる。 フローリングだし元々軽い体重だしで、足を前に伸ばせば大佐は容易に ズルズル床上を滑りついて姿を現してきた。しばらく足を左右に振って 大佐を引き擦って遊んでいたら、どうやらそれがお気に召したらしい。 「もっとだ」と首をスリスリさせてきたお言葉に従って、大佐転がしで 遊んでいれば、あっという間にあと一分。 「おっと」 俺はバランスが崩れたフリをして、屈んだ状態でケーキ皿を手に受け 止め持ち替える。 「にゃっ!取ったぁぁ」 さすがに俊敏さと状況能力判断は大したものだ。目敏く俺の動作を気取 った大佐は、じゃれていた足首から瞬時に離れ無事ケーキ皿をゲット してみせた。 「どうだ ワンッ私の勝ちだぞ!」 尻尾をピーンと立てて、誇らしげに皿を両手で掲げる大佐が可愛くて 俺も尻尾を振って拍手をした。 「おおっ 流石っスね大佐!」 「えへん そうだろう私は凄いんだ」 既に齧り付いているケーキのチョコクリームを鼻に乗せ、すごいんだも 何もあったもんじゃないと思うが、俺はうんうんと同意を返す。 さて、ここからが俺的本題だ。 「で大佐 俺の負けだから明日から朝飯作りますよ 何か喰いたいモン あります?」 「…ホットチョコレートのぬるいやつ」 「じゃあそれに合わせてメニュー作りますね」 それは「食べる」の定義になるのだろうかという猫舌大佐のリクエスト への疑問は心の底で押し潰し、それに見合う野菜肉魚のメニューを考え るのは、元々俺は負けるが前提の賭けのつもりだったからだ。 これで大佐に三食バランスご飯を取ってもらえるぞと、内心でガッツ ポーズを取る俺は、野良だった自分はメシなんて食えりゃいいと思って いたのになと少しおかしくなった。 ケプッと小さくげっぷをしている大佐の両脇を掬って抱き上げ顔を 突き合わせ「クリームついてますよ」とその鼻先をぺろりと舐めつつ 俺は、『負けるが勝ち』の言葉の意味を噛みしめていた。 *************** 終了といった翌日にオマケ追加という当たりで私のいい加減さは計れると思えますが Rょう様がちびをお持ち帰りしたいと仰ってくださったのでオマケ書いてみました |