逢瀬の時 

 彼女と初めて逢ったのは、僕が17才の時だった。

 あの頃の僕はおぼえたてのバイクに夢中だった。その夜も、連日の暑さにかき立てられるかのようにバイクで走り回り、そしてここで彼女に出会ったのだ。

 僕は今年もこの場所で、彼女が来るのを待っている。

 外灯もない小さな交差点は薄暗く、少し曲がったミラーが申し訳なさそうに立っている。あの時とそっくり同じだった。彼女が現れたのは交差点の角だった。明かりもないのに、そこだけぼおっと明るくなったのを覚えている。彼女の現れ方があまりに急だったので、ぼくは危うく事故を起こすところだった。

───待った?

 彼女の声が耳元でした。僕はゆっくり振り返る。そこに出会ったときと何一つ変わらない彼女がいた。

「待ったよ。1年もね」

 僕は彼女を抱きしめた。

 彼女はもう死んでいる。初めてあったとき、彼女はもうこの世にはいなかった。それでも、僕は恋をした。暗闇の中、ぼんやりと白い彼女を見たときに感じた、背中を突き抜けるような一目惚れの強い衝撃を、体がまだ覚えているのではないかと思う。

───会いたかったわ。

 彼女がこの世に来ることができるのは、一年に一度、お盆の時だけだ。365日のうち、たった一日だけ。それはあまりにせつなくて、それゆえに彼女への思いも募っていった。

 17才の時にここで死んだのだという。ちょうど今の僕と同じ歳だ。何年も何年も会っているのに、彼女はまるで変わらない。だから、1年ぶりに会っても、僕の彼女への気持ちも変わらない。

 彼女に会いたくて会いたくて、残りの364日をどう過ごしているのかさえ、よく覚えていない。だた、僕は死んだように彼女のいない時をやり過ごすのだ。

「会いたかった」

 彼女が僕の方に頬をつける。ひんやりとしたその感覚を、どれほど恋しく思っていたことか。

 たった一日。そのために僕は1年を過ごすのだ。何年も、何年も、僕は一日を待ち続ける。何年も、なんねんも…なんね…ん…も……?

 僕はどうして、彼女と出会った時の17才のままなのだろう?

 僕は彼女を見つめた。
 彼女は僕を見て笑う。

───やっと気がついたのね。

 彼女は僕の頬にキスをした。

 僕は思いだした。急ブレーキの音、タイヤがアスファルトとこすれる音、そしてバイクがたたきつけられる音。僕はそれらを確かに聞いた。

───あなたは全然認めようとしないんだもの。
 彼女は立ちすくむ僕を抱きしめた。
───でもこれで、ずっと一緒にいられるのね。