=短過ぎて笑える=

何とはなしに書いた短い文。
何だか、マンネリ化した流れだったので消そうかと思ったのだけれど……。
一応載せておこうかなんて思い至る。貧乏根性。


=珈琲=

 「黒い。……いや、黒とは少し違う。赤茶を重ねたような色。
  これは一体何色といえばいいのかな」
 「なに?」
 「もともとさ。珈琲はどういったものなのか」
 「?」
 「いや、別段。珈琲の歴史を知りたいわけじゃないんだ。
  ただ、これは人に愛されて生まれたものなのかな?」
 「私は愛しているわ」
 「いや、うん。分かっているんだ。
  これは今現在愛されている。愛している人もいる。それは確かだよ。
  僕が言いたいのは、これは追加するように愛されるようになったものじゃないかな」
 「うーん。少し理解しにくい言い回しね」
 「えっと。つまり、人間が無条件に愛しているものじゃないのではないかと思うんだ」
 「えーと。それはつまり、特殊な嗜好の人間が好きになるものだといいたいのかな?」
 「そうそう。それだ。どうも僕は思考を表現する能力が少しばかり足りないようだ」
 「……ふふ。そうかもしれないね。でもその足りない分は私が補うわ」
 「その……。うん。君が僕の思考を凄く上手に汲み取ってくれるから感謝してる。
  それでさ、話を戻すんだけど……」
 「うん」
 「僕はさ。珈琲が苦手なんだ。これまで出された珈琲は飲んできたけどさ。
  君が珈琲を好きなのを知って。
  君が傷つくかもしれないと思って黙ってたんだけど……」
 「うん。まぁ。知ってたわ」
 「……知ってて、珈琲を出すなんて…」
 「ほら、私も嗜好を共有して欲しいのよ。
  私だけ上手に汲み取るってのもフェアじゃないもんね」
 「……」
 「…飲んでくれると嬉しいな。それに前に比べたら、拒絶反応はないでしょ?」
 「そうだけど……でも……」
 「ふぅ。私はもう一杯飲もうかな」
 「あのさ……それでさ。こんなに文句みたいなことを言っているのにさ。
  そうやって十分近く見ているだけで、取り上げようとしないのは何故?」
 「それは君が猫舌で、しかも私にぞっこんだから」
 「……」
 「正解?」
 「…くぁっ!!!!」
 「あーほらほら。カップを暖めてから淹れたから、まださめてなかったみたいだね。
  火傷対策の水は貴方の左のポットにいれておいたよ」
 「……」
 「えっと……もう一杯飲む?」
 「……今度はせめて砂糖とクリープ入れて…お願い。ブラックはまだ無理」



=自己暗示=

 朝一番の自己暗示。
私は年頃の少女らしく毎朝当たり前のごとく鏡に向かうのだけれど、その理由は髪のセットであり、洗顔の為であり、最近はあきらめもついて、チャームポイントになるのかもしれないと思えるようになってきたそばかすを睨む為であるのだけれど、朝に鏡の前での行為を一つに絞れというのなら、散々迷って決めた後後悔や、その理不尽な指示に恨み言を言うのだろうけど辛うじて答える事ができる。
それは私から私に向ける私だけのための言葉。

「私よ。いかな状況、いかな状態にあってもゆとりと余裕をもって、人が羨むほどに優雅たれ!!」
 その言葉は一体どこから来たのか、確か何か有名でない小説の、それも一言しかしゃべらないような脇役が言った言葉であったと記憶している。
別段小説を読んでいるときに私の心に届いた言葉というわけではない。
ただ、ふと思い出した台詞なのだ。
その前日にひどく不快で悲しい事があった日、どうしようもなく自分が嫌いになりそうになった翌日。
朝鏡の前に立ち、顔を洗って、目を開くとそこにいたのはどうにも救いようのないほどにだらしない顔があったのだ。
唇は半端に開き、目は心なしかうつろで、両手は胸の中ほどでふらふらしと、そして嫌でも目に付く頬のそばかす。
その全ての要素が鏡の向こうの人物を莫迦にしていたのだ。
それがどうしても許せなくて、鏡の向こうの莫迦に叫んでやったのがことの始まり。
今では叫ぶ事はないけれど、鏡の存在する朝になら欠かした事はない。

 それ以来その言葉は自然と目標になった。
今でも優雅である事とはどういうことか模索中であるのだけれど、なるべく日常の動作を丁寧に行えばそれに近づくのではないかと私はにらんでいる。
歩くときも足音をうるさくしない様に、進む道はまっすぐと、視線はなるべく前を向く。
食事のときも、さりげない作法を見せて、苦手なものを食べるときもそれを誰かに悟られないようにする事を目標としている。
かばんを開くときも、ノートに書き込むときも、鼻をかむときも、扇風機に当たるときも、いすから立ち上がるときも、買い物するときも、その時に私が意識できているときならば、丁寧である事を心がけている。
ただ、その丁寧である事の代償なのか、それとも私がまだまだ未熟なのか、動作が人よりも緩慢であるような気もする。
いや、きっとこれは私が丁寧な動作になれていないせいなのだろう。
いつか、機敏で丁寧な動作を身に着けるに違いないのだ。
そして、私が私自身に納得が出来たなら、その次の日の朝は鏡の向こうのあいつには言葉ではなくて笑顔を向けようと心に決めているのだ。

 そう、決して鈍くさいとか、万年半睡眠とか言う不名誉な字は一生のものではないはず。
人と同じようにスタートしてゴールが半テンポ遅れるのは明日には過去の出来事になっているかもしれないのだ。
そうだ、決して決して、このままのはずは無い。
私だって、好きで緩慢に動いているわけではない。
友人が私を「とろい」と評価しているときに悪意が無いのが救いで、むしろかわいい所だといってくれるのは悲しくも嬉しいのだけれど、私はどうにか脱却したい。
ゆとりと余裕を持って優雅で機敏に動く事が目標なのだから!! 

「……私よ。いかな状況、いかな状態にあってもゆとりと余裕を持って、人が羨むほどに優雅で、尚且つ機敏に、俊敏に、素早く。そして優雅たれ!!」


おわり