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03月19日

民宿稲荷→42佛木寺→43明石寺→大洲ユース(愛媛県大洲市)39km


そうだ、写経をしよう

札所に着くと、たいていの人は納経所に行く。「納経」というのはすなわち、納経帳なる帳面もしくは白衣あるいは掛軸に、印と墨書きのサインをいただくことである。

なんて書くとスタンプラリーに聞こえるけれど、本来遍路はスタンプラリーではない。断じてない。

じゃあ、あの印とサインは何だ。あれは、納経の名が示すとおり、「あなたの写経を確かに預かりました」という印である。本来遍路というのは、札所に般若心経の写経を、納めてまわることになっているのだ。もっとも、納めなくても誰にもとがめられない。写経は納経所で差し出すのではなく、本堂と大師堂の前にある、写経奉納箱に入れてくるものだからだ。

いくつかの札所で、「スタンプラリーにあらず」という張り紙を見かけた。本でも読んだ。そうだ、写経をしよう、と、決意した。43明石寺で、用紙を買った。コンビニで、サインペンを買った。あとは書くだけだ。

大洲ユースホステル

これまで何度か同宿となったSさんから、大洲に、いい感じのユースホステルがあると聞いた。遍路地図には載っていないもののとてもいいところであると。104で電話番号を問い合わせ、泊まることにした。

小学校を磨き上げたという、瀟洒な建物である。中も、学校の雰囲気を残しつつ、小学校にはありえないくらいつやつや光っている。置物の配置もさりげない。「きれいなところですねえ」

建物にも感心したけれど、ペアレントの奥さんにはもっと感心した。宇野千代からかどを削って50代くらいに設定したらあんな感じだろうか。着物を着てにこにこしていらっしゃった。お嬢様がそのまま大人になったらああいう感じになるのだろうか。おっとりしていて上品で、育ちのよさ、という言葉が太鼓判で押してあるような女性である。そういう女性を目指しているわけではないけれど、そういうのっていいな、と思った。

大洲郷土館ユースホステルのサイト

どうしてまわっているのですか

大洲ユースには、女子大生があと二人泊まっていた。一緒に旅をしているわけではないものの、いずれも自転車旅行である。夕飯を食べながら、しばらく話をした。

「どうしてお遍路なんかしているんですか」

「だよねえ、気になるよねえ、そろそろ、聞いた人を納得させるような、簡潔明瞭な答えを用意しとかなきゃいけないよね」誰でも納得できるようなはっきりした答えが、見つからないのだ。「じゃあ、どうして四国を自転車で回ってるの?」

「あたしもそれ、わかんないです。自転車部でもないのに、どうしてだろう。」

本来、遍路には、巡拝の理由を聞いてはならないとされている。どんなに深刻な理由で回っているか、分からないからだ。初対面でする話ではない気もする。

私の回っている理由は──、「行かなきゃいけないような気がして」が、いちばんしっくりくるかもしれない。


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