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03月12日

民宿司→37岩本寺(高知県高岡郡窪川町)34km


長さ996メートルの焼坂トンネル

遍路道には、トンネルを通るか峠を通るか、という選択をしなければならない場所がいくつかある。

ほとんどの場合、トンネルを通ったほうが早い。しかし、トンネルは、暗いし危ないしなにより怖い。峠は、静かで歴史があって楽しいけれど、時間がかかるし疲れる。どちらを通るか、悩むところである。

さて今日は、焼坂峠を越えるか、国道56号線上の焼坂トンネルを越えるかという選択を迫られた。峠は200メートル以上登ってまた降らねばならない。そんなところを通っていては37岩本寺に、5時までに着かなくなる可能性がある、というわけで、私は焼坂トンネルを通った。

このトンネルが、996メートルだけあってたいへん長い。曲がっているので出口が見えない。国道のため交通量はたいへん多い。換気扇の音が中で共鳴するのか、ぐわーんとすさまじい音がする。トンネル中にいた約15分間を、ものすごく長く感じた。

よく着いたね

昼過ぎ、影野のあたりで、作業服姿の若い男性に話しかけられた。「今朝はどこから?」と聞かれて一瞬、返事に詰まる。危うく、清滝寺の下(喜久屋のあるところ)から、と答えるところだった。それでは、朝から、50キロ以上も歩いたことになってしまう。喜久屋ではなくて司、多ノ郷駅の近くである。

なにも考えずに歩くことができるようになったと、喜ぶべきなのか。それとも、ぼんやりしすぎだと、心配するべきなのか。

それはともかく、午後遅くになって窪川のショッピングセンター近くを通ったとき、「よく着いたねー!」と声がした。見ると、先ほどの、作業服姿の男性であった。手を振っていた。「着きましたよー!」わたしも、大きく手を振った。

気持ちがとても、温かくなった。あとちょっとで寺に着くぞと、先を急いだ。

歩いているって、見てわかりますか

37岩本寺の納経所で、納経帳を差し出した。座っていた尼さんらしき人が、「歩いている人は、顔を見ればわかります」と言った。

「疲れきってるからですかね」

「そういうわけではないんですよ。やっぱり、車や自転車に比べて、歩くというのはたいへんでしょう。着いた!って感じのお顔をなさってます。毎日ここに座って、訪れる方の顔を見ていると、なんとなくわかるようになるものですよ」

認められたような気がした。車で回っても自転車で回ってもいい。でも、歩くことでなにか違うものが得られているとしたらいいなあとも、思う。歩くことでなにか得られるのではないかという期待は、やはり、ある。 そして、私が、ぱっと見にも歩き遍路らしくなってきたのだとしたら、それも嬉しいことだ。

幸せな気分で、5時を過ぎた境内にお参りに向かった。

歩き遍路の罠

今日は、岩本寺のユースホステルに泊まる。ユースホステルといっても、部屋が相部屋であることくらいで、後は宿坊と同じ待遇である。夕ご飯のメニューも、同じ。

食堂で夕ご飯を食べながら、そこにいた数人のお遍路さんたちと話をした。一つの宿で見た人数としては、これまでで最大であったかもしれない。10人を超えていた。

話をしているうちに、歩き遍路が競争してしまいがちなポイントがいくつか見えてきた。「速く回るほうが偉い」「何度も回るほうが偉い」「通し打ちのほうが偉い」「野宿のほうが偉い」「完全徒歩のほうが偉い」……私もついつい、引きこまれそうになる。勝った負けたと、一喜一憂してしまう。

でもそれはなにかが違う。特に、回るスピードなんて全然関係ないはずだ。そんなに速く回りたいなら、ヘリコプターで回ればいい。

遍路は、徒競走ではないのだ。


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