| フランツ・カフカ |
| 変身 | ||
あある朝、グレゴール・ザムザがなにか気がかりな夢から目を覚ますと、自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した。 これはあまりにも有名で、そしてあまりにも衝撃的な物語の書き出し。『ある朝目覚めたら自分が巨大な虫に変わっている』という、この奇妙で不思議な『変身』によって、家族と自分、外界と内的世界、日常と非日常、自由と束縛という対比構造が物語中に見事に浮かび上がってくる。 非現実的な物語設定でありながらも、この物語を支配しているのは不思議なほど現実的な不安感。そしてこの奇妙な変身劇を見つめる、あまりにも冷静な報告調の文体。そこがまたこの作品の魅力となっていると思う。この作品を読んで気持ち悪いって思う人もいるかもしれないけど、僕はこの作品がカフカ入門書として最適な作品だと思うのだけど・・・。 (2003/2/8) |
| 審判 | ||
銀行の業務主任ヨーゼフ・Kは突然逮捕される。だが罪状はまったく明らかにされない。自分がいったい何の罪で告訴されたのかわからないまま、ヨーゼフ・Kは無罪を勝ち得ようと奔走するのだけど、法廷に出ても弁護士を頼んでも、裁判所という不可解な組織についてはけっきょく何もわからず、ますます不可解な状況に陥ってゆく・・・。「城」「アメリカ」と長編三部作をなす未完の傑作。 けして終わることのない不可解な問答の繰り返しという、いかにもカフカが書いたカフカらしい作品というか・・・。たぶん嫌いな人はとことん嫌いだろうな・・・。僕は大好きなんだけど・・・。作品を支配する圧倒的な不安感、そしてカフカ独特のユーモア。カフカというフィルターを通して見える世界はあまりにも歪んだ不可解な世界であって、そして悲しいことにあまりにも現実的な世界に思えてくる・・・。 『審判』は完全に成功した作品だと、ぼくは言える。(カミュ「シーシュポスの神話」より) (2002/12/29) |
| 城 | ||
Kは「城」から仕事を依頼された測量士で、ある冬の夜、「城」の近くの村にたどり着く。ところが、「城」からは何の連絡もなく、村人に「城」への道をたずねても教えてくれない。「城」は存在するのにKはどうしてもそこにたどり着けない・・・。 個人的にはカフカは短編向きの作家のように感じていますが、カフカの生前に発表されなかった長編――未発表のものは遺著管理人に発表せず燃やしてくれと頼んでいた――は未完成であるがゆえになんだかいっそうシュールさが増していておもしろい。 この本を読んでいると、終りのない(もしくはスタートとゴールがつながっている輪のような)迷路の中をさまようような不思議な感じを受けます。このような『文学的迷路』とは何なのか?『城』とはいったい何なのか?象徴や比喩といった意味で考えすぎるといっそう混乱するので、あまり考えない方がいいでしょう(笑)。 |
| アメリカ | ||
年上の女に誘惑されたばかりに、両親にやっかいばらいされたカール少年は故国ドイツを追われる。アメリカへと行く船の中、ニューヨークに住む伯父と出会い・・・。 「失踪者」というタイトルでもおなじみの作品。「カフカ短編集」に収録の「火夫」がこの作品の第1章となっており――この部分のみ独立した短編として刊行されフォンターネ文学賞を受賞している――本作「アメリカ」では、「火夫」を含めそれ以後のカール少年の物語が描かれている。 これまで読んできたカフカ長編作品に比べると、山あり谷ありと、物語としての筋もきちんとしていて非常に読みやすい作品だと思う。もっとわかりやすくいえば、ディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」風な作品とイメージしていただいてもいいかと――実際カフカはディケンズを意識してこの作品を書いたらしい。そうした点で、この作品はあまりカフカらしくない作品といえるかもしれないけど、ディケンズ好きでもある僕としてはもちろんたのしく読まさせてもらいました。 ただひとつ、「城」などのいわゆるカフカらしい作品では未完であることがかえってよかったという一面があったのだけど、この作品の場合は未完であることに欲求不満を感じるというか、もっと続きが読みたいという気持ちになるかなぁ。良くも悪くも。 「ディケンズは、私の愛する作家の一人です。ある時期のあいだ、彼が私が到達しようと努力して、はたさなかった手本でした。君の好きなカール・ロスマンは、ディヴィッド・コッパフィールドや、オリヴァー・トウィストの遠い親戚なんですよ」(カフカ) (2003/1/12) |
| カフカ短編集 | ||
訳者の池内紀さんは「カフカの作品は見る位置によって形を変えるだまし絵とそっくりだ」と解説でおっしゃっているが、まさしくそのとおりで、カフカの作品は単純におもしろく読める物語でありながらも、ふと違った角度から読んでみると、いくつもの違った側面が見えてくる。収録されている作品はどれもすばらしいが、とりわけ僕がすきなのは以下の5編。 「掟の門」 田舎から来た一人の男が掟の門を通ろうとする。しかし、そこには門番が立っており、「入れてくれ」と頼んでも「今はだめだ」と中に入れてくれない・・・。 カフカらしい堂々巡りのループ感がある作品。ちなみにこの作品は長編「審判」の作中にも挿入されており、そこではこの話に対するいくとおりもの解釈も繰り広げられている。 「判決」 不遇の友人に対して、自分の婚約を知らせる手紙を書こうかどうか迷うゲオルグ。そのことを父に相談するべく、何ヶ月も足を踏み入れていない父の部屋に入るが・・・。 カフカの代表作のひとつ。まさにカフカならではのだまし絵的な作品。はたして父とゲオルグのどちらが正しいのか・・・。 「田舎医者」 10マイル離れたところに住む重病患者の往診に行かなければならない田舎医者。しかし彼の馬は昨夜死んでしまった。数年来ほったらかしていた豚小屋を見ると、いるはずもない立派な馬と一人の馬丁がうずくまっており・・・。 作中人物たちの強い想念みたいなものが、物語をより幻想的かつ不可思議な雰囲気にしている作品。 「流刑地にて」 学術調査の旅行家は死刑執行の立会いに招かれる。そこで、一人の将校が彼に向かって死刑執行用の機械に対する特別な思い入れを語りだす・・・。 村上春樹の「海辺のカフカ」の作中でふれられていた作品。このような人を処刑するシステムとはいったい・・・。 「火夫」 16歳の少年カール・ロスマンは両親にアメリカへとやられる。船はニューヨーク港へと入り、船客が次々と降りていく中、忘れた傘を取りに少年は船室へと戻ってゆく。船の中で道に迷っている最中、少年は一人の火夫と出会い・・・。 「アメリカ」の第一章にもなっている作品。こういう作品もかけたのかと、カフカにしては異色な作品のように思う。 (2002/11/5) |
| カフカ寓話集 | ||
訳者の池内紀さん功績も大きいかと思うが、カフカの中短編は意外と(?)読みやすい。長編もいいけど、やはりこの作品集に収められているような中短編クラスの作品がカフカの本分なのかなぁと思う。ちなみにこの作品集は『カフカ寓話集』と名づけられているが、『寓話』という点にはあまり意味がなく、普通の短編集と捉えていいと思う――もともとカフカの書く作品は寓話的だと思うし。 「ある学会の報告」 かつて猿だったという男が、猿から人間へと転進した経緯を、学会にて報告する・・・。 「自由」と「出口」という二つのキーワードの対比が興味深い。 「巣穴」 ある虫(?)がひたすら巣穴をつくり続けるお話。 この「カフカ寓話集」に収められた作品は、ショートショートともいえる短い作品がほとんどなのだけど、この「巣穴」は中篇作品といってもいいだろう。外界に対する不安感がいかにもカフカ的といえる作品だと思う。 「小さな女」 私のそばには小さな女がいる。彼女はなぜか私が我慢ならないらしい。いつも私に不正な仕打ちを受けているとか、何であれカンにさわるらしい・・・。 はたしてこの「小さな女」とは何の象徴なのだろう。とにかく、作品全体がある種の不安感に包まれた、カフカらしい作品といえるかもしれない。 「断食芸人」 自らの断食芸に誇りを持つ断食芸人のお話。 なんとも不思議な魅力のある作品。ラストの監督と断食芸人との会話がみょうに心に残る。 (2003/1/19) |
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