地すべりの発生期

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地すべりの発生期


■ 地すべりが発生した時期

地すべり多発時代の提言
 津田ほか(1970)は、更新世末期から完新世初期に地すべりが多発したと指摘し、この時期を「地すべり多発時代」と呼びました。
 そして植村(1982)は次のように指摘しています。自然に発生する多くの地すべりは積極的な斜面の形成期のものであろうと述べ、「わが国では、更新世に大地すべり時代があったという説がある。この時代は、現在の山地が急速に高度を増した時代であり、水の供給や風化条件などが適当であれば、大いにうなづける考えである。しかし、同様のことは、古い山地の形成時代についても想定することができるであろう。」

・古気候
 更新世末期から完新世初期、考古学でいえば、旧石器時代から縄文時代であります。このころの気候は考古学が明らかにしています。それによりますと、花粉分析などの結果から、今から2万年前には、氷河期の中でも特に寒冷な時期があったことが知られています。
 しかしその頃は、冬季の雪は少なかったようです。その頃は、対馬海流が日本海に流れ込まなかったために、日本海の表面水温が低下しました。その結果、「(海水面からの)蒸発量が減少し、それにともなって冬の降雪量も減少したことは予想されている。」(安田、2007)。
 また、松木(2007)は同じ趣旨のことを指摘した後で、続けて次のように述べています。その頃は「冬の雪が減り、太平洋側をやっとのことで北上する弱い黒潮に、夏の大雨をもたらす力はなかった。全体として寒く乾いた気候が列島をつつみこんでいた」。つまりそのころは寒冷ではあったが、乾燥していたというのです。

 日本海側で冬季に大雪になるのは、縄文早期(今からおよそ7,000年前)に対馬海流が日本海に流入してからであるといわれています。それ以降の寒冷期には、縄文寒冷期(縄文後期から弥生時代)のほか古墳寒冷期(弥生時代末期から古墳時代)、小氷河期(鎌倉時代から江戸時代)などがありました。これらの寒冷期には洪水が頻発していました。多雨豪雪であったのであります。

 そして、それらの寒冷期の前や間には、穏やかな気候の時代がありました。縄文温暖期(縄文草創期から前期)や弥生温暖期(弥生時代後期)そして中世温暖期(奈良時代末期から平安時代、鎌倉時代初期)などです。

・地すべり発生期
 縄文寒冷期以降の寒冷期は、氷河期とは違って、多雨豪雪であったのですから、水が十分に供給されていたことになります。あとは、岩石の風化条件さえ合えば、地すべりが発生しやすかったということになります。
 岩石の風化は、ここでの風化は主に化学反応ですから、温度が高い方が、つまり温暖期の方が進みます。また、岩石の風化には時間がかかります。地質つまり岩盤の物性が同じであれば、ちょっと乱暴な言い方ですが、現在の山地の斜面が形成されてから時間が経つほど、風化している。いいかえれば、多くの地すべりが発生しやすいといえます。

 したがいまして、たくさんの地すべりが発生した時期は、温暖期で岩石の風化が進んだ後に、寒冷期で多量の水が供給された時期であることになります。温暖期に続く寒冷期(多雨期)に地すべりが発生しやすくなります。小氷河期など新しい時代の寒冷期にこそ、多くの地すべりが発生していたのではないでしょうか。
 事実、縄文寒冷期や古墳寒冷期に発生した地すべりがありますし、とくに小氷河期以降に多くの地すべりが発生していました(布施、2009)。(「地すべり」(「地すべり」ページ)の「(5)水梨地すべり」項を参照してください)

 古墳寒冷期に発生した地すべりの例には、新潟県十日町市藤倉中坪の小規模な地すべりがあります(布施、未発表a)。その地すべりは今からおよそ1,600年前(古墳時代)に発生しました。

 地すべりは、温暖期に続く多雨期に発生しやすくなります(布施、未発表b)


引用文献
植村 武(1982):地すべりの理学―地すべりをどう観るか―、アーバンクボタ、(株)クボ
   タ、no.20、pp.52-55
津田禾粒・岩永 伸・永田 聡(1970);「地すべり多発時代」の提言(演旨)、地すべり学
   会第9回研究発表会および地すべり予測シンポジウム研究発表要旨、p.2
布施 弘(2009):十日町市水梨地すべり地の地形発達史と地すべり―地すべりの集中
   発生時期―、新潟応用地質研究会誌、no.72、pp.75-90
布施 弘(未発表a):十日町市松之山藤倉中坪・橋詰地域の地形発達史と地すべり(仮
   題)
布施 弘(未発表b):十日町市松之山近傍の地形発達史と地すべり―千枚田緩斜面の   形成史―(仮題)
松木武彦(2007):日本の歴史、第1巻、列島創世記、(株)小学館、pp.42-43
安田喜憲(2007):環境考古学事始、洋泉社、p.76